15.5 オルドの事情(3)
カラン、カラン。
音を鳴らせて店のドアが開いた。
入り口には、重そうな布袋を抱えたオルドが立っている。
周囲に目配りをしながら、店内に入ってきた。
私の前に立つと、テーブルの上にドンと袋を置いた。
目の前に置かれた布袋は、金貨でパンパンに膨れている。
オルドはこれでもかと言わんばかりのどや顔だ。
「預かった封筒と引き換えに、きっちり2,332,800テール。やってやったっすよ!」
自分の命もつないだことが自慢になるのだろう。あの、レオルド・オブリス・サロンから大金を勝ち取ったのだ。
(まあ、あのサロンのオーナーは、今頃私からの情報を元手に奔走しているでしょうね。うまくやれば、自分の立場をさらに強固なものにできるし、同業者を出し抜けるし、一人丸儲け)
すでに中央警備団による賭博場の一斉摘発は実行された。その摘発にはレオルド・オブリス・サロンも入っている。だが、事前に情報を得ていたサロンのオーナー、ナルニエ子爵は、証拠の全てを隠ぺいし、難を逃れている。しかも、敵対していた同業者の情報は中央警備団へ提供し、中央警備団からは押収した顧客名簿を受け取っている。結局のところ、中央警備団も金で正義を決めるのだ。
(・・・腐ってる)
法も治安も、人の欲に左右される。それがこの「世界」だ。だから、その道理に合わせて、私も動けばいい。
「ご苦労様」
「いやー、もう苦労したっすよ」
オルドの話が止まらなくなる。どうやってお金を引き出したか、五体満足でこの難問を突破できたのか、物語を語るように饒舌にオルドは話し続けた。
私はそれを、黙って聞いていた。
しゃべりたいだけしゃべらせることが、オルドの満足感を満たすことにつながるからだ。
ここで不満を残せば、オルドの中で私への評価に疑いが残るから。
「サロンのオーナーであるナルニエ子爵から、再三、お嬢様に合わせろと詰められてますよ。でも、俺がちゃんと言ってやってますから!うちのお嬢様はそう簡単にお会いできるお方じゃねーって!」
オルドが胸を張って言った。
(すごいどや顔・・・褒めてほしいのね)
分かりやすくて、微笑ましい。
「正しい判断ね。やっぱりあなたに任せて正解だったわ」
そういうと、オルドは嬉しそうに、照れたように笑った。
「それじゃあ、報酬の400テールを抜いて、お金はゼトアに渡してね」
「・・・数えないんすか」
「だって、ちゃんと全部あるんでしょう」
「もちろん!1テールだって抜いちゃいないっすよ!だけど、お嬢様は不用心っていうか、お人よしっていうか」
「オルドなら大丈夫だと思うから」
そういうと、オルドは照れたようにあたふたとしていた。
「それに、裏切ったらどうなるか、身をもって知っているでしょう」
私の言葉に、オルドは動きをぴたりと止めた。体を縮こませて周囲を見回す。
「今日はいないわよ」
マロウのことだ。
オルドはホット胸をなでおろした。
「私の言葉をすぐに信じるのはお人よしじゃない?」
「えっ」
オルドが体を硬直させる。
私は小さく笑いだす。
この遊びは癖になりそうだ。
「今日は本当にマロウは来ていないわ。大丈夫よ」
「お嬢様は人が悪いっ」
「私をお人よしって言うからよ」
「・・・すみません」
謝ってほしいわけではなかったから、もうこの話はここで打ち切ろう。
「それじゃあ、本題に入りましょう」
私は厚みのある封筒をオルドの前に置いた。




