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召喚勇者

「その前に一つ、話を聞いていただけますか?」


交流を申し出たわけでもない。

ただ『いいお隣になれると思うか』と尋ねただけだ。

その問いに対し、想像もしなかった反応を見せたメインフレームは、しばらく沈黙した後――種族全体としての結論を述べる前に、突然こう切り出した。


「お話…ですか?

 どうぞ、お聞きしましょう」


セレステは、出来る限り穏やかな笑顔をしながら答えた。

メインフレームに視覚があるのか。

そもそも、ドワーベンはその笑顔をどう感じ取れるか。

それすら定かではないが、とにかくこちらに敵意はないとアピールするために。


「その前に、一つ。

 私たちのデータと比べてみました。

 あなたの…フーマニタとの合致率は、65%。

 フーマニタに近い種族である可能性は高いけど、確証はありません」


「え、そこまで?

 …不愉快だな、本当。

 でも、35%の誤差があるからフーマニタではないと、分かるでしょう?」


まだ見たことのないフーマニタに対して、セレステは嫌悪感を抱いていた。

愛する息子のラシオンを勝手に魔王呼ばわりしている。

ピグレットを、『オーク』と蔑んで、知性種族なのに捕食という悍ましい行為を行う。

あんな野蛮な連中と一緒にされるなんて、不愉快極まりない。


「そうだと思います。

 しかし…

 たまにフーマニタと同行していた、彼らの変種と思わしき個体…

 『ユウシャ』という種とは、80%に近い合致率が確認されています」


「……

 ………

 …………いま、なんと?

 勇者?」


「はい」


いつか、外務大臣から聞いた話が、蘇る。


『ははあ、もちろんそんなことはありませんけど…

 たまに、隣国から入ってくる情報によると、フーマニタの国からアンテロの国の指導層を狙い、暗殺者集団を送ってくるそうです』


『まったくです。

 しかし、その暗殺者をあやつらは…

 『ユウシャ』と呼んでいるそうで』


…あの暗殺者の『ユウシャ』と、80%合致。

ということは…


「念のため質問します。

 その勇者というやつと私との合致率って…

 外観の情報でしょう?

 背丈とか、肌や髪、虹彩の色とか?」


「はい。

 薄ピンクの肌に黄色の髪、灰色や青の虹彩が普通のフーマニタとは違い…

 『ユウシャ』種は、あなたのような明るい小麦色の肌に黒茶色の髪、茶色の虹彩。

 そして、背丈も、他のフーマニタより低い方でした」


それを聞いたセレステの顔が、急激に強張った。


「親父?」


「……まさかとは思ったけど…

 思ったより最悪な連中だな、フーマニタって」


「お、親父?」


前世と現世を通して、ノルガ―はここまで怒ったセレステの顔を、見たことがない。


「…何を仰る気か、それで大体わかりました。

 その勇者連中に、酷いことをされましたね?」


普段のセレステからは想像もできない、低く、冷たい口調。

ノルガ―が当惑していたが、メインフレームは淡々と答えるだけだった。


「酷いことですか…

 確かに、有機生物なら、そう感じられるでしょうね。

 私たちのセクターは…

 今は53個所になっていますけど、昔は100以上ありました」


「…フーマニタと、勇者の連中に奪われましたか?」


「はい」


「…こういう言い方をして申し訳ありませんが…

 当てさせていただきましょう。

 もしかしたら、あの連中はあなたたちのことを…

 ゴーレム、と呼んでいましたね?」


魔王、オーク、勇者。

ネタがこれだけあれば、推論するに不足はない。


「はい。

 意思疎通できる言語ではなかったんですが。

 残された音声記録を分析したところ、それが私たちのことを指していると」


「セクターのこと、『ダンジョン』と言ってもいましたね?」


「はい。

 …よく、ご存知ですね」


何を考えているか、まったく感じ取れないメインフレームの声。

だが、何の感情も感じ取れないということが、むしろ怖い。


「お、親父…

 どうして、分かるんだ?

 フーマニタになど、会ったことも…ないだろう?」


セレステもまた、感情のこもっていない口調で答えた。


「ああ、そうだ。

 会いたくもないと思っていた。

 だがな…

 お前はさっき、メインフレーム殿を…

 『コア』と呼んだんだろう?」


「え?

 あ、ああ…

 伝説にそう…」


「それな、たぶん…

 『ダンジョンコア』から転じた言葉だと思う。

 そうでしょう?メインフレーム殿?」


「はい。

 私たちと接触したフーマニタ集団は…

 対話には応じず、『ゴーレム』としか言わず、攻撃してきました。

 個体を破壊し、ガストのないその抜け殻を嬉々として持っていきました。

 そして、まるで獲物でも発見したかのように、大勢で押し寄せてきては――

 ここのような、深部まで降りてきて、手当たり次第に破壊しました。

 そして、私たちの身体の欠片と、動力源を略奪し、メインフレームの個体を盗み出しては…

 『ダンジョンコア』と」


「それは…

 とんだ災難、でしたな」


フーマニタによる、略奪と虐殺の歴史。

それが、100を超えていたセクターが、今の53個所に減少してしまうところまで繰り返されて来た。

それを聞いているだけで、ノルガ―は全身の毛が逆立つ気がした。


なのに、この二人はどうして…

こんなに、無感情で対話ができる?


ノルガ―が、そう疑問を持っている時だった。


‐ドサッ


急に、セレステが地面に膝をついた。

いや、両手と額まで、地面につけた。


「誠に申し訳ございませんでした」


「親父!?」


メインフレームも、当惑しているようだった。


「なぜ、あなたがあやまりますか?

 あなたは、フーマニタではないでしょう」


その反応に、セレステが頭を上げて、正座したまま答えた。


「もちろん、あんなクズ共と同じ種族とされたくありません。

 ですが…

 その『勇者』だけは、たぶん私と同じ地球人…

 しかも、日本人かと」


「「え?」」


今度は、ノルガ―とメインフレームの声が、見事にハモった。


「いや、親父?

 いきなりなんだよそれ?」


「……セレステ閣下?

 今何か、私たちのデータでは理解できない言葉を…」


ノルガ―も、メインフレームも、理解できない状況に当惑している。

ノルガ―は地球のことを分かっていても、ドワーベンは多分、知らない。


「そこからですか…

 なに、隠すようなことでもない。

 私は、この世界…この星の者ではありません」


「…はい?」


「空…宇宙の彼方、遥かな彼岸。

 地球という星から、ここに往来しているのです」


正確には惑星だけど、そんなことはどうでもいいだろう、とセレステは思った。


「…いきなりそのようなことを言われましても…

 と、言いたいところですが、ノルガ―殿下の反応を見る限り、真実のようですね」


「む?あ、ああ…

 事実だ。

 親父は、今の王室家族全員の前世の…

 お父さん、だった。

 だから、種族こそ違えど…」


「へえ~『お父さん』か~」


にやにや笑いながら自分の方を見るセレステに気づいて、ビクっとしたノルガ―が、かっとなって大声で言った。


「もう!

 謝罪しながらニヤニヤ笑うな!

 どっちか一つだけにしろよ!

 それより、王家の尊厳を考えろよ!

 軽々しく跪くな!」


と言いながら自分を立たせようとするノルガ―に、セレステは依然と笑いながら言った。


「こいつぅ、恥ずかしさを紛らわそうと怒り出して~

 それでこそ、私のかわいい次男坊だ~」


「うるさい!」


もう謝罪の雰囲気なんか台無しにしている二人に、メインフレームが混乱した声で話しかけた。


「いったいどういうことか、理解できませんが…

 とにかく、殿下のおっしゃる通り、立ち上がってください。

 あなたに謝罪してもらったら…

 後で収拾がつかなくなりそうな予測演算結果が出ました…」


たぶん、後でアリメカリセスか、その姉弟の誰かにコワイことをされるのでは――

などという予測演算結果が出たことは、決して言えない。


「これは失礼しました。

 …では、その『勇者』のことから説明するべきでしょうね。

 ノルガーも、大臣たちから情報を聞いていただろう?

 フーマニタの連中が送ってくる、暗殺者集団『勇者』のこと」


「ああ」


「魔王…勇者…

 ピグレットのことも、連中は『オーク』と呼んでいると聞いた。

 それに、さきほど確認できたのは、ドワーベンを『ゴーレム』と呼んでいること。

 これらの情報から導き出した結論だけど…

 フーマニタの連中は、なぜか地球のファンタジーの世界観で、この世界を認識している」


「なにそれ」


「要は、地球の作り話に出てくる言葉で、この世界のことを表現しているということだよ」


「なんで?」


「だから、それがわかったら苦労はしないって!」


「それと、閣下と勇者が同じ種族…

『チキュウ人』ということとはどんな関係があります?」


メインフレームの疑問も、妥当なものである。


「ああ、それがですね…

 その『ファンタジー』なる作り話に出てくる勇者にも、色々ありますよ。

 勇者になる経緯で分けると、覚醒、誕生、転生、召喚…

 …私に似た特徴を持つと仰ったから、たぶん召喚勇者だな、と。

 召喚勇者の中には、異様なほど日本人の比率が高いですよ」


…というか、ラノベの量が圧倒的に多いだけだけど。


「それで…」


「はい。

 たぶん、同族というか、同じ国出身。

 それでなくても、同じ星から来た者が…

 あなたたちへの侵略行為に加担していましたから。

 偽善に過ぎないかもしれませんが、

 謝罪しなければならないと思ったんです」


「そうですか」


淡々とそう答えたメインフレームに、セレステが慌てて付け加えた。


「あ、でもこれだけははっきりさせてください。

 この謝罪は、『地球人の天城大輝』としての謝罪です。

 『フェリデリアのレギス・バシ・オオテル・セレステ・パール』ではありません。

 図々しいようですが、これだけはお忘れなく。

 ノルガ―も、これでいいな?」


「あ?ああ…うん。

 でも、いきなりやらかしてから同意を求めるなよ!

 親父は王家の一員だ。

 軽々しく行動しちゃいけないことぐらい、分かっていると思ったのに」


「うん、ごめん」


「だから、謝るようなことをするな!」


真面目な話をしているのか、漫才をしているのか区別がつかない親子。

そんな二人を観察しながら、メインフレームはセレステの話に出てきた言葉のうち、まだ説明されていないものに疑問を抱いた。


「さっき、ショウカンユウシャと仰いましたね…

 何ですか、そのショウカンとは?」


「え…あ!

 そうか。その概念がないのか。

 ええと、法術…はお分かりですか?」


「なにか、有機生物が駆使する、物理法則を無視した…

 超常現象を操る技術…のことですか?

 名称までは、わかりませんでしたが」


「はい。

 その法術の中に、時空を超えた場所…

 例えば、私の住んでいる地球へ、転移するための法術があるようでした。

 あの法術で、フェリデリアのラシオン王陛下が私のもとにいらっしゃったんですが…

 たぶん、それの逆を行う法術や魔術を、フーマニタが使ったんでしょう」


その説明には、さすがにノルガ―も驚いていた。


「待てよ、兄上がチキュウに行くための法術って…

 百年に一度、しかも星の配列が重要な、大法術だったよ。

 なのに、フーマニタごときか、その逆を?」


「さあ?

 あの連中が何をしているのか、私だって分からないよ。

 ただ、召喚とはどんなものなのか、説明しているだけ」

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