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6千760万

「親父…」


キャンピングカーの前。

セレステとノルガーは、ぐったりとなって折り畳み式椅子に座っていた。

ずっと地下にいては閉所恐怖症になりそうだと適当なことを言って、風に当たってくると言ってゲートで出てきたのだ。

もちろん、ゲートでメインフレームのところに直接降りてきてもいいという確認をきちんともらって。


「…なんだ」


「ボクたちな…

 なんか、やばい連中に出会ってしまったのでは…?」


「王子様、その言葉遣いははしたのうございます。

 …でも、うん、私もそう思う」


はああ、と、ノルガーは溜息をついた。


「全国民…いや、国というには規模が小さい気がするけど。

 あそこにいるすべての民が…知識も、技術も、戦う技術も共有している…

 それに、殺されても死なず、他の身体に乗り移るだけで済むって…

 ぶっちゃけ、不滅の種族なのでは?」


その不滅性を、よりにもよってセレステが悟らせてあげたことを、二人は知らない。


「…しかも、そんなのがこの世界のいたるところに散らばっている。

 そのすべてがその力を共有して」


「…え?」


「さっき聞いただろう。

 53個所のセクターって」


「あ」


そこまで言って、セレステは声を小さくしてノルガーに耳打ちした。


「それに、殺すとかなんとか、敵対するような言葉は軽々しく言うな。

 どこで聞いているのか、分からない。

 あの金属のバタラ、覚えているだろう?」


「あ」


それを聞いて、ノルガーもしまった、と思った。


「それにだ…すごく気になることが…」


「なにが?」


「彼らの名前だけどね…

 もしかして、AA00000からZZ99999まで、もし一体も欠番がないなら…

 シュバデンケに繋がっているガストが、全部て何体いると思う?」


「え?

 それは…」


「6千760万体だよ」


「……………

 ええええええええええええ!?」


「あくまでも可能性の話だがね。

 一連番号だからって、全て同時に存在するわけでもないし。

 その中には、欠番となったのもあるだろう。

 そして、その数全員が戦闘用ボディをもっているわけでもないだろうし」


「だ、だよな?

 思ったより少ない可能性だって…」


「でも、A01の番号持ちでもいたら…」


「…なんだよまた」


「あの記号体系がな…

 最初から2文字と5桁、じゃなかった可能性もあるよ。

 最初は1文字2桁だったのが…

 だんだん増えて…

 1文字4桁…

 2文字3桁…

 で、今の2文字5桁にまで至った…

 もしかすると、もう3文字1桁の個体番号が存在しているかも…」


「こ、怖い話はやめろよ!」


「まあ、その全てがロボタタイプだという保証もないしな。

 さっき、ドームの中でボディを生産していた機械、見ただろう?」


「あ、ああ…

 何故か、機械が独りで動いていたけど…」


「…たぶん、あれもドワーベンだ」


「え」


工作機械という概念自体がまだ新しい、トゥシタの住民であるノルガーとしては、ロボタ・ドワーベンまでは、辛うじて生物と認識できる範囲だった。

しかし、ロボットと言えば、工場の工作機械こそロボットだと認識しているセレステとしては、ロボタもあのタイプも、同じドワーベンだと考えることに、なんの抵抗もなかった。

大体、あのメインフレーム自体、球体以外なんでもない形状をしていたから。


「つまり、あの地下空洞の中…

 自分で動いている機械は、全部ドワーベンだと思った方がいい。

 そのすべてに、ガストがあるっていうこともな」


「……」


ノルガーはもう、何も言えない気がした。

あれでは、他の種族にとっては究極の監視社会になるのでは?と思ったから。


「もちろん、普通の機械もあると思うけどな…

 そもそも、操作する必要もなく、自分で考えて働く機械って…

 最高じゃないか!」


「……おい」


怖い可能性をさんざん述べておいて、いきなりウキウキしているセレステに、ノルガーは呆れてしまった。


「親父さ、あんな連中が怖くもないか?

 何千年、何万年かもしれない経験をそのまま保存して来た上に!

 それが全然衰えず、新しい知識と技術を蓄積しているよ!」


「それがどうした?」


「………は?」


この親父は、ついにどうかしたのか。

それが心配になったノルガーに、セレステは静かに言った。


「お前の言う通り、怖い種族だ。

 でも、そんな彼らが、これまで歴史に出て来たことは?」


「…あ?」


「伝説の中でしか、聞いたことないだろう?

 それだけ、彼らは地下に隠遁して、静かに暮らして来たんだよ。

 その気になれば、有機生物などいとも簡単に支配できる力を持って」


そういえば、そうだった。

アンテロもエイヴィアも、いまよりずっと原始的な技術で暮らしていた時代。

彼らなら、その鋼の身体、その生身だけでも、有機生物の兵器など軽く弾けていたんだろう。


なのに、伝説の中にしか出ない。

しかも、彼らからこちらに接近したという内容ですらない。


「なんでだ…」


「まあ、色々あるんだろうけどね。

 まず、鉱山から離れたくなかったかもな?」


「あ…」


「それに、たぶんな…

 湿り気に弱いかも。

 ここ、植物もろくに育たない、乾燥地帯じゃん?」


「あ…

 体に錆びつくのが、嫌で?」


「金属生命体だからな。

 錆びつくのって、軽く考えれば皮膚病…

 ちょっと深刻になると、身体が腐る、そんな感覚かも」


その説明に、ノルガーもだんだんなるほど、と感じていた。


「しかもな…

 アンテロだって、雨の日がいやだろう?

 毛が濡れて体が鈍くなったり、湿り気で毛並みがべたついたり」


「うわあああ…」


水気に敏感なフェリノイのノルガーにとっては、的確な例えだった。


「だから、鉱山と乾燥地帯が被っているこんな所じゃないと…

 彼らにとっては、別に欲しくない土地だったかも」


「あ…

 だから、飲み水と用水が欲しい我らと…

 水を遠ざけたい彼らの都合で…

 生活圏が、重ならなかったおかげで、ほぼ接触していないと?」


「そういうことだね。

 だから、安心してもいいと思うよ。

 彼らとは、いいお隣になれそうじゃないか」


そういうセレステが楽観的過ぎではないか、と思いながらも、ノルガーもなぜか納得している自分に驚きながら言った。


「でも、お隣というにはケイレスが挟んでいるけどな…

 ………あれ?

 そういえば、彼らはなんでケイレスの国境近くに接近していた?」


「あ」


彼らが何故ケイレス近くまで南下していたかを聞いた時、ノルガーは気絶して寝ていた。

アリメカリセスたちの存在に気づき、その在処を探していた…と言えば簡単だが、それを言うとウーバーガストのことや、ヤルデマラセナのやらかし、そして…


『アインガストなんちゃらとかいう、変な称号は隠してくれとあれほど言っておいたのに…

 うわあ、どうしようこれ』


「あ、ってなんたよ、あって。

 なんか知っているんだな?」


「いや、知らん」


「知ってるな?

 なんだよ、言えよ」


「知らんって」


「顔が赤くなってるよ?

 うそだな?

 地球人って、顔に毛がないからわかりやすいよ」


こうなったら、一か八かだ。

と考えたセレステは、逆に攻めることにした。


「そもそも、お前が寝ていたのが悪い!」


「はあ?」


「お前が寝ている時、彼らの使者と交渉したと言っただろう?

 あの時聞言ってくれたけどな…できる限り、他言無用として欲しいって!」


そう言い張るセレステを呆気なそうな目で見ていたノルガーが、ははぁん、といいたそうな表情で言った。


「それが本当なら、他言無用と言われたこと自体を隠すべきだったよ?」


「うっぐ」


ぐうの音もでない正論だった。


『こいつめ、いつからこんな賢いー』


「ノルガーのくせに、なんでこんな賢いまねができるかよ!

 とかなんとか思っているんだろう?」


「ひっく」


「舐めないで欲しいよ、親父。

 こう見えてさ、王族としての教育はきちんと受けているんだ。

 親父の言った通り、もしもの時兄上の替わりが務められるように」


そういえば、そうだった。

セレステにとっては、いつまでも、かわいい子猫のように思えるけど…

目の前にいるこのフェリノイの青年は、れっきとした成人で、王子様。

身長も、体格も自分を超えていれば、帝王学まで学んでいる、まさに『支配者』

…レギスだのなんだの言っても、生まれつきの庶民である自分が敵うわけがない。


「うんうん、立派に育ったね。

 お父さん、うれしいよ」


「……惚けられると思うなよ?」


ちっ


              ***


「なんだ、そんなことなら別に隠すことなどないじゃないか」


結局、昨日の夜にあったことを洗いざらい聞かせてもらったノルガーの一声が、それだった。


「いや、またおかしな称号がつくのが嫌でな…

 そのアインガストなんちゃらって、何の意味かもよくわからないし。

 なんだよ、一つのガストって」


「まあ、ビカリ・テンゲリデとその姉弟たちのことは…

 私たちだって、理解を諦めているから結構。

 ヤルデマラセナがやらかした…

 と言ってもな、あれはむしろよくやったと思うよ?」


「はあ?種族単位の精神操作だぞ?」


「でも、一番近くにいるケイレスと接触でもした時…

 意思疎通ができるのは大きいよ?

 ついでに、敬語が使えるようになるのは将来的に悪くないし」


結果が良ければ、意図については多少目をつぶる。

そんな考え方をするように教育されているのかもしれない。


「…王族って、そんな風に考えるように教育されるのか?」


「国のために、役に立つか…の計算を忘れないように、な」


それはそうだろうな、と納得しながらも、なんだか猫のノルガーとは距離があるように思えて、セレステは少し、寂しさを感じていた。

だからといって、目の前にいるノルガーを、息子として愛していないというわけではない。


「…かわいいアーシャも、あんな計算高い王女様に育ってしまうのか…

 あああああああ、いやだぁぁぁぁ」


「ボクはいいのか!?」


「もうそうなったからには仕方ないじゃないか!

 えええい、これだからひねくれ童貞は!」


ヤケクソで出まかせを言ってみただけだったが――


「ど、どどど、なにぃぃぃ!?

 言っていいことと、いけないことがある!」


ノルガーが、やけに慌てている。


「あれ、図星?

 …通りで、奥手だと思った。

 うん、まあ、いいと思うよ?

 お父さんは。

 身持ちの固いのは、いいことだと思う。

 男女問わずにな」


「か、からかうな!」


「ケッケッケ」


毛で覆われていても、その下の顔は真っ赤になったんだろうなと、心の中で腹を抱えて笑い転がっていたセレステに、ノルガーが必死に考えた末の一撃を放った。


「そ、そういう親父だって――!

 私たちと住んでいた20年余り!

 ずーっと独り身だったくせに!」


 ‐ どさっ


セレステは椅子の上で大きくよろめき、そのまま地面へ転げ落ちた。


「お…おのれドラ息子め…

 言っていいことといけないことの区別ぐらいは…

 弁えろよ!王子様のクセに!教わっただろう!」


「お互い様だよ!」


「ぬわんだとぉぉぉ!!!」



結構時間が経ったのに二人が降りてこないので、気になって様子見に来てみた1体のドワーベンが見たのは、オラオラとガンを飛ばしているバカ親子だった。

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