09 立案(2)
アスラ山に目を付けた時、「ミリア」の持っているお金を「検索」してみた。
出てきた回答は「なし」。
何度やっても、同じ単語しか出てこない。
偽者だからと言って、養女としてここにいるのだから、お小遣いくらいは貰っているだろうと思っていたのに、「ミリア」はお金も、売ればお金になりそうな品も、何も持っていなかった。衣装ルームには、ドレスが5着、くすんだ色合いの地味なデザインばかりだった。とても売れそうにない。
(なんでこんなに何もないのっ)
あまりにも不自然な状況に、私はどう「検索」すればいいか悩んだ。
夜になり、メイド3人が鞭を手に部屋にやってくる。彼女たちの頭上を見比べた。3人とも、地方の家から奉公に出された娘たちだった。一人だけ名家出身がいたが、お金がなくて家にいられなかったのだから、大した違いはない。それにしては、3人ともブレスレットやネックレスがちらちらと、見え隠れしている。宝石が付いた、経歴とは不釣り合いに値の張る品だ。メイドはそんなに高給なのだろうか。
そういえば、この3人は比較的頻繁にこの部屋にやってくる。
それに気づいて、私は試しに「検索」をしてみることにした。
『メイド ミリア』
次のワードをどうしようか、悩んだ末に、
『着服』
その2文字に、緊張が走る。
私は「検索」を実行した。
『ミリアに割り当てられている毎月のお小遣い500テールを着服し、5人で分配している』
彼女たち3人のほかに、もう2人、仲間がいるということだ。
金貨1枚が1テール。
混銀貨1枚で1ニール。
そして、1テールが1000ニール。
一般的な平民の一カ月の収入平均が200テール程度らしい。
そう考えると、彼らの臨時収入は高額だと言えるだろう。
(お金を着服しておいて、私に暴力まで振るうのね)
使用人という立場にも関わらず、なんて傲慢なのだ。
(むしろ、着服するために、私を暴力で支配しているつもりなのか)
彼らは常に、ことあるごとに私に言葉を投げつける。
「お前が悪い」
「すべての原因はお前が作ってるんだ」
「躾けられて当然なのだ」
「平民の孤児がここにいること自体間違っている」
「誰もお前を受け入れない」
そして必ず最後にこう言うのだ。
「私たちがいないと、ここでは生きていけませんよ、お嬢様」
食事も服も、すべて用意するのはメイドたちだ。飲む水さえも。排泄物の処理も。
だから、「ミリア」は耐えるしかなかったのだろう。ここを出て、路地で物乞いに戻ることもまた、恐怖だっただろうから。
(でも、私は違う)
書庫で、私は地図を見下ろしながら考えた。
問題があれば、解決すればいいのだ。
問題があることに悩むのではなく、問題を解く方法を考えればいい。
「お金を作るためにどうするか・・・」
とにかく、早急に、まとまったお金を作らないといけない。
メイドたちからお金を取り戻すのは、まだ後でもいい。
「ここなら一番最短でお金を作れるんだけど」
今度は帝都の市街地図を広げた。建物の名称などが記された小さなプレートがいくつも浮かび上がる。
その中の一つに、私の視線が定まった。
『レオルド・オブリス・サロン』
会員制の紳士専用の社交場だ。一階はカフェスペースとして開放されているが、二階はすべて個室となっている。ひそやかな商談に使われる時もあれば、女性との逢瀬に使われることもあるようだ。基本的に会員である紳士しか出入りできないこのサロンも、その紳士が同伴すれば女性も入室可能となっている。同伴される女性の大半は愛人であり、このサロンの実態は、ただ快楽を楽しむための場所として機能しているのだ。
(どこにでもあるよね、こういうホテル的なものって)
どんな世界にいっても、男は同じで、人は快楽に弱いということだ。
だが、私が目的とするのは、昼間のこのサロンではない。
『毎夜、地下では帝国非公認の賭博場が開かれている』
非公認であれば、掛け金も違法な額が飛び交っているだろう。一瞬で破産か、大富豪か、そんな夢を見られるかもしれない。
少額で、高額な金を稼げる可能性がある場所だ。
「問題は、どうやって中に入るかってことね」
この賭博場もやはり、入るには会員証を持った紳士の同伴が必要なのだ。
私には、会員証も、紳士の知り合いもいない。
会員証を持っている紳士を見つけることは可能だろう。プレートと、検索機能を使えば誰が会員かは分かるはずだ。だが分かったところで、どうしようもない。
「中にさえ入れれば」
ギャンブルは好きではない。だけど、今は必要だから手段として考えているだけだ。
カードゲームであれば、相手の持ち札はプレートで知ることができるかもしれない。高い確率で可能だろうと予想できる。それを利用すれば、勝てるはずだ。いかさまをする前提でゲームに参加することに良心の呵責を感じるが、この一回だけだと、自分の中で言い訳を作り出す。必要な金額が稼げたら、それ以上の賭けには手を出さない。自分なりのルールを決めて、臨むつもりでいた。
「どうやって入ろうかな」
地図を眺めながら、また呟いた。
一人で考え込むとき、私は独り言が増えるのだ。声に出して、頭の中を整理していくのだ。会社ではやらないようにといつも気を付けていたが、今この書庫には私しかいないはずだから、つい、警戒が緩んでしまう。
「偽造・・・男装するか」
だが、まずこの屋敷から、ヴィスコス公爵家の敷地から外へ出ることが可能だろうか。
「・・・どうしよう」




