11 アスラ山(1)
今日の私は、そわそわしていた。気持ちが全く落ち着かない。
部屋の中をうろうろと歩き回り、今は人目を避けながら屋敷の中を歩いていた。
使用人が近づく気配を感じては身を隠し、また、彷徨うように歩き出す。
行く当てはない。
ただ、じっとしていられなかった。
その理由は、今日が私の命運を決める大事な局面を迎えているからだ。
結果が聞けるのは早くて今日の夜。それまでは、私が何をしようが、私の行動が結果に影響を与えることはない。だから、余計なトラブルを引き起こさないように部屋でじっとしているべきなのは分かっている。はったりでも、余裕のあるようにふるまうべきで、小心者をさらけ出すような真似は避けるべきなのだ。でも、できないでいる。
(大学受験の合格発表の時だってここまで緊張しなかったのに)
社会人になって仕事をしている中でも、これほど緊張して自分の行動が制御できないことはなかった。
(ああ、そうか)
唐突に、思い出した。
(計画のすべてを誰かに任せることが初めてなんだ)
必死に仕事をして、結果を残すことに躍起になっていた41歳までの私。
大きなプロジェクトをいくつも成功させてきた。
部下を持ち、支持を出し、多くの仲間と一緒に仕事をしてきた。
でも、いつも流れの中心に自分がいた。すべてを把握し、前線に立ち、大事な局面では必ず自分で動いた。仲間を信じていなかったわけではない。人に任せられない性分なのと、自分でやった方が確実に求める結果を引き出せると信じていたからだ。
だから、今回のように、自分では動くことができず、計画を託すしかない状況は、初めてなのだ。
(きっと大丈夫)
信じてみようと決めたから。
二日前に「レオルド・オブリス・サロン」でお金を稼いだ後、私はゼトアとマロウに計画を打ち明けた。
「アスラ山を買いたいの」
地図を広げて、位置を示す。
ゼトアは腑に落ちない表情をしていた。
「ここがどういう場所か、ご存じですか」
ゼトアはアスラ山のことを知っているようだ。
「植物も育たず、動物も生息できない廃山と言われている山でしょ。三年前には帝国地図から名前すら消されてしまった、忘れられた山」
「・・・知っていて、買うおつもりなのですね」
「ええ、必ず買うわ。そのためのお金よ」
私は、ルーレットで稼いだお金の入った布袋を地図の上にどんっと置いた。地図上に浮かぶプレートには、青字の表記はない。だからまだ、状況は変わっていないはずだ。今なら、所有者のボーゼ男爵に話を持ち掛け、アスラ山を買い取ることが可能かもしれない。いくらで買い取れるかは、交渉次第だ。それでも、さすがに手持ちのお金があれば十分に購入可能だろう。ボーゼ男爵は、今、日銭であっても喉から手が出るほど欲しいはずだから。問題は、だれが交渉するかだ。「ミリア」では、きっと、足元を見られるはずだ。まともに話すら聞いてもらえないかもしれない。もしくわ、高額な対価を吹っ掛けられるか、そのまま高利貸しに売り飛ばされるか。それほど、この「世界」では女性の社会的立場は弱い。自立とはかけ離れた価値観を女性は押し付けられている。
(そもそも、私はここから自由に出られない)
ボーゼ男爵と接触することも、今の私には困難な状況なのだ。
ゼトアに頼めないだろうか。
ずっとそう考えていた。年齢、立ち振る舞い、世情を知り尽くした経験、どれをとっても彼ほどの適任者はいない。ただ、どうやってこの話を切り出したらいいのか、考え続けて、まだ名案は浮かばない。




