休暇のススメ
また、半日遅い更新…OTL
それでも、お読みになってくださる皆様に、感謝の念を!
「親父、あれ…」
「ああ、わかっている。
気づいていないふりをするんだ」
セレステがス〇―クごっこをした次の日の夕方。
ダルカルヌピカに座標を記憶させておいた、ドワーベンの地下住居へと続く入口の近く。
セレステとノルガ―が、そこに止めておいたキャンピングカーの傍にいた。
太陽光発電パネルに繋いだ、大型テレビでビデオゲームをしながら。
「あちらさんが、先に痺れを切らしたんだよ…」
***
今朝のことだった。
「陛下、親衛隊長殿をお借り……」
「うむ、許可する」
セレステの奏上がまだ終わってもいない内に、二つ返事で許可が下りた。
「…即答?
理由を、聞かないか?」
「どうせドワーベンのことでしょう?
あいつには休暇を取らせるから、二人でゆっくり行ってきてください」
「へえ?
でっきり、『余も行く!』とか言い出すと思ってたけど。
意外だな?」
案外だといいたそうな顔で聞くセレステに、ラシオンもつい、本音を吐き出してしまった。
「……本当のことをいうとですね…
ええ、行きたいですよ!
私だって興味がないわけではないから!
でもですね……父上もお分かりでしょう?
国王というやつが、根拠のない伝説につられ出ていくなど…」
「へえ?お前にしては、結構大人びた意見ではないか」
「こう見えても国王ですよ、国王。
それに、国内ならまだしも、国一つ越えての未開拓地となると…」
本気で悔しそうにいっているラシオンを見ながら、セレステもその真意を理解した。
「ああ、だから『休暇』だね?
公的な出張や、出征ではいけないから」
「はい、ですから……
あいつと親子二人で水入らずの旅、お願いします」
「いや、なに二人で勝手に決めるんだよ!!!!」
……最初からずっとそばにいたノルガ―が、抗議した。
「「あ、いた?」」
「棒読みなの丸わかりだから!」
そう抗議するノルガ―をまじまじと見ていたセレステは、いつになく真面目な顔で言い出した。
「陛下。
親衛隊長殿は日ごろの真面目な勤めゆえ、疲れていると存じます。
労いの休暇を取らせ、慰めた方が…」
「うむ、奇遇だな。
余もそう考えていたところだ。
親衛隊長、王父卿の言った通りだ。
今この時から、そなたに休暇を取らす。
王父卿と二人で、家族の団欒を楽しむがよいぞ」
「いやそんな無理やり…」
「これは勅命ぞ?」
『勅命』
その言葉が出てしまえば、もう反論の余地がない。
ノルガ―も仕方なく、しぶしぶ受けいれるしかなかった。
「ありがたきしあわせにございます。
陛下のご恩、承りましょう」
ノルガ―が『休暇の命令』を受け入れると、ラシオンが軽い口調で続けた。
「うん、わかった。
親衛隊の業務の引継ぎは副隊長に任せるから、さっさと行って来い!」
「え、兄上、そんな…」
「準備はできているからな!
お前はそのまま付いてくればいいよ!」
「えっ、親父ぃぃぃ!?」
当惑しているところを、ノルガ―はセレステに腕を引っ張られ、そのままゲートに引き込まれて行ってしまった。
二人が虚空に消えてしまい、静かになった執務室に一人残っていたラシオンがぶつりと言った。
「……まったく、王位ってのも面倒なもんだな」
***
「…ここは…?
…って、何もないじゃないかあああ!
何が準備できているってんだ!」
例の場所に転移した二人。
想像以上の荒れ地っぷりに驚いていたノルガ―は、セレステにガミガミ言った。
「何もない?
ノルガ―よ、お前はこの父を誰だと思うのだ?」
「おっちょこっちょいの変わり種」
「酷い言い方だな、おい。
まあ、待ってろよ。
とびっきりの父子の思い出を、作ってやるからな。
まずは…」
担いでいた大きなカバンから何かを取り出して地面に置いておくのを見て、何なのか覗き込んでいたノルガ―が怪訝そうな顔になった。
「自動車……か?
にしては変わった形に見えるが?」
「なに、見てろよ。
はい、ドーン!」
それらしい「お呪い」を読み上げるのももう面倒くさくなったのか、セレステは適当な掛け声だけでそれを実体化させた。
「…なんだこれ?」
「乗ってみればわかるよ。はい!」
ノルガ―がみたことのない、箱のような車体。
それは——
「あ?なんだこれ。
中が…小さな家?
地球の家具や道具?」
「そう!ベッド!テーブル!
流し台!調理台!
お手洗い!洗面台!シャワーまで!
アウトドア―でも、最小限の文化的な生活ができる!
その名も——キャンピングカー!」
得意げに語るセレステの御託を聞いて、ノルガ―は呆れた気持ちになってしまった。
「最小限って…
狭いだけで、施設が貴族邸並みだよこれ!」
「それは……
お前は王弟殿下。
私はレギス・バシ。
王家のキャンプだよ?
貴族邸レベルで、あたりまえじゃない」
「野営でそんなことを考えるヒトなんて……」
王弟であっても、ノルガ―だって軍人だ。
訓練とか練習で、野営した経験ぐらいはある。
もちろん、王族だから上級の天幕を使ってはいたが、それでも野営と言えば不便なものと、相場が決まっていたのだ。
「なに、それこそが文明レベルの差ってもんだよ。
それに…」
「それに?」
ニヤリ、と不敵に笑うセレステを見て、ノルガ―は少し、不安を感じた。
「目の前にこんなのを見せつけられりゃな…
あいつらだって、気になって気になって、たまらなくなるだろう?」
「…自分たちで囮になる気?」
「囮って…人聞きのわるい。
少し誘惑するだけだよ。
さあ、それはそれで…」
セレステはまたカバンの中をあさり、何かを取り出してノルガ―に差し出した。
「なんだ?」
「着替えだよ。
せっかく休暇に来て、いつまで窮屈な制服を着ている気だ。
ここではヒトの目を気にすることもないだろう。
私は他に必要なのを持ってくるからな、着替えて待ってろよ」
そう言いながらキャンピングカーから降りて、ゲートを開くセレステの背中を見ながら、ノルガ―はぶつりと言った。
「まったく…
…どう着ればいいのかぐらいは教えてから行けってんだ」
Tシャツにパーカーと、ゆったりとしたジャージーパンツ。
侍従がいなくても、何とか一人で着替えできそうな服だな、という気はしていた。
それから何回かゲートでいそいそと行き来しながら、セレステはキャンピングカーの傍に、太陽光発電パネルと、大型テレビ、ブルーレイプレイヤーにゲーム機などと、キャンプにしては派手すぎるものの数々を設置していた。
「…発電パネルはわかるけど…
なんだこの…板?は?」
「着替え、よくできたな?
これね…
百問、一見に如かず…
ちょっとまってろよ…ほら!」
何かこそこそ操作すると思ったら、その黒い板が光り——
「わわ!?」
いきなり派手な映像が映り、ノルガ―は驚いて後ずさっだ。
「ダルカルヌピカ?通訳頼むよ。
さあ、ノルガー。こっちだ。
ここに座って、ゆっくり鑑賞するんだよ。
これは映画…いわば、映像に記録した演劇、だ」
テレビの上にダルカルヌピカが降り立つと、ノルガ―にも、テレビから流れ出る音が、『言葉』として理解され始まった。
「これが…地球の技術というのか…」
「いや、前世でたくさん見ていたんだろう?
私の傍で…」
正確には、『地球では今でも見ている』なんだが。
「よく覚えられないな…
あのごろのことは、親父と、兄上と、イーシャ…姉上と、アーシャのことだけ…」
今のノルガ―にとっては、家族以外のことはほぼ思い出していないようだった。
「そうか…
いやいやいや、お前にとって、せっかくの休暇だ!
湿っぽい雰囲気にしてどうする!
ラガー飲むか?」
「え?こんな早くから?」
「いいんだよ!休暇中だし!
責務とか作法とか、捨ててしまえ!」
「え……
……いい…かも」
ちなみに、人間が出てこない映画を選んできたので、今二人が見ているのはあのネズミの王国謹製の、ウサギさんとキツネさんの凸凹カップルが主演を務めた、あのメジャー映画だった。
「でも親父、地球にアンテロはいないのでは?」
初めてみる「映画」に結構興奮して、歓呼声まで上げていたノルガ―は、映画が終わった後、セレステが用意した昼食を食べていた途中、ふと思い出したかのように聞いてきた。
「今さら?
そうだよ。動物はいてもアンテロはいない。
あれはね、全部空想物語を『絵に描いた』ものだよ」
「絵?
……すごく動いていたけど?」
「数十万、数百万枚のを描いて、それを連続してみせればな…」
「…気の遠くなりそうな話だ…」
「なに、お前だって興味津々で観ていたじゃないか。
エンタメ産業とは、そんなもんだよ。
あれ一本で…うちの公社の年間収入くらい、軽く吹き飛ぶ。
食べ終わったら、こんどはゲームやってみないか?」
「げえむ?」
***
地下のドワーベン達はというと——
昨日、地上への出入り口の一つに、何か巨大なロボターが現れて非常警戒に入っていた。
あの巨大ロボターは、流暢な言葉でぐだぐだ挨拶を述べては、『明日また来ます』と言い残して、空間を切り開いて消えてしまった。
場所の特定に混乱を与えようと、地形を少し変えて置いた。
その夜、何か有機生物と思しき、小さな個体がこそこそと動き回るのが観察された。
何をするのかと静観していたら、出入り口の真上まで来て、何かわからない言葉を発するかと思ったら、昼間の巨大ロボターと同じく、空間を切り開いて消えてしまった。
「あいつら、いったい何なんだ?」
「わからない。
しかし、有機生物がどうやってここまで来たのだと思ったら…
空間を切り開いて移動できる有機生物など、見たことあるか?」
「ない。
そもそも、ここまでたどり着いた有機生物などなかった」
「もしかすると、昼間のあのデカいのとグルだったりするかも」
「…それはないと思うがな」
結論の出ない情報交換が続いた。
しかし、あのデカいロボターにしろ、有機生物にしろ、こちらに接近したい素振りは見せていても、入口を探し出したり、無理やり破壊して入ってくる気はないようだった。
特に、あのデカい方。
だから、当面はいないふりを徹する。
それが、入口周辺を警戒するドワーベン達に下った、シュバデンケの結論だった。
異変は、今朝起きた。
昨日あの有機生物が消えた場所に、さらに2体の有機生物が空間を切り裂いて現れた。
しかも、今回現れたのはそれぞれ形式違いの個体。
その中、昨日の夜現れた小さな個体に近い外形情報を持っている個体が、物理法則を真正面から突き破るようなことを連続して行った。
何もないところから巨大な物体を作り出し、そこから熱量が観測される物体を次々と取り出して、その周辺にセットした。
そして、その中、平面装備の表面に現れたのは――
圧倒的な情報の流れ。
観測しているこちらの演算装置がパンクを起こすのではないか心配になるほどの、光情報と音情報の奔流。
それを、あの有機生物たちは…
なにか、『喜ぶ』ような反応を見せながら、その情報の奔流を受け入れていた。
それに、その黒い板の上段には…
……推測演算すら不可能な、『情報化の域を超えた』存在がいた。
その存在は、恐ろしい速度と精度で、音声データの変換処理を行っていた。
あの者たちは、いったいなんなのだ。
対応するには、遠くからの観測だけでは、データが足りなすぎる。
仕方ない。もっと近くで観測する必要がある。
そう判断したシュバデンケは、観測端末を送り出すことを決定した。
***
セレステとノルガ―がやっている、格闘ゲームのゲーム機。
その上に、一羽の昆虫が、座っていた。
いつかセレステが、宮廷魔術庁で見た、蝶のような昆虫。
しかし、あの時見たのとは明らかに違う。
その蝶は――金属光沢をしていた。




