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13 作戦会議(3)

(41歳のおばちゃんにはまねできないよ)

 結局、自己中心的かつ理解不能な言動を巻き散らすことも、目標に向かって自分のキャパも考慮せずに全力疾走することも、私はできなくなってしまった。

 年齢を言い訳に、適度に力を抜くように見せかけて、培ったスキルをフル活用して、何食わぬ顔で仕事を達成していくことしかできない。必死な姿を見られることが恥ずかしいと、どうしてもその思いがぬぐい切れないのだ。

 今だって、私は現状を打破するために必死になってもがいているわけではない。手段を選び、求める結果が導き出せる方法だけを実行している。結果が予測できないことには手を出さない。そんなやり方が染みついていた。

(昔はもう少し、いろいろなことに必死になれたのにな)

 時間がないことを理由に効率を重視して、無駄の削減をしてきた結果だ。無鉄砲な活力を失い、社会的な肩書と出世の道をつかみ取った。誕生日を一人ですごすオプション付きだ。そんな私の人生は成功しているのだろうか。その評価をしてくれる人は誰もいないから、分からない。

 結局失ってしまったそれらが、今では懐かしく思えてしまう。

 あの日常に、私は戻れるのだろうか。

 その疑問を心の奥に押し込めた。

 そこだけは考えたくない。考えてしまうと、怖くて発狂したくなるから。

 ある日目が覚めたら、自分の部屋にいて、会議の資料が出来ていないことにげんなりしながら、慌ただしく会社に向かう。そんな朝が、また、来るのだろうか。


 押し付けられたこの「世界」が、今の私の現実だと、まだ、認めきれない。


 それでもじっとしているわけにいかないから。

 やれるだけのことはやってやろう。

 

 この「世界」で、「ミリア」として、打てる手がまだいくつもある。

 だから私は、正気でいられるのだろう。


 深く思いにふけっていた私を、マロウがじっと見つめていたことには気づかなかった。


 ふいに、ノックもなく、厨房のドアが開かれた。

 突然の来訪者に、体がこわばった。

 振り向くと、ゼトアが立っていて、ほっと体から力が抜けていく。

 私の手の中の契約書を見て、うっすらと笑みを浮かべる。

「ゼトア、この契約書、素晴らしいわ」

「喜んでいただけて何よりです」

「必要なことがすべて組み込まれてる。あとから何を騒ごうが、これさえあれば絶対にこの譲渡契約を覆すことはできないでしょうね。本当に完璧な契約書よ」

「すべてを読まれたのですか?」

「もちろんよ。一字一句漏らさず全部、契約書は把握しないとね」

 私の言葉に、ゼトアが笑んだ。今まで見てきた中で、何の曇りもない笑みは初めて見た気がする。

 ゼトアにとって、自分が作った契約書をすべて熟読し、完璧だと評価してもらえたことが嬉しいのかもしれない。

(私なんかに褒められて、嬉しいのかな)

 その疑問を正面から尋ねることはできないけど。 

「これで完全にボーゼ男爵とアスラ山を切り離せる」

「はい、あとは、マロウからお嬢様に権利の譲渡を行えば、完了です」

「マロウへ所有権が移転するのにどれくらいかかる?」

「4日ほどでしょうか」

「じゃあ、そのあとで次の手続きに移ってね」

「承知いたしました」

「この契約書は、ゼトアに預けるわ」

「・・・よろしいのですか?」

 ゼトアの問いかけに、私は頷いた。

 ゼトアの言いたいことは分かる。自分たちをそこまで信用していいのかと聞いているのだ。

 だから、私は迷うそぶりを見せないように、堂々と、言い切った。

「もちろんよ」

 ゼトアたちを信用しているから、というだけではない。人間とは、裏切る生き物だ。どれだけの関係を気付いてきたとしても、裏切る可能性がゼロパーセントになることは決してない。だから、信用ではなく、

「私はゼトアの仕事と能力を信頼している。この契約書」

 それが私の判断だ。自分で責任を負える範囲での選択だ。

「もちろんマロウのことも信頼してる」

 だから今回のことを任せたのだ。成果が気になって一日やきもきしてはいたが、失敗するかもとか、マロウが逃げるのではないかという不安はなかった。

「まあ、できる範囲でなら手伝ってやるよ」

 マロウが顔を背け、言った。

 照れているのが分かって、私は笑った。

「さて、そろそろ今後の展望を聞かせていただけるのでしょうか」

 ゼトアのかしこまった声。品定めするような視線。

 試されることは嫌いではない。この試練この試練に合格すれば、さらに高い評価を得ることが出来るから。

「まだ、計画と呼べるほどの形に組み立ててはない、ただの思いつき程度のものよ」

 私の言葉に、ゼトアゼトアは軽くうなずいた。

(本当は、企画書にもできない思いつきの状態で誰かに話すのは・・・嫌なんだけど)

 ゼトアたちの協力を得るためには、私の目指す方向だけでも伝えないといけないだろう。

「まずは、アスラ山で鉄鉱の採掘、製鉄、加工を自分たちでできるように組織化したい。1年以内に独自で鉄の製品化を実現するの」

「武器ではなく、製品ですか」

 さすが、ゼトアだ。私の言葉のニュアンスを敏感に感じ取っている。

「最初は武器は作らない。作るのは鉄で補強した馬車、可動式の暖房器具、野営テント、生活に必要な器具、とかかな」

「売りさばくための鉄ではないのですね」

「いずれは、武器も作って売りさばくわよ。でもその前に必要なものを作らないと。ある一定数の製品を用意できるまでは、鉄は売らないわ。鉄鋼としても売る気はない。その間採掘と製鉄、その他の運営に持ちこたえられるだけのお金が必要ね」

「先ほど1年と言っていましたが」

「1年、アスラ山の運営を持ちこたえないといけないの。必要になるのは1年後。それもすぐにお金にはならないわ。商売になるのはさらに先だから」

「なぜ、1年なのでしょう」

 この質問が、一番答えにくかった。

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