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こちらス◯ーク

「さ、帰ろうか!」


*はい?*


巨大な石山のふもと、移動痕跡の途絶えたところの近傍。

地下に空間があるらしいところを確認した後。

あっさりと引き上げを宣言するセレステに、ヤルデマラセナは当惑して反問した。


*マイロード?ここまで来て引き上げますか?*


「ここまで来たからだよ?

 位置は確認できたし、ドワーベンの存在を裏付けるような映像資料も撮った。

 あとは、どこから出入りしているかを確認したいことなんだけど…」


ぽん、とコンソールを軽く叩いて、続けた。


「こんなデカブツが陣取っていればな…

 警戒して出なくなるんだろう?」


*それは…*


理にかなっている。


「それに、夕食の時まで帰るって、ビアラ夫人と約束したからな。

 少し早いけど、今日はここで引き上げよう。

 その前に…

 タルタルソースサラ、おるか?」


まるで忍びを呼び出す殿様みたいな口調で、セレステはダルカルヌピカを呼び出した。


「お呼びで…

 殿、拙者はダルカルヌピカでござ…

 って、なんだコレェぇぇ!?」


セレステの時代劇ごっこに思わず乗ってしまい、彼の肩の上に現れてそう答えては、すぐ慌ててしまうダルカルヌピカにセレステがニヤニヤ笑いながら話しかけた。


「いや、私お貴族様だし、領主だし、マイロードだし。

 殿様に違いないだろう?

 君たちって、呼べばどこからとも現れるから、まるで忍びだし。

 やってみないわけがないだろう?殿様ごっこ」

 

「だからマイロードはごっこじゃなくてリアル殿様…!

 ——オホン。お身苦しいところをお見せしました。

 お呼びでしょうか、マイロード」


とにかく場の空気をなんとかしようとするダルカルヌピカに、セレステが言い続けた。


「ああ。

 ちょうど、君の通訳の力が必要でな。

 ドワーベン……いや、それが正しい呼び方なのかすらわからないが。

 とにかく、彼らの言葉も、通訳できるんだろう?

 なら、宣戦布告だ」


「それはもちろん……

 ……は?」


突拍子もないセレステの発言に、ダルカルヌピカはまた、慌ててしまった。


「いや、別に喧嘩を売る気はないからな。

 明日また来ます、と知らせておきたい。

 それだけだ。

 機外スピーカーのボリュームを最大に、っと。

 これからいうことを通訳するんだ」


「わかりました」


少し喉を慣らした後、マイクをOnにしたセレステは、地面に向けて言い始めた。


「あ、あ、聞こえますか?地下の皆様。

 私は遥か南、フェリデリア王国から来ました、セレステというものでございます。

 皆様とはいい親善関係を築きたくて参りました所存でございます。

 しかし、どうやら警戒されているご様子で——

 いきなり土足で上がってきたこちらに非がありますので、今日は引き上げさせていただきます。

 明日、日を改めて参りますので、その時はお顔を見せていただきたく存じます。

 では!」


それだけ残して、そのままゲートを開いて撤収するセレステにヤルデマラセナが聞いた。


*ウルバーサには?*


「後で寄るといいよ。

 ケイレスの国境で南下するわけではないからな!」


どうせ双子の女王も、セレステの前では国境など大した意味を持たないと理解している。

本当にこの調査の結果が気になるなら、正式な外交の手続きを通じて、逃げられないように情報の公開を要請してくるに違いない。

——と、セレステ本人も自覚しているからこそ、このように振る舞っているのであった。





ハーヤ・ナクマがゲートで消えて、しばらくした後。

ハッチが開かれるかのように地面の一部が少しせり上がり、そこから金属でできた何かしらの頭部のようなものが、恐る恐る姿を現した。


「?isTkr」


「pesmdxkrtjrsjfmr」


「?lwTudjnapcoe」


「hrwlrkhgrqflmeneoh」


……どうやら、ダルカルヌピカがいないと何を言っているのか理解できそうになかった。


              ***


「ただいま〜」


「お帰りなさいませ、お館さま。

 思ったよりお早いお帰りですが…」


ハーヤ・ナクマをテンゲルのデッキに戻しておいて、セレステは第二白亜館の常設ゲートを通って地上へ降りてきた。

自分を迎えるラインバルトの口調から、『途中で諦めてお戻りに?』という皮肉を読み取ったセレステは、不敵な笑みを浮かべて答えた。


「何、私が失敗して戻ってくると賭けでもしたか?

 ざーんねん。大成功だったよ!」


「いえ、賭けなど不謹慎なことは……

 ………はい?」


ドワーベン探索に失敗するだろうと確信していたのか。

驚かせようと思ってはいたけど、あそこまで本気で驚かれると、それはそれでムカつく。


「おお、我が忠実なる家令執事、ラインバルトくん。

 哀れ、夢を忘れた古いトゥシタ人よ!

 汝の失われし童心、我が見つけ出したり!」


地球のとあるアニメのOP歌詞をパロった奇妙な口上で自分を揶揄うセレステに、ラインバルトはイラッとしたが主君の前でそんなそぶりは見せられない。


「……とおっしゃいますと。

 本当に、あのドワーベンを見つけられたんですか?」


流石のラインバルトも、声を上げずにはいられなかったようだ。

周辺にいた使用人たちの視線が、一斉こちらへ集まった。

ちょうど近くを通っていたロデリックなんかは、こちらの話に食いついてしまうほどだった。


「え?ドワーベン?

 なになに、本当にいましたって!?」


「おい!」


尻尾までパタパタ振りながら話に食いつく彼を、ラインバルトが慌てて止めようとしたが、セレステとしては何の問題にもならなかった。


「まあ、実際対面したわけではないけどな。

 新しい移動痕跡と、彼らの住居と思しき地下空洞を見つけたよ。

 明日また調査しに行く」


「地下空洞……

 確かに、ドワーベンは地下や、洞窟の深くに住んでいると…

 伝説にも符合していますね。

 もし本当なら、これは歴史に残る大発見……」


ラインバルトだって、普段の彼とは違って、少し興奮気味だった。


「お?童心が蘇った?

 善きかな、善きかな」


「い、いえ、そんなことでは!」


少し気恥ずかしそうにしているラインバルトを救ったのは、ビアラ夫人の鶴の一声だった。

 

「はい、殿方。

 大発見に興奮するのは大いに結構ですけど、とりあえずは落ち着いてくださいね。

 まだ糸口を見つけたばかりなのにそんなに騒いでは…

 本体を見つけた時、疲れてしまって存分に喜べなくなりますよ?

 さあ、みんな、夕食の準備に戻りなさい。

 ロノヴァール?閣下のお着替えを」


「「「はい!」」」


ついさっきまでザワザワしていた使用人たちは、ビアラ夫人の指揮で一心不乱に持ち場に戻って行った。


「えー。

 話、もっと聞きたい——」


「うるさい。持ち場に戻れ」


……約1名、ラインバルトに襟を摘まれて、ずるずると引きずられていく奴がいたけど。



夕食の後、残った用事があると言って地球に戻った天城は、サバゲー装備のレンタル店に走った。


「夜間の行動になるからな…

 黒系の戦闘服に、コンバットブーツと軍手…

 暗視スコープと…念のために、ヘルメットも?」


マンションで、レンタルしてきた装備の数々を身につけながらぶつぶつ言っていたセレステは、全部つけ終わるとそのままゲートを開いた。


その先は、昼間に確認しておいたドワーベンの住居と思しき空洞の近くだった。

『明日また来る』と言ってはいたが、その前にこっそりと観察を、と思って夜間装備まで揃えて、密かにやって来たのだ。


「うわ、これ…ちょっと暗すぎない?

 暗視スコープ借りて来てよかったな。

 こちらス◯ーク、ダルカルヌピカ?」


「お呼びでしょうか」


呼び出すや否や、ダルカルヌピカがセレステの肩の上に降り立った。


『こいつ、ぶつくさ言っているくせに……

 実は結構楽しんでるんじゃない?

 忍者ごっこ』


そんなことを思いながら、セレステはダルカルヌピカに言った。


「ああ。

 ドワーベンとは遭遇しない方がいいんだろうけどね…

 もしもの時は、頼む」


「お任せを。

 マイロードが安全に撤退できるよう、 追跡者は始末——」


「いや、何言ってんねん!

 通訳のことだよ!

 物騒なこと言うなや!」


声のせいだろうか。

小鳥の姿してなんて物騒なことを言うのかな——

そう思いながら、セレステは昼間に見ておいた地下空洞と思しき場所へと向かった。


が。


「…あれ?どこなんだ?」


これと言った地形地物のない、石山の麓だ。

昼間にデュエマのコクピットで見下ろしていたのと、灯一つない暗い夜に等身大目線で見るのとは勝手が違いすぎる。

それだけではない。

さっきハーヤ・ナクマが帰って行った後、ドワーベンたちが出てきて周りの岩の配置や地形を少し変えておいたから、さらに識別しづらい。


つまり、セレステは今、自分がどこにいるのかすら見失っていた。


「ぐぬぬぬ。

 こんなところだから、危険な野生動物もいないだろうけどな——

 誤算だったよ。まさか昼と夜とでここまで違う感じになるとは」


そう愚痴を言っているセレステに、肩の上に乗っていたダルカルヌピカが静かに言った。


「マイロード。

 右の45度を向けて、50m歩いて行ってください」


「うん?いきなりなんだ?」


「昼間に地下空洞を確認した座標です」


「あ?」


小鳥の姿と、通訳の能力があまりにも便利だった。

だから、他に何ができるかについては全く気にしていなかったけど……

そもそも、ダルカルヌピカだって高次元の存在だ。

それをセレステは、ほぼ忘れかけていた。


「そ、そうか…

 こ、こちらか?」


「もう少し右へ…

 はい、この方向です。

 このまま50歩ぐらい、まっすぐ前進してください」


どうせ自分ではどうしようもない。

セレステはダルカルヌピカの指示通り、動いてみた。


「方向曲がっています。

 左に一歩」


「え」


真っ暗な夜だからか、無意識のうちに進行方向がずれてしまっていたようだった。


「こ、ここか?」


「はい。

 ただ今反響定位で確認しましたところ、この下からゆっくりと…

 徐々に地下深くへ続いています」


「…君、小鳥じゃなくてコウモリだった?

 待て、ということは?」


「ここです。

 昼間に聴音で探し出した地点——

 入り口の真上。

 大当たりでした」


地下深くへと続く空間。

大当たり。


二つの言葉が、セレステの胸を躍らせた。

本当に、正確な位置を見つけ出したのだ。


「ダルカルヌピカ」


「はい」


「よくやった」


セレステは指でダルカルヌピカの顎を、下から撫で上げた。

ただ、褒めたいと思った。

それだけだった。

鳥って、どこを撫でると気持ちよく感じるのか、ということもよくわからないまま。


しかし


「ヒャイッ!」


…ダルカルヌピカが、奇妙な悲鳴をあげた。

いや、それは悲鳴というか……


「…大丈夫?」


「はふぅ…

 きょ、強烈な初体験…

 ありがとうございます…」


「…ああ」


この姉弟って、もしかすると変態の遺伝子でも共有しているのかな。

皆有用というか、有能な家臣なんだけど…クセが強すぎる。

なんで自分の周りにはこんな連中ばかり集まるのか——

と、自分のことは棚に上げておいて愚痴を言うセレステだった。


「しかしその『初体験』云々、マジでやめてくれない?」

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