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15 コスモナイト(4) ※この回は性的表現が含まれます。

 反対するマロウをなだめて、私はイリノアと二人で用意された部屋に入った。

 ばたん、とドアが閉められる。

 イリノアが部屋の奥に進み、私に向き直った。

 私の魂胆を探ろうとする目をしている。


 面白い人だ。

 こんな場所にいて、卑屈さも、自虐的な様子も感じさせない。

 イリノアは「女傑」という言葉がよく似合っている。だから、この場所がイリノアには不似合いだと思うのだが、イリノアはこの場所が自分の場所なのだと思わせるほどによくなじんでいた。


「ここの客は、最低ね」

 私はわざわざと明るい声を出した。

「仕方ないだろう、こんな安っぽい娼館に上客なんか来やしないよ」

「客を選べないの?」

「お嬢ちゃん、なんにも知らないんだね」イリノアが鼻で笑う。「ここで稼ごうとしたら、どんな客でも取るしかないんだよ。羽振りのいい客は、もっとお奇麗な店に行くさ。そこにはもっと綺麗に着飾った女たちがいる。この店に来るのは金のない奴か、お綺麗な店に出入りできない裏のある奴ばかりさ。あたしたちは、そんな客から稼がないといけないんだよ」

「お店を変えることはできないの?」

「はっ、それが出来たら誰もこんな場所で体なんて売らないよ。ここにいる子たちはみんな借金があるんだ。この店にね。みんな親や縁者に売られてきたんだよ。金を返さない限り、ここから抜け出すことなんて出来ないのさ」

「でもあなたは、ここでなくてもいいでしょう」

 私の言葉に、イリノアが目を見張った。

「・・・何を知ってるのか知らないけどね、今更、こんなばばあを雇ってくれる店なんてどこにもないよ」

 イリノアが笑う。

 その表情は、決して楽しそうではなかった。


 イリノアがこのコスモナイトにいる理由は何だろうか。

 聞いたら教えてくれるだろうか。

(答えるわけないよね)

 私に対して警戒を解かないイリノアが、本心を教えてくれるはずはない。

 でも。


『今もコスモナイトの娼婦たちに字を教えている』


 イリノアのプレートに書かれた一文だ。

 これが原因で投獄されたのに、同じことをまだ繰り返しているイリノア。

 また大事なものを失うかもしれない危険を冒して、どうして女たちに字を教えるのだろう。男尊女卑の「世界」に抗って、女たちに知性を与えようとする、その勇敢さはどこから来るのだろう。

 聞いてもきっと、答えてくれない。

 私はイリノアに、受け入れてもらえていないから。

「ここの人たちは、ここで働きたいのかな」

「馬鹿かい?あんた。どこにこんな糞溜めのような場所で体を売りたい女がいるんだよ。娼婦にだってプライドはあるんだよ。客なら誰でもいいってわけじゃない」

「嫌な客は拒否できないの?」

 聞かれたイリノアは、見せつけるように深くため息を吐いた。

「ここにいる子らはみな、客を選びたくても選べないんだよ。借金を返さない限りここから抜け出せない。その借金だって利息を返すのがやっとさ。減りもしない借金のために毎日毎日、殴られてもなじられても、媚びを売って男に抱かれるしかないんだよ。客を選ぶなんて贅沢が出来るわけないだろう。毎日返済があるんだ、その金を稼がないと、もっとひどい客を付けさせられる。そうなればもう、ここにすら戻ってこれなくなっちまう」

 イリノアの言葉の中に、悔しさが滲んでいた。


 自分の借金でもないのに、背負わされている理不尽さ理不尽さに抵抗することもできない。

 誰も助けてくれない。

 戦う力や知識を持った人に助けを求めることもできない。

 世の中を、そのすべてを恨んでも当然の環境の中で、客を選べることが贅沢だと言う。

 逃げることも、抗うこともあきらめているのだとしたら、コスモナイトの娼婦たちは、どこに救いをもとめるのだろう。

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