未知との遭遇
書いては消す、書いては消す…
修正を繰り返し、ものすごく更新が遅くなってしまいました。
お待ちになってくださった皆様に、申し訳ございませんでした!
「金属のバタラって…」
「バタラ?
あ、あれってバタラというんだ。
そうだな…あれで飛べるのかな、本当?」
ゲーム機の上に座っている一羽の蝶、いや、バタラには視線を向けまいと頑張りながら、セレステとノルガ―はそのままゲームを続けていた。
「でもこんなことして何が面白いって――」
初めてゲーム機に触るノルガ―だったが、基本的な操作法を教えたらそれなりにプレイできるようになっているところのことだった。
「わあ!?」
セレステも格ゲーにはあまり素養がなく、二人は通常技だけで1発殴っては1発殴られる、という地味な、というか下手な戦いをしていたが、ビギナーズ・ラックというべきか、ノルガ―のキャラの必殺技が決まって、そのままセレステのキャラを1発でKOさせていた。
「こいつぅぅ!ずるしやがって!
その技はいつ覚えた!」
「ずるじゃねえよ!
というかこれ、結構爽快だな!
来いよ親父!叩きのめしてやる!」
「お前それ、ゲームのことだよね?ね?」
もはや二人は、気づいていないふりをしなくても、金属のバタラのことなど眼中にないようだった。
その光景を、バタラ…型の偵察ユニットの視覚を共有しながら観察していた、2体のロボタは、いま二人が何をしているのか理解できずにいた。
先程まではあの平面装備が発信する情報の奔流を受け入れていると思ったら、今度は何かのデバイスを手に取り、情報を平面装備へと送信して『楽しんで』いる。
ドワーベンだって、感情はあるから『楽しんで』いるということはわかる。
しかし、有機生物の限界があるからあのような不便な情報の交換しかできないのに…それでも『楽しい』を感じるのか?
しかも、その情報の交換で行われるというのが、情報上の個体を戦わせることとなると……
「所詮、有機生物か」
「どうする?EK54325?」
「シュバデンケはまだ結論を出していない。
このまま観察を続けよう、TH39867」
「でも、検体収集チームがシュバデンケに方針変更要請を送ったようだ。
ここから出られなくなって、砂の採集が遅れてしまうと」
「そこのチーフ、UZ14987だったか?」
「そうだ。
演算限界時間が短くてな、すぐ過熱してしまう」
要するに、UZ14987は『気が短くい怒りんぼ』ということらしい。
「仕方ないだろう。
何しに来たのかわからない連中相手に、こちらから座標を漏洩するわけにはいかない」
「いや、まったく。
何しに来たんだあれ?
物理法則を無視する行動をするかと思ったら、今度は効率の悪すぎる情報の交換…
しかも、それを楽しんでいる?
解せない」
人んちの入口の前にキャンピングカーを止めておいて、他人様が働きにいくのを邪魔しながら勝手に遊んでいる…
今のセレステとノルガ―は、自分たちが『えらい迷惑になっている』ことに気づいていないフリをして、何時間もそのままのんびりと、日が傾き始めるごろまで遊び倒していた。
「……そろそろ、仕掛けてみようか」
「何をする気だ?」
一日中なにもしないで遊んで休んだのはいいが、ドワーベンに接触を図るという目的のためには何もしていなかったのが気になったノルガ―が聞くと、セレステは二ッと笑って言った。
「それはなー
まず、こうするんだよ。
ダルカルヌピカ?通訳フィールド、展開」
「承知いたしました」
「?」
地下から二人を観察しながらすこしじれったいと思っていた2体のロボタは、有機生物の中1体――セレステが折り畳み式椅子から立ち上がり、例の『情報化の域を超えた』存在に近づくのを見て、偵察ユニットから共有される感覚情報に、集中し直した。
その時だった。
「はい、そこで盗む聞きしているドワーベンの方々。
聞こえますね?」
さっきまでこちら——偵察ユニットの方を見ようとしていなかった有機生物ことセレステが、今では偵察ユニットの前に顔を寄せて、まっすぐこちらの視覚センサーを覗き込みながら話しかけてきていた。
「ど、どうして?」
「どうしてバレた?
とお思いでしょう?
いや、実はさっきからバレバレでしたよ。
金属でできているバタラなんか、まさか見分けられないとでも?
私たちの目は、節穴ではありませんよ?」
EK54325とTH39867。
いまこの視聴覚データを共有している2体のロボタは、処理に混線を感じていた。
相手の有機生物が、こちらの思惑を全部見破っていたというのもだが……
「フシアナとはなんだ?」
……構造的に、全く処理できないデータだったから。
そんな彼(?)らのことなど全く気にせず、セレステが続けた。
「それにですね、私は昨日、申し上げましたよ。
明日また来ますから、お顔を見せてください、と」
この話にも、またデータ処理の混線を起こした。
昨日あの言葉を残したのは、巨大ロボタだった。
なのに、なんであの有機生物があれを知っている?
「…親父、まさかと思うがな…
あれを言う時、自分の顔を見せていた?」
「え?それはもち…
あ“」
やっちゃった。
セレステは、やっと気づいた。
確かに、昨日『言っていた』のは自分だった。
しかし、ドワーベンたちが『見ていた』のはハーヤ・ナクマだ。
本当に彼らが金属生命体なら、ハーヤ・ナクマを見て、人間で言う巨人だと思っても無理ではない。
それに、昨日は——
「…機外スピーカーで放送していたな…
同じ声だと感じてくれなくても無理はない!」
「最初から気づけよ…」
今回ばかりは、ノルガ―が情けない者を見る視線で睨んでいても弁明の余地がない。
「本っっっ当に、すみませんでした!」
深々と頭を下げて謝って見せた。
だが、その仕草すら、ドワーベンにとっては何を意味するのかわかるはずもなかった。
その後、セレステは急いでダルカルヌピカに指示を出した。
「君たち、5次元で繋いでいるんだろうね?
今すぐヤルデマラセナに連絡して、ハーヤ・ナクマを起動させてくれ」
それから、ゲートでハーヤ・ナクマをこちらに呼びつけては、いそいそとそのコクピットに乗り込んだ。
機外スピーカーをOnにし、地下に向けて言い出した。
「これなら、お分かりでしょうか!
昨日のあれは、私とこいつの合作でした!
ややこしいことをして、本当に申し訳ありません!」
ハーヤ・ナクマの頭までぺこぺこさせる、普段のセレステならできそうにない芸当を見せていたが、ロボタたちにとっては、それ以上に衝撃的な問題があった。
「あの有機生物が、あの巨大ロボタのガストだったのか?」
それはEK54325とTH39867だけではなく、すでにシュバデンケを通じて全ドワーベン社会に共有されている疑問だった。
そして、シュバデンケはその疑問を解くべく、決定を下した。
「…あの2体に、接触する」
代表者の役割を担うのは、一番近くにいたEK54325とTH39867。
ドワーベンには、特に代表者とか、特定役職という概念がない。
だから、一番近くにいた2体がそのまま接触に出たのだ。
一方、セレステは念のため、ノルガ―もコクピットへ同乗させていた。
「特に心配はないと思うけどな—
万が一ってことがあるから」
その時のことだった。
*あれ?
マイロード、相手から、通信データが発散されています。
かなり多様なチャンネルで送られていますけどー*
「繋げてくれ」
「keslffkdpkrpdoedktlmdlwla——
繰り返す、未知の相手に告ぐ。
我ら、個体識別記号EK54325と個体識別記号TH39867。
シュバデンケの端末として、あなたたちとの接触を求む。
敵対行動の計画はない。
情報交換を求む」
「フンフンフンフンフン♬」
「…なんだよそれ」
思わず、あるハリウッド映画の、文明接触の音を鼻歌で歌ってしまったセレステ。
「あ、済まん、こっちの話」
「…頼むから、まじめにやってくれない?」
「へいへい」
短い親子漫才の後、セレステは機外スピーカーで返答した。
「あ、あ、テステス。
貴殿のメッセージを確認しました。
こちら、フェリデリア王国の王弟、ノルガ―王子と
王父卿、レギス・セレステです。
我々二名で接触に向かいます。
接触の意思を表明していただき、感謝します」
直ぐ、返事が入って来た。
「返信、感謝する。
確認してもらいたいことがある。
そちらの個体は、3体ではないか?
有機生物2体と、巨大ロボタと見受けている」
「有機生物…」
セレステは、ガクンと頭を落として、わなわな震えていた。
「親父?なんだその有機生物って?」
ノルガ―が不思議そうな顔で質問してくる。
しかし、今のセレステにはそれを説明しているような余裕はなかった。
いや、余裕がないというより、感覚としては把握しているが、言葉にしようとするとどう説明すればいいのか、見当てもつかなかったからだ。
「それは後で説明するよ…
あ、あ、聞こえますか?
こちらの『知性体』は、有機生物2体だけです。
大きい方は…いわば、乗り物です。
詳しいことは、まず対面して話し合いませんか?
よろしければ、我々の車——
さっきご覧になっていた、あの移動住宅のことです。
あの傍を、接触の場にしたい。
ここから降りれば通信ができなくなるので、その前に確認をお願いします」
すぐさま、返事が来た。
「承知した。
指定したポイントに向かう。
そちらの言う通り、情報交換は直対面で行おう」
通信はそれで終わった。
「…ずいぶん変わった言い方じゃないか?」
ノルガ―は慣れてない言葉が続出するためか、怪訝そうな顔でそう聞いてきた。
「なに、伝説の存在なんだよな?
この世界で伝説になるぐらいなら…すくなくとも千年以上は接触がなかったってことだろ。
異質的に感じられなかったら、それがおかしいだろうね」
「そんなものか?」
「まあ、実際会ってみない限り、何も始まらないよ。
あちらさんも敵対の意思はないようだし、とりあえずあってみるしかない。
…それに、うちの『乗り物』は単独行動が可能だしね?」
淡々とそう言うセレステを見て、ノルガ―は少し、呆れたような顔で言った。
「親父ってさ…
なんか、落ち着きすぎない?
ボクなんか、不安と期待が混ざり合って、胸が躍っているというのに…」
「あ?いや、めっちゃワクワクしてるぞ?
そりゃ、ロボット生命体なんだもん!
ト〇ランスフォーマーか?ゾ〇ドか?
こんな状況だ。興奮せずにいられるメカオタがいるかって!」
要するに、ノルガ―が童心を取り戻してワクワクドキドキしている状態だとすれば、セレステの方は――
いわゆる、『一周してふりだしに戻った』状態だった。
落ち着いて見えるだけで、決して興奮していないわけではない。
あれこれあって、ハーヤ・ナクマから降りてきた二人は、約束した通りキャンピングカーの傍で、ドワーベンが出てくるのを待っていた。
「フンフンフンフンフン♬」
「だから先からなんだよそれ」
セレステは思わず、またあのメロディをハミングで口ずさんでいた。
「あ…
これってな…
異文明との初めての接触の時歌う、地球の歌」
「…そうなの?」
「そうだよ」
「そうか…」
その時、二人の目の前で、地面の一角に切れ目が開いた。
その切れ目を境に、地面が徐々にせり上がり…
その中から、後ろの照明の光を背負って、2体のロボタ・ドワーベンが、ゆっくりと歩き出ていた。
伝説が現実の中へと、その姿を現す――
アンテロの歴史に残る、そんな重大な事件の最中。
「「フンフンフンフンフン♬」」
セレステとノルガ―は、奇妙な合唱をしていた。




