留守の間に
週末に用事があって、執筆がものすごく遅くなってしまいましたOTL
お待ちになってくださっていた読者の皆様には、深くお詫び申し上げます。
とにかく週五回の更新は守るため、大変遅くなりましたが更新させていただきました。
ダンテヒ領の国境を通過したセレステは、そのままノンストップで北上した。
「北端の国境までは…
今の速度のままなら、あと40分ぐらいかかるか?」
*はい。ケイレスの領土は南北が短く、東西にかけて長いですから*
次の国境に着いたら出国の手順を踏まなければならないが、それまで特にやることもない。
ちょっと仮眠でも取るか、とも思ったけど、寝起き顔で国境警備隊やその他のヒトビトの前に出るのも望ましくない。
「…あ、今日地球で用事があるの忘れてた。
ゴメン、ちょっと行って来たいけど、頼めるか?」
*そうですね—
飛行するだけだし、何かあっても私だけでも対処できますから*
「だよな?
じゃ、行ってくるわ」
*はい、お任せください*
高速で飛んでいるデュエマのコクピットにゲートで出入りすることに問題はないか心配していたが、アリメカリセスやヤルデマラセナによると、
「マイロードのゲート転移は、固定座標だけではなく、特定空間という概念にも発生させられると思います。
例えば、走行中の車を転移先に指定した場合、車が先へ進んでしまい、道路の上に出てしまうのでは……
とマイロードは心配されていますが、実際には『指定した車内』そのものに転移ポイントが固定され、車と等速で移動しているようです」
要は、固定された座標にだけゲートが開けない、というわけではないということだ。
「じゃ、用事が済んだら戻ってくるからな。
もし予定より早く到着したら、待機していてくれ。
関所には、私自ら顔を出さなければならないし」
その言葉を残したセレステがゲートで地球へと消えたあと、ハーヤ・ナクマのコンソールに何かのメッセージが表示された。
CAUTION :
光学迷彩モード:活性化
最大戦速モードへ移行
搭乗者への深刻な負荷が予測されます
実行しますか?
*聞くまでもない、イエスだよ*
その瞬間。
外部からハーヤ・ナクマを視認できなくなった。
15秒後、地上には何かが爆発したような轟音が、遠くから微かに聞こえてきた。
*マイロードが戻られる前に、ちょっと現地調査をな*
***
「あーごめんごめん。
みんな怒った?
でもね、毎年受けていたんじゃない?」
地球に戻ってきた天城は、ノルガー達を連れて予防接種に行っていた。
普段1匹だけを連れて行くなら、ケージに入れて持つか担ぐかで移動するが、一気に3匹は流石にきつい。
近所の病院だけど、車で移動していた。
年に一度の予防接種だし、十年以上毎年受けているからもう慣れてくれてもいいのに、と思ってはいるが、それはあくまでも人間の都合。
猫たちにとっては、行きたくないところに連れられ、なんとも嫌な体温の測り方をされ、チクチク刺される—そんな嫌なイベント以外の何物でもなかった。
「あ、そういえば所得税も…」
トゥシタに行き来しながら生活しているうちに日にちの感覚が少しおかしくなってたまに混乱していたけど、今日だって危うく納税の期限を越してしまうところだった。
「延滞税なんか、嫌なんだよなぁ〜
それでなくても、税金なんか少し苛立つのに…んん?」
なんでだろう。
トゥシタでは莫大な額の税金を納付している。
それどころか王室に献上までしていても、あれは喜んで納付している。
なのに、ここでは、実は大した額でもない税金だというのに、何か腹が立つのは。
「……やっぱり、あそこでは支配層に属する身分だからか。
それに、全部お前らに還元されるしねぇ。
………
はは、私って、実に現金なやつだな」
だから、ちゃんと仕事しろよ、為政者の連中。
こちとら納税者様なんだ。
愚痴るぐらい、許されるだろう?」
そういえば、トゥシタでの自分は、為政者サイドなのか、納税者サイドなのか。
自分でもわからなくなってきた。
『専売で、税収を増やしてあげる…と考えていたのにな。
いつの間にか、大臣たちから勧誘騒ぎ…
いやいや、ありえない。
私には政治の才はないよ』
とは思っているが、もはや国政から足を引ける段階など、とっくに過ぎていることを。
天城ことセレステは、まだ知らない。
「はい、みんな、お家だよ〜
病院お疲れさま。おやつ食べまちゅか?」
三匹共、もうすっかり老猫だというのにまだまだあんな、赤ちゃんをあやしているような話し方。
何歳になっても、天城の中では、あの子達はまだまだ赤ちゃん猫のままだった。
***
「ただいま〜」
*わわわ!!!
ま、マイロード、お帰りなさい……!*
地球で8時間過ごしてもここでは1時間しか経たないから、40分なら地球で5時間ちょっとぐらい…と思って、急いで用事を済ませてトゥシタに戻ってきたら、ヤルデマラセナが異様なほど取り乱していた。
「……なんだ、私のいない間、例のエロ本でも嗜んでいた?
これは悪いことをしたな〜
じゃ、また後で来る……
んんん?なんだこの風景?」
半分揶揄うように言っていたセレステだが、スクリーンに映る周囲の風景は、どこかおかしかった。
見渡す限りの砂漠と、荒れた荒野。
「うわあ……
これはひどい。
ケイレスの北方って、ここまで不毛の大地だったんだ?
そりゃ、金欠にもなるわな。これじゃ」
*いえ、マイロード、それが…*
「うん?」
*…もうケイレスの国境を超えています。
マイロードがお戻りになる前に、少し事前調査をしておこうと思いまして…*
「…え?
あ、ごめん。私、予定時間より遅くなっていたんだね?
いや、でもそんなに遅くなっていたのか?
それに、出国申告はちゃんとした?」
*あ、いや、それが…
さっき地球にいらっしゃってから、30分も経っていません*
「あ、そう?
うん、で、どういうこと?」
普段のセレステとなんら変わらない話し方。
しかし、声が少し…低くなっている。
*お、お怒りになっているのでしょう…か…*
「君の答え次第だね。
何、私が怒ったって、君にどうこうできる話でもないけど」
確かに、三次元に顕現していない彼に、セレステが何かできるはずもない。
だが、それ以上に、セレステが自分に『怒っている』こと自体が怖い。
*も、申し上げます。
地球にいらっしゃった後、無人モードに移行しました。
光学迷彩で地上から視認できないようにし、無人だからできる最大戦速で飛んできました。
お戻りになる時間に合わせて、あの場所に戻っていればいい、と思いまして…*
まるで、お袋が留守にした間に、いかがわしい悪戯をしようとしていて、予定より早く戻ってきた母にバレた——
「中坊かよお前は」
*申し訳ございませんでした*
「いやまあ、君なりに頑張ろうとしたのは、大いに結構。
だいたい、40分も待てずに地球へ行ってしまった私にも非はある。
だがね、事前調査を考えていたら、そうだと言ってくれたら済む話だよ。
何も言わず一人で行動するから、気まずい思いをするじゃないか。
それにね…」
間をおくセレステに、ヤルデマラセナは思わず緊張した。
「光学迷彩?
何それ怖っ!
そんな機能、あった!?」
*え、知りませんでした?*
「いや、全然!」
制作したあなたが知らなければ、誰が ——!
と言いたいヤルデマラセナだったが、それは黙っておくことにした。
「まったく…
では一旦、ケイレスの領内に戻ろう。
出国申告ぐらい、ちゃんとしておかないと、後で疑われるんだ。
光学迷彩のことを、他に知っている者は?」
*マイロードが公開していないから、隠しておきたいとお考えなのかと……
そう判断して、まだ誰にも言っていません*
「うん、それがいい。
しばらくは内緒にしておこう」
確かに、有用すぎる機能ではあるけど、それだけ疑心暗鬼の種になりかねない。
今のように、他国の国境をまったく気づかれずに出入りできるとなると、せっかくの友好関係を築いた国からも、疑われることになる。
とにかくセレステは光学迷彩を発動し、Gを感じないギリギリまで速度を上げて、ケイレスの国境内に再進入した。
念の為関所から観測されなさそうな位置まで行って光学迷彩を解除した後、ゆっくりと国境要塞に接近した。
「急にすまない。
ケイレスの「女王の友」であり、フェリデリアのレギス・バシ・オオテル・セレステにして、バリアーダのプライ・マハのルアファンである。
この国境を越えて行きたいと思う。
警備隊長殿への取り次ぎを願いたい」
案の定、国境要塞は大騒ぎになっていた。
前回の使節訪問の時、ダンテヒ領から入って主に南の方を巡回して王都ウルバーサに向かったが、ウルバーサより北の方には来ていなかった。
そのため、噂のフェリデリアの巨大ヒト型を実際に見るのは、これが初めてだったからだ。
しかし、ダンテヒの正規入国確認証と——何より、女王陛下自ら授与された、あの輝かしい二等大勲章を見せつけられては、ケチのつけようがない。
「いきなりの訪問ですまないな、警備隊長殿。
迷惑をかけたくないが……やはり、こちらの領主殿にも、ご挨拶しておくべきだろうか?」
セレステとしては
『面倒なんだからこのまま通ってもいい?いいよね?』
——という気持ちで言ったつもりだった。
だが、僻地の警備隊長としては
『領主を呼んで来い』
としか聞こえなかったのが、笑えない行き違いだった。
「は…はは!
ただちに伝令をお送りします!
辺鄙なところですが、どうぞ詰め所に!」
どうやら、認識違いがあったようだと、セレステは気づいた。
「あ、いや…
わざわざ領主殿にこちらまで来てもらうのも、悪いな。
領主館は、こちらから目視できる距離にあるか?」
ポケットからスマホを取り出しながらそう聞くセレステに、ヤーケフ・アンテロの警備隊長が畏まった態度である方向を指してみせた。
「はい、少し距離はありますが、あちらになります」
スマホをカメラモードにし、ズームししてみるとそれらしい建物が見えてきた。
「君に確認してもらいたいが…
これか?ここの領主館は?」
「はい…
はいいいいいいいい!?」
何十倍もズームできたって、使い道なんかないのに——と、いつかのラインバルトたちの前で何気なく言って呆れさせたことがあるセレステだったが、まさかこんなに活用する日が来るとは、自分でも予測できなかったことだ。
「ふむふむ…そうか。
じゃ、こちらから向かわせてもらおう。
誰か、証人になってくれる…
あ、誰かここの状況を報告できそうな兵士を一人、借りてもいいか?」
「は、はあ。
それは構いませんが…
おい!トレダネ!こちらに来い!」
警備隊長の指示に、近くにいたフェネの兵士が、急いで走ってきた。
「お呼びですか、隊長!」
「こちらのお客様を、領主館まで案内して差し上げろ。
しかし……領主館まで結構距離がありますが。
大丈夫でしょうか、閣下?」
多分警備隊長はセレステが領主館まで歩いて行くか、でなければさっきまで乗っていたあのヒト型に乗って行こうとするのかと、そう思っていた。
それは至って妥当な判断だった。
……相手が、セレステではない限り。
「配慮、感謝する。
あいにく、距離など問題にならないのでな——」
それと同時に、みんなの目の前に、火花を散らす扉が、虚空に現れた。
「では、兵士?
領主館まで、同行してもらおうか」
全くもって平然とした顔をした『隣国の貴族様』が開いてみせた扉のむこうに領主館が垣間見えるのをみて、警備隊長は思わず、尻餅をついてしまった。




