13 作戦会議(4)
1年後、誤差を考えてもあと11か月後。
北部の領地内は戦場と化す。
北部を守ってきた領主、スヴェルニーチェ公爵家の弱体化により、北部の部族たちの侵攻を防ぎきれなくなるのだ。
北部の地は戦火で燃え上がり、その脅威は中央都市にまで押し寄せる。その隙をつくように周辺諸国も侵攻を始め、エストアル帝国は長い戦争に身を投じることになるのだ。
全ての発端は北部から始まる。
北部を守ることが、この国の維持につながる。そして、私は移住先の候補として北部を視野に入れているから、自分の未来のためにも北部を守らなければならないのだ。
それでも。
戦争が起こらないことが最善の結果だが、戦争自体を防ぐことはできなだろうと思っている。
そもそも、北部が弱体化した要因は、北部の気候によるところが大きい。北部の土地は、一年の半分以上を雪で覆われている。その為、雪解けからわずかな期間でのみ作物を育てることができ、その収穫量だけでは一年間に必要な食料の確保には到底届かない。北部は常に食糧不足という問題を抱えているのだ。その為、不足する食糧の援助を、他の諸侯や皇室に求めなければならない。屈強な騎士団を統制し、常に侵攻の危機に直面しているからこそ独自の軍事決定権が与えられ、皇室の権威を脅かすことが出来るほどの軍事力を保持していても、北部は反旗を翻すことはできない。雪に覆われた領地と、領地民を守るためには、皇室に膝をつくしかないのだ。
不憫だと、思う。
北部という土地に根付いたために、下げなくてもいい頭を下げ続けているのだから。
すべてを分かったうえで、皇室は北部を利用しているのだろう。利用されていると分かっていても、利用されることを受け入れなければならない。
北部の領主、スヴェルニーチェ公爵家の当主は、どんな思いを抱えているのか。私には想像もつかなかった。
(自然災害なんて防ぎようがないし、私が警告しても信じてはもらえないだろうし、戦争だって回避できるか・・・たぶん私では何もできない)
いくらプレートが読めるからといって、先のことが分かるからといって、本当に私にできることは限られている。私がプレートの内容を知らせても、信じてもらえなければ意味がないのだ。
ならば、私にできることは何だろうかと、考えてきた。できることを並べ、最も有効かつ効率的な方法を模索してきた。
幸いにして、「ミリア」には時間があったから。誰も寄り付かない「ミリア」は、一人で一日を過ごさなければならなかった。だから、過去の私と違って、余るほどの時間があった。知識を得るための書物は、ヴィスコス公爵家には山のようにあった。考え込む環境が整っていたのだ。
そうして導き出した結論は、短期決戦、痛み分けの収束だ。戦争に勝つことを目的にはしない。勝てば、巻けた側の恨みを買うことになる。その恨みは、次の戦争につながっていく。戦争は命を奪うが、お金も奪っていく。戦争で儲けるのはいつの世でも、戦う側ではなく、戦わせて観ているだけの自称権力者だ。そんな奴らに流れるお金を、根こそぎ奪ってやりたい。
それを可能にするアイテムが、鉄だ。
鉄は武力を支えている。強さの象徴だ。
鉄の保有量を誇示し、圧倒的武力を見せつけて、相手の戦意を喪失させる。そのうえで和平を持ち掛け、恩を売り、次の戦争を抑止する。
戦争への不安を少しでも和らげられたら、領地民の意識は、産業へと向けられるだろう。生きるために戦うのではなく、豊かになるために働くことを。
知ってほしい。
私の構想はここまで形にできているのに、説明だけが出来ないのだ。
言葉が出ず、黙り込んだ私にゼトアはそれ以上聞いてはこなかった。
「鉱山の採掘は、多額の資金を必要とします。まだ発見されていない鉄鉱を発掘するとなると、どこからも融資を得ることは難しいでしょう。こちらの信用を示すには、身分も前例もない状態では、話すら聞いてもらえないと思います」
「分かってる。誰かの手を借りることも、手を組む相手を探すことも、する気はないわ」
「では、どうしますか」
聞かれて、私はニヤッと笑った。




