12 執務室に呼ばれて(1)
目が覚めたら、自室のベッドに寝ていた。
確か、廊下で一休みしていたはずなのに。いつの間に戻ってきたのだろうか。
自分の行動を思い返してみるが、自分の足で戻ってきた記憶はない。廊下に座り込む私をゼトアが見つけてくれたのだろうか。そのまま部屋に運んでくれたのだろうか。
いくらミリアの体がやせ細っているからと言って、それなりに重さはある。運んでもらったのなら、手間を取らせて申し訳なかったなと思った。逆にゼトアが腰を痛めたりしていないだろうかと心配になる。
確認したかったのだが、ゼトアを呼ぶことができないため、この件もやはり夜まで持ち越しだろうか。
外は少し日が陰りだり、夕刻へと移っていく直前のようだった。
早く夜にならないかな。
毎日夜中が待ち遠しいが、今日は特に、焦がれるような思いだ。
マロウはもう戻ってきているだろうか。
結果が気になって、鼓動が早く波打つ。
きっと大丈夫。
手を握りしめ、深呼吸を繰り返した。
ガチャリ。
突然部屋のドアが開けられた。
前触れのない訪問者に、落ち着かせていた心臓がまた跳ね上がる。
(ここの人間はノックすることを知らないのか!)
この「世界」の礼儀作法など知らない私でも、女性の寝室にノックもなしに入ってくることが無礼なことくらいは分かる。それを平然とされるほどに、「ミリア」の立場が低いことも思い知らされた。
訪問者は、執事長のコルテオだった。
ピンと伸びた背筋と、隙のない立ち姿で、部屋の入口に立っている。
ただその視線が好意的ではないことがひしひしと伝わってくるため、訪問を歓迎する気にもなれなかった。私は無言でコルテオを見た。眉間に力が入ってしまい、睨んでいるように見えただろう。
私の睨みに動じることもないコルテオは、「旦那様がお呼びです」と、静かに言った。
(旦那様?)
誰だろうか。
コルテオの主人といえば、ただ一人。
(ヴィスコス公爵閣下!?)
思い出すのは、あの端正な顔立ちと、威厳がありながらも艶めいた雰囲気を醸す立ち姿だ。
そんなヴィスコス公爵家の当主が、私を呼んでいる。
一体何をしでかしてしまったのだろうか。
今まで、私がこの「世界」に来てから一度だって呼ばれたことはなかったのに。
コルテオの咳払いで、私は我に返った。
コルテオは、ベッドから動かない私を責め立てるような眼で見てくる。主人を待たせる不届者とでも思っているのだろう。
行かざるを得ない空気が流れていた。
(あの顔を直に見れるのは嬉しいけど、正直・・・行きたくない)
公爵家とミリアの間に引かれた越えられない一線を考えれば、対峙したくはない。
画面越しに見る作品くらいがちょうどいい。
とは言え、行かないわけにはいかないだろう。
私は諦めて、ベッドから降り立った。
コルテオは私が部屋を出るように、開けたままだったドアを背に、私が通り抜ける隙間を作る。
廊下に出た私は、コルテオの後をついて、ヴィスコス侯爵閣下のいる場所へと向かった。




