13 作戦会議(5)
(あ、嫌な顔してる)
ゼトアが、マロウまでも嫌そうに顔を歪めていた。
「もう一度」
「目立つ行動はしないんじゃなかったのか」
マロウが遮るように言った。
稼ぎ過ぎれば、帰り道で死体になる可能性が高くなる。マロウのいいたいことは分かっている。
「正攻法で稼げる額じゃないわ」
「だからだっ。そんな額をサロンで稼いだら、無事じゃいられなくなる!」
「でも、二人がいてくれるでしょう」
間違いなく、この二人は強い。特にゼトアの強さは、この公爵家の騎士たちでも太刀打ちできないほどらしい。とプレートに書かれている。
(だって元暗殺者だし)
心配があるとすれば、ゼトアの年齢だろう。若かりし頃よりは、どうしたって腕も体力も落ちているだろうから。
(でも、プレートには何も書かれてないから、ここで死ぬようなことはないよね)
「私は稼げるだけ稼ぐから、その後はお願いね」
「・・・無茶言いやがる」
マロウが苛立ちを隠すことなく舌打ちをした。
「なんでそこまで・・・俺たちを信じられるんだ」
マロウの瞳が揺れている。戸惑っているのだろう。
ごめんなさい。
心の中で謝るしかなかった。
説明して上げれたら、きっとマロウもこんな風に戸惑わないのかもしれない。
私が二人の過去を知っていると、二人は知らない。長い時間をかけて信頼関係を築いてきたわけでもない。お互いに相手の出方を窺っているいる状態で、一方的に全幅の信頼を寄せられても、迷惑なだけだろう。
本当なら、同じ速度で距離を詰めて、同じだけの時間をかけながらお互いを知っていけたなら、本当の意味での仲間になれるのかもしれない。お互いが過去を打ち明けられるまでになれたら、向けられる信頼を受け止められるようになるだろう。
でも、それをするだけの時間の余裕が私にはないのだ。
無理でも無茶でも、私の歩幅に付き合ってもらうしかない。
(一人じゃできないから、巻き込むしかないの)
だから、こめんなさい。
マロウに答えられず、黙り込んだ私に、ゼトアは苦笑した。
二人ともまだまだ未熟だと、内心呆れている。ただ、その未熟さが嫌いではなかった。
「お前のその頭でっかちなところは、いつになったら直るのだ」
あきれた声でゼトアが言う。
マロウが睨んでくるが、怖くもなんともない。
「お嬢様が困っていらっしゃるだろう」
わざと大げさにため息をついた。
「私はまだ、お嬢様についていくことが正しいのかどうか、確証が持てないでおります」
ゼトアの言葉に、なんと返せばいいのか分からなかった。
「信じるには情報が足りないのですよ。お嬢様は言動のすべてが私の予想を超えるのです。先の読めない事態にはどうしても慎重にならざるを得ません」
「・・・そうだよね」
それが当然だろう。
現実味のない世界にいるから、急展開でも事は運んでいくと、甘い考えをしていた。もしかしたら、私にも「ストーリー」があって、都合よく展開が進んでいくのかもと、期待していた。
(そんなにうまくいくわけないか)
次の手を考えなければいけない。一人でも打てる手を見つけなければ。
「ただ」とゼトアが言葉を続ける。
「私が読み切れていないことは、お嬢様が勝つか、折れるか、その勝敗です。私は負け戦はしない主義ですので、本来であれば、現時点でお嬢様に肩入れすることはなかったでしょう。それなのに」
ゼトアが言葉を区切る。息を吸い込み、
「なぜか、お嬢様に賭けてみたいという気持ちがあるのです。こんなことは初めてですよ」
私はゼトアを見た。
ゼトアが何を考えているのかは、相変わらず見えてこない。それでも、その視線から敵意や拒絶は感じられなかった。
「お嬢様がどこを目指し、何を成すのか、見てみたいと思ってしまうのです」
(それって、つまり・・・)
胸が高まっていく。
「この年になって、あと一回くらいは勝算の見えない賭けに手を出すのも悪くないと、思っているのですよ」
どうしよう。
周りは敵ばかりで、自分は異質な存在だからと孤独しか感じられなくて。
そんな「世界」で背中を押してもらえたことが、嬉しかった。自分は前に進んでいいのだと言ってもらえている気がして、ほっとした。私と同じ場所に立ってくれたゼトアの存在を実感することで、ようやく自分の足元がちゃんとあるのだと感じられた。
泣きたくなって、必死で涙が出ないように呼吸を繰り返す。
ゼトアと目が合い、私の足掻きはお見通しだと言われているような笑みに、恥ずかしくなった。
「だから、説明は不要です。根拠は後付けでかまいません。目的さえ分かれば、そこにお付き合いいたしましょう」




