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17セクター

「地下に、こんな場所が……」


「これはすごいなー」


開かれたハッチの中に案内され、そこから下へと続く、トンネルのような坂道を歩くこと10分ぐらい。

それぞれCA93962、DS33546、EW01205という、3体のロボタ・ドワーベンに案内され降りて行ったそこには、巨大な地下空洞が彼らの目の前に開かれていた。

その空洞の規模というと、目に見えるだけでフェリデリア王城がそのまま入るぐらいはあった。

そして、その階層だけではなく、さらに地下へと10階ぐらいは続いていて、横へとトンネルで繋がっている空間があり、まさに地下都市と言っても遜色のない規模だった。


「巨大なアリの巣、という感覚かな」


「アリ?」


怪訝そうに聞いてくるノルガーに、セレステが答えた。


「あ、地球の社会性昆虫のことだ。

 でも、これだけ地下に空間があると…

 地盤が脆くなったりはしませんか?」


そんなセレステの質問に、EW01205が答えてくれた。

他の個体より図体の大きい、がっしりとした体格…造形?をしていることから、力仕事に向いているタイプだそうだった。


「元々大空洞のあるところを選択して、徐々に拡張していきました。

 拡張するところは荷重を計算して、十分に耐えうる支柱を立たせています」


「ほほう、それは……」


地下建築の技術は、ぜひフェリデリアの建築技術者たちにも学ばせてもらいたい。

という考えは、まだ胸の奥にしまっておくことにした。

どういうわけか、自分には少し異様なほど親切に接してくれているが、接触し始めたばかりなのだ。

ことを急いで、むしろ関係を悪化させたりしてはいけない。


「ここからは昇降機で降りましょう」


「ほう、昇降機が?」


DS33546の案内にセレステがそう反応したら、 DS33546が意外そうに聞いてきた。


「はい。ご存知でしょうか?」


それはもちろん、地球から来たセレステには当たり前の技術だから。

白亜館や、付属の建物には全部設置されている。

そして、フェリデリアの建築技術者に研究させて、初期モデルが商用化されている。


でも、元々はトゥシタの知性種にはまだ存在しないはずの技術だったのだ。


「ええ、まあ…少し、事情がありまして」


ウーバーガスト――アリメカリセスの姉弟たちだけでもあの大騒ぎになっていたのに、自分が時空の彼方である異世界から自由に往来していると聞いたらどんな騒ぎになるのか。

それが予想すらできそうになかったので、セレステはなるべく自分の素性に関しては隠すことにしていたのだ。


……自由自在にゲートで転移したり、アリメカリセスたちをまるでしもべのように使役しているだけでもドワーベンたちにとっては十分常識はずれで、驚異そのものだから、あれ一つ隠すなど、あまり意味がないことだけど。


一行が乗り込んだ昇降機は、まるで工事現場にある昇降機のような、無骨な造りのものだった。

というか、ドワーベンの地下都市自体が、まるで工事現場や何かの生産工場のような、殺伐な風景だった。

生活感のまるでない、機能だけの空間のように見えるが、ドワーベンの居住空間としては、むしろ似合っているかもしれない。


「少し、気になることがあるが…」


静かにしていたノルガーが、言い出した。


「はい。なんでしょう」


「あなたたち三人も、今ここから見える範囲にいる他のドワーベンも…

 全部男性に見えるが、女性は外部人に見せない風習でもあるのか?

 でなければ、活動区域が違うのか?」


その質問に答えていたDS33546が、一瞬無言になったと思ったら答えた。


「ああ、女性と言いますと…

 有機動物の再生産を担当する個体ですね?

 私たちは再生産のための交尾行為を必要としておりません。

 よって、そのタイプの個体は必要としません。

 ロボタタイプは私のようなアーキタイプを元に、用途に合わせてカスタマイズされます」


「交…」


あまりにも生々しい言い方に、ノルガーは言葉を失ったが、SFオタのセレステは興味津々だった。


「おお?それは興味深い。

 通りで、あなたは華奢なラインで、デコがほぼない体をしていますね?

 EW01205さんはいわば筋骨隆々、まさにパワータイプモデルという造りですし。

 CA93962さんはその細長い指…精密作業モデルですかな?」


ウキウキになって、3体のロボタのボディを品定めするかのように、全身くまなく舐めまわるような視線で観察するセレステ。

…見方によっては結構やばい場面になるということに、そこにいる誰も気づいていなかった。


下についた昇降機から降りながら、CA93962がセレステのその質問に答えた。


「はい、よくご存知ですね」


「いや、用途に合わせたタイプ分化、実に面白いことです!

 ……で?性的交渉による繁殖を必要としないという事は……」


「親父ぃ……」


交尾だの性的交渉だの、あまりにも生々しい言葉が飛び交うのが、とにかく上品に振る舞わなければならない『王子様』であるノルガーにとっては困ったことこの上ない状況だったけど、セレステも、3体のドワーベンも、そんなことは特に気にしていなかった。

ドワーベンとしては何もいかがわしいことなどないと思っているし、セレステは…まあ、あんな性格だったから。


「――産む個体があるわけではないなら、『生産される』ということですね?

 多分、成体…というか、最終仕様のままで」


「え?」


ノルガーとしては、また当惑せざるを得なかった。

金属生命体とはいえ生命体のはずなのに、『生産』?しかも、成体で?

いくらなんでもそれはないだろう、と異議を唱えようとしていたところ、さっきのドワーベンが平然と答えた。


「その通りです。

 よくお気づきでしたね?」


「それはまあ、金属のボディだし。

 細胞の分化まではしない気がしまして」


一体なんの話が飛び交っているのか、混乱しているノルガーを見たセレステは、ざっと説明しておく必要を感じた。

……ここでまた知恵熱でも出したら困るから。


「多分、細胞の概念から入るべきだろうな…

 ノルガー、お前は今この青年の姿で生まれたわけではないだろう?」


「それは当たり前だ」


「うん、有機生物は『成長』をするから。

 その成長というのにはね、生物の最小単位というべき、『細胞』って部品がいるんだよ。

 子供の時、積み木で遊んだことはあるか?

 同じ形の積み木が増えれば増えるほど、大きく積み上げられるんだろう?

 成長するにつれ、その細胞がだんだん増えて体が大きくなるんだ。

 もちろん、最終仕様を決めた設計図があるから、3アシェ、5アシェとずっと大きくなったりはしないけど」


実際の生物学者が聞いたら鼻で笑われるような雑な説明だけど、ここにそれを指摘できるような者はいない。

むしろ、トゥシタの医学界での細胞説は今まさに成立しつつある段階だから、今セレステの語った内容を医者が聞いたら、「その話、もっと詳しく!」と飛びつかれるところだろうけど。


「でも、金属には遺伝子――その最終仕様の設計図がないわけだから、最終仕様のまま生まれるんだろうけど……」


「いや、あります」


「……はい!?」


当たり前のように『ガスト以外には機械の体』だと思っていたセレステに、CA93962が意外な事実を伝えた。


「有機生物の最小単位はその、『サイボウ』というものだとおっしゃいましたね?

 私たちドワーベンは、金属粒子レベルでその設計図が封じ込まれています。

 流石に『成長』するまでの増殖はしませんから、最初からアーキタイプの最終仕様まで仕上げておく必要こそありますが、傷ぐらいは修復できる程度の増殖はできます。

 ですから、大怪我や部位欠損などは、新しいパーツに交換するべきですが」


「へええ…」


ノルガーはもう、頭から煙が登っているような気がしていたが、セレステは全然違う。

むしろ、興味津々だった。

『遺伝子を持って自己修復できる金属』など、まるでSFの世界に入ってきている気がしてワクワクしていたから。


……もちろん、周りから見れば自分こそその『ファンタジー』で『SF』な存在だということには、全然気づいていない。


「質問、いいか?」


その雰囲気に耐えなかったのか、ノルガーが言い出した。


「はい、どうぞ」


「さっきからずっと下へ、下へと降りていく気がするが…

 今、どこに向かっている?」


そういえば、とセレステも思った。

最初の昇降機で感心していたけど、何気に何回か昇降機に乗り継いで、ずっと下へ、そして地下都市の中心部に向かっている気がしたからだ。


「ああ、それですか。

 このセクターの最深部に向かっています。

 そこに、我らの生産プラントがあります」


「セクター?」


「私たちには国家とか都市の概念はありません。

 その代わり、拠点としてセクターと称しています。

 現在、トゥシタ全星に53箇所のセクターがあり、ここは第17セクターになります」


そうか、と感心していたセレステは、遅れて気づいてびっくりした。


「生産プラント?

 あなたたちが生産…生まれるところですか?

 それ、よそ者に軽々しく公開してはいけないところなのでは?」


「もちろん、普通の『よそ者』なら絶対。

 でも、あなた方は違います。

 ぜひ、メインフレームにお会いになっていただきたいと存じまして」


「メインフレーム?」


それが何を意味するかわからないノルガーが怪訝そうな顔をした。

そういえば、ノルガーはメインフレームどころか、ガストとシュバデンケのことも知らない。

ざっとでいいから、説明しておく必要があった。


「ノルガー、昨日お前が寝ている間に、ドワーベンの方々に聞いた話ではな。

 彼らの本質はガスト――私達で言えば精神のようなもので、それの集合であるシュバデンケという、並列連結体をなしているそうだ。

 社会の全員が同じ精神を共有しているわけだから、王とか支配者とかが別にいない…いわば、全員が王?のような社会なんだけどな…」


王子であるノルガーの前で下手に平等思想などをいうより、逆にこう例えた方が都合がいい気がした。


「メインフレームというと…その水平的な並びの中でも、中心になるような、特別な役割を持つ個体がある、ということでしょうかな?」


これまで乗ってきた解放式の昇降機とは違い、チャンバー式になった昇降機に乗って多分これが最後の昇降機だな、と感じていたセレステの質問に、CA93962が答えた。


「はい。

ご存知の通り、我らにはシュバデンケが存在します。

基本的には、全てのガストの集合体ですけど…

バックアップとデータ更新のための在処ぐらいは、必要です」


昇降機から降りた向こうに、静かに佇んでいる巨大なドーム


『ア○ラ?』


歩いてそのドームに近づいた一行の前で、厳重そうな扉が、音もなく開かれてその中が見えてきた。


「これは…」


ドームの壁沿いで、さまざまな形式のドワーベンが作られている中。

ドームの中央部にある台座の上には、金色に輝く球体が静かに浮いていた。

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