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フーマニタの女神

大臣たちに聞いた、『魔王』と『勇者』の話。

今ではセレステの職員になっているピグレットたちを、亡国の流民にしてた張本人。

そして今、メインフレームから聞いた、ドワーベンの侵略と迫害の歴史。


「…その上、召喚勇者か。

 まったく、どういう世界なんだ、ここって。

 しかも、その勇者召喚を…

 フーマニタ以外の種族は、その術を知っているのかな?」


そう言ってノルガーに視線を向けると、ノルガーはビクっとした。


「ぼ、ぼくに聞いてもな…

 そんな術があると聞いたことはないけど――

 僕は魔術や法術に詳しいわけではないからな。

 フェリデリアにないだけで、他の国には伝わっているかもしれないし」


それも、そうだった。

セレステが地球の技術に関しては一般教養程度しか分からないように、ノルガーも魔術については教養レベルでしか習っていない。

ユーレでもいてくれたら…と思ったけど、いきなり彼に聞きに行くのもできない。

今や電気公社の研究責任者として忙しい身である上に――


『アドリエ嬢と、いちゃいちゃしているかもな…

 まったく、魔術教師と弟子だったのがいつの間に!』


それに、フーマニタ以外には伝わっていない術だったら、彼に聞いても無駄なんだろう。

だったら、残るはラガマダ――


「あ?待てよ。

 メインフレーム殿、その…

 あなた方がウーバーガストと思っているやつを1体、呼び出したいんですが」


「こ、ここにですか?」


目に見えて…と言いたいぐらい、表情など区別できるはずもない金色の球体なのに、なぜか慌てていることが伝わってくる。


「ああ…ご心配なく。

 ちゃんと制御しますからね。

 ヤルデマラセナの奴のように、勝手な行動はさせません。

 ……たぶん」


「アインガストの御意志なら、私たちとしては拒めるはずもありませんが…

 お言葉ですが、どうしてウーバーガストを?」


まだ自分を『アインガスト』と呼んでいることが気になるセレステだったが、すでに好きにしなさいって言ってしまったので、それを止めることもできない。

ここはとにかく、緊張しないように安心させるしかない。

……たとえ、それが言いくるめることになるとしても。


「ああ、ご心配いりませんよ。

 その『召喚』という術のことを知っていそうなやつがいます。

 そいつを呼び出して、聞いてみるだけ。

 余計なことはさせませんからね。約束します」


メインフレームとしては、召喚勇者のことなど、どうでもよかった。

ただ、ドワーベンが何をされて来たかを聞いてもらいたかっただけ。

そして、セレステたちは何を求めてここに来たのか聞きたかっただけ。

だから、自分たちがフーマニタに何をされてきたのかを説明しようとしたが…

何故か、セレステが勝手に話を進め、あろうことかウーバーガストを呼び出すと言っていた。

これではまずい、と思ったメインフレームは、せめて一つだけは答えてもらわなければ、と思った。


「御心のままに…

 しかし、その前に一つだけ、質問していいでしょうか?」


「はい、何でしょう?」


「最初は私たちがフーマニタに何をされたかを申し上げたいと思いましたけど…

 どういうことか、大体お気づきのようでした。

 その上で、質問させていただきます。

 『いいお隣になれると思いますか』と仰いましたが…

 それはどのような関係でしょうか?

 フーマニタのように、私たちを資源としか見ていないのでは?」


その質問に、セレステは一瞬驚いた顔をしたが、すぐ真面目な表情になって答えた。


「まさか。

 あんな野蛮な連中と一緒にしないでいただきたいところですね。

 あいつらに虐殺されていたピグレットの生き残りが、今私の領民…いや、職員になっています。

 アンテロも、エイヴィアも、ラプティもあなた方をそんな目で見ることはないでしょう。

 いや、もしそんな連中がいても…

 少なくとも、フェリデリア、ケイレス、バリアーダの三国だけでもですね。

 そんな輩が出ないように取り計らいます。

 少なくとも、三国の王にそう要請できるぐらいの力は持っていますから。

 本当に、あなた方の存在を確認し、出来れば交流に繋ぐ足場を。

 それしか、考えていません。

 なあ?王子様」


「あ?あ、ああ。

 その通りだ。

 私たちは、種は違うとはいえ、知性生命体を食料や資源だとは思ってはいない。

 それだけは、フェリデリア王国、王弟の名にかけて約束できる。

 この親父だって、こんな頼りないおじさんに見えてもな、結構影響力のある御仁だ。

 私たち二人で、あなた方が不当な扱いを受けないよう約束しよう」


『頼りないおじさん、といっているが…

 そのおじさんが、この場で一番恐ろしい存在だと判断していますが』


そう考えたが、さすがにメインフレームも、それを口外しない程度には空気が読める。


「かしこまりました。

 そのお言葉、信じさせていただきましょう。

 …よろしくお願いします。

 では、どうぞ」


「あ、はい。

 おい、ラガネ――」


「はあああい♡

 お待たせしました、マイロード!」


 ‐ ピタッ


「勝手にくっつくな!

 この尻軽めが…」


「あはん♡」


透けとおる小さな龍の姿をしたラガネマパイサがいきなり現れ、セレステの首筋にまとわりつく光景を目の当たりにしたメインフレームは、今度は本当に、誰の目にも分かるほど動揺した。


『いま、震えたな?』


『だよな』


ガタガタ震えている、と言いたいところだが、空中に浮いているのでメインフレームの球体は『振動して』いた。

あのままでは、ひょっとしたら振動で自壊しないか心配だったので、セレステは早めに用件を済ませてラガネマパイサを戻らせることにした。


「多分聞いていたと思うけどな。

 魔術と法術の根源を司るお前に、聞きたいことがある。

 あの『勇者召喚』の術って、フーマニタ以外の種族にもあるか?」


「いいえ、ありません。

 そもそも、あんな不完全で汚い術など…」


「「え?」」


他の種族にはないだろうということは、薄々予想していた。

だが、『不完全で汚い』術とは、とんだ暴言だった。


「不完全?実際に勇者が召喚されているようだが?」


「成功率、6割を下回りますの、あれ」


「……は?」


「成功した6割だって…

 生きたままで召喚できる保証などありませんし」


「…はああ?」


「生命活動を終了した、とか…

 パーツ欠損を起こした、とか…

 原型を取り留めていない、とか…

 …組み立てられない、とか…」


「うっぷ」


聞いているだけで、吐き出しそうになる話だった。


「いや、だったら『使える状態で』召喚できるのは?」


「3割以下です。

 それだって、精神に異常を来す確率が高いですけど」


セレステは、本当に吐き出したいと思っていた。

こんなことを平然とやってのけるフーマニタって、いったいどういう連中なんだ?


「それなのに、なぜ召喚など?

 そんな技術があれば、自分たちの兵士を改…鍛えれば済む話では?」


「それですけど…

 コスパの問題の様です」


「…は?」


「自分の兵士を改造するより、勇者を召喚した方が…

 特殊な能力が、付きやすいようです」


「まさか、いわゆる『召喚チート』?」


「ええ」


「…たかがそれだけのために、生きたまま召喚できるかの保証もない召喚を、繰り返す?」


「ガチャ感覚でしょう」


ぐらっ、とよろめくセレステを、ノルガ―が支えた。


「親父?大丈夫か?」


大丈夫じゃなかった。

怒りと、恐怖に近い当惑。

そして、フーマニタへの憎悪。

それが頭の中で渦巻き、今にも気を失いそうだった。


「…あんなことを、なぜ止めていない?

 不完全な術と言ったな。

 なら、あれも法術の領域…」


「マイロード!

 いくら責められるのが好きな私でも、それだけはいただけませんわ!

 あんな醜悪な術など…」


あのラガネマパイサが、本気で怒っている。

これは、尋常ではない。


「どういうことだ?」


「…申し訳ございませんでした。

 でも、あの連中のやることには…

 私たち姉弟は、本当に関わっていません。

 あれらにはあのビッチ…アシェラが」


「アシェラ?」


「フーマニタの『女神』のことです」


フーマニタの女神。

だから、アリメカリセスの姉弟とは犬猿の仲…


………?

待て、だったら、こいつら、神様…?

いや、そんなはずがない。

こんな連中が、神であるわけが…


「あんなビッチがめーがーみぃ?

 は!笑わせてくれますね。

 ちゃんとした術式も発動させられない、出来損ないのクセに」


「…知り合いか?」


「いいえ!

 あんな紛い物など…」


「紛い物?」


「…くわしくは、今では申し上げられません。

 でも、これだけは言えます。

 あれは、『あんなことしかできない』偽物です」


また、例の『いつか知るようになる』情報のようだった。

しかし、『女神』なのに『あんなことしかできない』偽物だとは。


「あんなことができるのに、か?」


「『世界渡りの術』を、お覚えでしょう?

 ラシオン陛下は、100年ぶりに行われた術でしたのに、無事地球にいらっしゃいました。

 なのに、フーマニタのくそ共はですね…

 成功率があんな底辺数値だから、ガチャ感覚で召喚しまくるのです。

 まったく、人間をなんだと思うのかな」


まさかラガネマパイサの話に同意する日が来るとは。

セレステは、自分でも驚いていた。


「フーマニタって、いったいどこで間違った連中なんだろう…

 あんな野蛮で、命をなんとも思えない連中が…

 『選ばれし種族』と自称して…

 自分たちだけで栄えようとする?

 なんなんだよもう」


なんだか、そんな種族をどこかで見たような気がしなくもないが…

気のせいだろう、とセレステは思った。

いくらなんでも、生きた人間でガチャを回し、知性種族を捕食し、解体して資源にする連中など…

他にまたいるはずがない。


「親父…

 なんだか、ぼくはほとんど分からない話だったけど…

 『ユウシャ』があんな…

 そんな話があって、いいのか?」


ノルガ―が、本当に気分が悪そうな顔でそう言った。

神という概念がないアンテロだから、何の話をしているのか理解できないのが普通だろうけど…

それでも、地球人を文字通り『消耗』して勇者を召喚しているなど、到底受け入れない話なんだろう。


「いいわけがないだろう。

 しかも、ラシオンやオディリーネ女王姉妹、ラガマダさんのような…

 いいヒトたちを暗殺しようと、あんな惨たらしい手段を動員するなんて…

 相容れない連中じゃない?」


最後のくだりは、普段のセレステの軽い口調に聞こえなくもなかった。

あざ笑うように、くちばしも上がっていた。

しかし、その目は全然笑っていない。

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