13 作戦会議(7)
サロンには、明後日に行くことで話は終わった。
厨房から部屋への帰り道。
私はゼトアと二人で、人気のない詰めたい廊下を歩いていく。
部屋まではゼトアが送ってくれるのが日常となっていた。
ふと、ゼトアが立ち止まった。
私の足も止まった。
どうしたのだろうかとゼトアを見ると、意外にも、真剣な目をしたゼトアが私をまっすぐ見てきた。
「・・・最近になり、少しではありますが、息子と普通の会話ができるようになりました」
突然の告白に驚いた。かける言葉も忘れて、ゼトアの告白を聞いていた。
「今まで父親として何かをしてやれたことはありませんでした。生き残るための手段を教え込み、あとは勝手に成長した息子に、父親としてなんと声をかければいいのか、正直分からなかったのです」
ゼトアは苦笑する。
「生き残るために必要な知識や技術を教え込むことで自分の役割を果たしてきたと思っておりましたが、それを父親とは言わないでしょう。分かってはいたのですが、自分ではどうにもできなかったのです。今更どう変えていけばいいのか分からなかったのです。行動に移すこともできずに、ただ目を背けるばかりでした。情けない父親です」
「・・・そんなこと」
世の中には、もっとひどい親がたくさんいる。子供に感情や未を押し付ける親もたくさんいる。すべては子供の為と、その一言が免罪符になると錯覚して、子供の人生を操作しようとする親が、いる。
ゼトアは、子供にとっての「支配者」ではなく「親」になりたいと思う気持ちがあったのだろう。だからそれほどひどい親ではないと思う。
そのことを伝えるには、何から話せばいいのか。迷っているうちに、ゼトアの話は続いていく。
「まさか、息子の淹れるコーヒーが飲めるようになるとは思っておりませんでした。今まで水すら出さない息子が、私の分までコーヒーを淹れてくれる、それが日常になっていることが、いまだに信じられない思いです」
「水も出さないって、マロウの態度が悪いんじゃない」
「まあ、原因は私にあるのでしょう」
ゼトアは少し寂しそうに笑みを浮かべている。
「このような奇跡を与えてくださったお嬢様には、感謝しかありません」
「私は何もしてないわよ」
「ご謙遜を」
「本当に・・・まだ何もできてない」
「これからでございましょう」
「そうね・・・これからよ」
今はまだ準備の段階。それが整ったら、すべてが動き出す。そう計算して動いている。ゼトアにも、それが伝わっているのだろう。
「お嬢様はいったい、どれほど先を見ているのでしょう」
答えられない質問ばかりで、心苦しくなる。そんな思いが表情に出てしまうのか、ゼトアは困ったように笑んだ。
「さあ、お部屋に戻りましょう」
促されて、私は頷いた。
夜の邸内の廊下を歩くとき、いつも感じることがある。
暗く冷たい廊下、先の先まで、明かりはない。奥に行くほどに闇は濃くなり、振り返ると、同じように暗い廊下が続いているだけ。
「ミリア」の人生のようだと、思う。出口が見えない、明かりが灯らない、まっすぐ続く道には逃げるための脇道もない。
どちらに進んでも同じ廊下がただ続いているだけだ。
(ねえ、ミリア。逃げ道がないなら、壁を壊せばいいのよ)
どこにいるかも分からない少女に語り掛ける。
逃げ道がないなら、作ればいい。邪魔な壁なんてぶち壊してしまえばいい。壊したことで変わってしまうかもしれない「世界」のことを、私だけが心配したってどうしようもない。「世界」の流れを守るために「ミリア」を犠牲にしたとして、守った何かが、「ミリア」を守ってくれるわけではない。都合よく使われるだけなんて、そんな理不尽を許してはいけない。理不尽には理不尽を、「ストーリー」なんてくそくらえだ。
だから、打てる手を打って、やりたいように稼ぐつもりだ。利益を追求することが、私らしい生き方なのだから。
(あなたとは違う生き方だろうけど、今よりはマシになるはずよ)
返事がないとわかっていても、語りかけずにはいられない。
(だから、私がやることが何であれ、見逃してね)




