14 カラス婦人(4)
オルドが息をのむ。隣でマロウも驚いたように私を見たのが分かった。
私はオルドから目を離さなかった。
心臓は壊れるのではと思うほどに収縮している
でも、それを知られてはいけない。
この場で一番上に立つのは私なのだと、オルドに思わせないといけないのだ。
稼いだお金を持ち逃げさせないために。私に付くことで自分に利益があると信じ込ませるために。
「まだ死にたくねーしな。今日はおとなしくしてやるよ」
「暴れてもいいのよ。私の求める結果さえ出してくれれば」
「・・・俺に何をやらせたいんだ」
「ちょっとお使いを頼みたいだけよ」
オルドの顔に不安の色が浮かぶ。
上々な出だした。オルドは私の存在に恐れを感じ始めている。
「完遂できたら、この後も仕事をあげる。私に付けば、いい稼ぎになるわよ」
「・・・大した自身だな」
「楽しくなってくるでしょう」
オルドがちらりと、マロウを見た。
大きく息を吸い込むと、「分かった、俺は何をすればいいんだ」と、低い声で聴いてきた。
「簡単なことよ。今から私はそこのサロンでお金を稼ぐの。あなたは私の稼いだお金を受け取って、約束の場所まで持ってくる。それだけよ」
「・・・いくら稼ぐんだ」
オルドの声がこわばっている。かなり警戒していることがわかる。
私は笑みを絶やさないように気を付けながら、言った。
「見てれば分かるわ。たぶん全額を今日、回収することはできないでしょう。半額回収が最低ライン。それ以上であれば上出来よ。サロン側が支払いを渋ったときは、これを渡してちょうだい」
青い封蝋がされた封筒を、オルドに渡した。
「これは?」
「渡すときに、こう言って。仕掛けられた網にかかる前に、どの魚を釣り上げる?ってね」
オルドは意味が分からないようだ。
「この意味が分からないようなら、この先、生き残るなんて無理よ。一緒に網にかかるのね」
「それも伝えるのか?」
「言えば、向こうは顔を真っ赤にするでしょうね。あなたは彼らからすれば道端の石ころ同然でしょ」
私の言葉にオルドが不快感をあらわにする。
「その石ころにつまずく姿を見たくない?」
オルドは一瞬止まり、にたりとした。
「面白そうっすね」
私への言葉遣いが、少し変わったことに気が付いた。
「やり方は俺の自由でいいんすか?」
「ええ、私には結果が大事だから。この封筒だけでは意味がないのよ。もう一通の封筒は、残りのお金と引き換えよ」
「その封筒はどこに?」
「ここにはないわ。今日は必要ないでしょう」
「全額受け取れたら、渡さないといけないんじゃないっすか?」
「その時には、間に合うように届けるわ」
私がまだ、オルドを信用していないことがわかるだろう。
オルドはそれ以上を聞いては来なかった。青い封蝋の押された封筒をジャケットの内ポケットにしまう。
「それじゃあ、行きましょう」
私は扇を広げて、口元を隠す。なるべく優雅に、意味深に。
(あ、大事なことを伝えてなかった)
私は振り返ると、オルドを見た。
「今日、上手にできたら2000テール、残りのお金を回収出来たらさらに4000テール、支払うわ」
「・・・まじか」
「いい稼ぎになるって言ったでしょ」
「今日全額回収出来たら」
「側近で6000テールよ」
オルドが喉を鳴らす。気合が入ったようだ。
「・・・おい」
ずっと黙って聞いていたマロウが、耳打ちしてきた。
「やりすぎじゃないのか」
「二人にはもっと払うわよ。それだけ稼がなきゃね」
「・・・俺は金が目的じゃないぞ」
「分かってる。でも、私の気持ちだから」
受け取って、と目で訴えた。
マロウがため息をつく。
さあ、行こう。
マロウの背中を押して、私はレオルド・オブリス・サロンに向かった。
「そうだ、俺はあんたをなんて呼んだらいいっすか?」
オルドが後ろから聞いてきた。
「奴らに聞かれたときに、名前も知らないんじゃ俺の立場がないっすよ」
「んー・・・」
(名前を付けるのって苦手なんだよね)
迷って、思いついたのは、
「カラス婦人」
「だせー」
オルドの間髪入れないツッコミに、気恥ずかしさがこみあげて、返す言葉もなかった。
まあ、マロウに蹴り飛ばされるオルドを見たから、気持ちを落ち着かせることが出来たけど。マロウの口元も笑っていたことに気づいたことは、知られたくはなかった。




