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15.5 オルドの事情(4)

 オルドは封筒と私を交互に見比べる。

「コスモナイトで働く子たちの借用書よ。最初のものと、その債権を私が買い取り、新たに結ぶ借用書。この二つで、彼女たちは無期限無利息で元金だけ返済して借金はゼロになるわ。あと、コスモナイトとの雇用契約書。イリノアを同席させて、一人一人と契約を結んでね。この契約を拒むなら、最初の借用書が有効のまま、利息も契約通りに請求するしかなくなるわ」

「中を見てもいいっすか」

「どうぞ」

 オルドは封筒の中の書類を取り出すと、読み始めた。

「こんな条件じゃ、お嬢様が大損っすよ」

「そこは私が考えることで、オルドが考えることじゃないわ」

「・・・そうっすけど」

「あなたの役割は、この契約をすべて取り付けることと、今後、コスモナイトの運営、会計を担うこと。これがオルドへの雇用契約書よ。納得できればサインして」

 オルドの前に、昨晩作った雇用契約書を置いた。

 オルドはその契約書を真剣な様子で読んでいく。

「コスモナイトの運営方針は私が決めるわ。そこから外れない限りは、運営をオルドに任せたいの。10テール以上の出費に関しては事前に私に確認をしてね。それ以下なら自由にしていいわ。ひと月の会計を、私に月初めに提出すること。お金の出入りはすべて記録に残すこと。領収証は必ず全て、金額関係なく保管して、私に提出すること。経理内容は私が整理するわ。イリノアには、女の子の管理とお客の管理を任せるから、二人で協力してね。情報は常に、オルドとイリノアと私で共有すること」

「報酬は、月300テールっすか」

「基本給よ。お店の売り上げに乗じて出来高を上乗せするわ。その下に書いてあるでしょう、利益の5%。状況によって毎年見直ししてもいいわよ」

 オルドの目が輝いていく。

「今のあなたの本業も続けていいわよ」

「えっ、いいんすか!」

「コスモナイトの客が、あなたの客になるかもしれないし。その逆もあるだろうし。あなたの持つ情報網で器量のいい女の子が雇えたら、それはお店の利益にもつながるわ。お店の売り上げが上がれば、その分オルドへの報酬も上がるでしょう。相乗効果で、お互いが儲けられるんじゃないかしら」

「・・・いいっすね」

 オルドの声が上ずっている。

「ついに俺にも幸運が舞い込んできたか」

 期待から生まれる高揚感に、オルドの書類を持つ手が震えていた。

 オルドは街のゴロツキ程度の男だった。

 日銭を稼ぎ、奪い、生き延びてきた。

 今は高利貸し業を営み、いい服を着て、女を買えるだけの金の余裕もある。

 だが、そこが限界だと、オルド自身も感じていた。

 所詮は平民、どれだけ頑張っても、大金を稼ぐような事業には関われない身分だ。せいぜい、金持ちの使いっ走りが関の山だ。

 そんなオルドが、娼館とはいえ、店一つを任されるようになるのだ。

 オーナーは貴族と思われる女。正体は分からないが、金だけは持っている。なにより、あの恐ろしい記憶しか残らないマロウが付き従っている女だ。

 自分にもツキが回ってきたと思うのも、当然の成り行きだろう。

「私は結果重視よ。コスモナイトの運営に手を抜かないでね」

「もちろんっすよ!」

「各々、役割を分けてるから、イリノアと仲良くしてね」

「・・・まあ、向こうの出方次第っすけどね」

「オルド」

「・・・だって、あのばばあ、偉そうなんすよ!」

「イリノアは頭のいい女性だから、いろいろ見えてしまうのよ。彼女の進言は正しいわ。でも疑問に思うことがあったら、私に相談して」

「分かりました」

 しぶしぶと言った様子で、オルドは頷いた。

(この辺で出したほうがいいかな)

 オルドの様子を観察しながら、私は考えていた。

 この先、コスモナイトは私にとって重要な拠点の一つになるだろう。

 私は自由にヴィスコス公爵家を出入りできないから、どうしても店を任せる人材が必要になる。マロウやゼトアも、公爵家の中の仕事をしながらコスモナイトに関わることは難しい。

 ヴィスコス公爵家の外に、私の意図することを汲み取り、動いてくれる手足が必要だった。

 プレートに書かれたことを信じているが、プレートの記載は変化する。いつ未来が変わるかは分からない。

 だから、本当の意味でのオルドからの信頼が必要なのだ。私についていこうと思うきっかけが欲しかった。

 そのきっかけとなるのが、この紙だ。

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