09 立案(1)
相変わらず私は書庫に入り浸る。
ようやく書庫にある書物の半分近くが取り込めたところだった。
残りあと半分。
すべての本を手に入れるためには、まだ時間が必要だ。だけど、ゴールは見えた。
このヴィスコス公爵家から、抜け出せる。
どうせなら、書庫のすべての本を手に入れてから、逃げようか。
その確たる希望が生まれてから、私は今までにないほどやる気に満ちていた。
目指す結果があり、そこまでの過程と手段を考えることは、好きだった。
あらゆる可能性を考え、より効率的に、より成果の大きい結果をどう導き出すか。それこそが、約20年という会社勤めの中で培った私のスキルだ。
(ここを出て生きていくために必要なものは・・・)
分かりきった問題だ。答えは一つしかない。
お金、だ。
どの世界でも、お金があって初めて次の一歩が踏み出せる。
そうなると、今最も必要な知識は、
「通貨と、相場を調べないと」
だから、今日は通貨に関係した本を中心に選んで読んでいた。
(相場は、今日、マロウにも聞いてみよう)
物の値段をいくつか聞いて、自分の知る価格価値と照らし合わせてみれば、大方の予想は付く。一般的な貨幣価値は書物の中で知ることはできるが、常に変動する物価に関しては、市場を知る者に聞くのが一番早く、正確だからだ。
初期投資額をどうにか準備して、人材の確保と育成、製造と流通の整備、やることは多いが、手順は大方組み立てられる。そして、資金の投入先は、決めていた。
私はこの国の地図を広げて、目を凝らした。
地図の上に、小さなグレーのプレートがいくつも現れる。視線を動かすと、別のプレートが現れ、消えるプレートもあった。
「やっぱり、ここだよね」
一つの山に視線を定め、私はほくそ笑んだ。
アスラ山
今私がいる中央都市から西にずっと行った先、国境近くの山だ。
もともと都市もなく小さな集落が3つ程点在している程度のさびれた地域だったが、8年ほど前に発生した大規模な山火事により、山を含む周辺一帯がすべて焼き尽くされ、いまだに作物が育たない土地になってしまった。集落は解体し、先住民は生まれた土地を離れちりじりになり、廃山となったまま忘れ去られている山らしい。古い地図には表記があったアスラ山も、昨年作られた地図からは、名前が消えていた。このまま本当に存在が失われる山なのだろう。
そのアスラ山の所有者であるボーゼ男爵は、西部の地方貴族だ。才覚がないのに新規事業に投資し、失敗を重ねて、今は首をくくる一歩手前の状況のようだ。親から受け継いだ財産はすべて売るか借金返済のために奪い取られ、今は価値がないと見放されたアスラ山ただ一つが手元に残っているらしい。
(はやく、どうにかしてアスラ山を手に入れないと。他所に売り払われたら手遅れになる)
気持ちは焦るが、問題が二つあった。
一つは、私にお金がないということ。
もう一つは、私がこのヴィスコス公爵家の敷地から出るためには、公爵閣下の許可が必要だということだ。
どちらも、すぐに解決できそうにない。
(一応、公爵令嬢なのに、なんで一文無しなのよ)
今時小学生だってゲームを買うお金くらい持っている。それなのに。
(どいつもこいつも、ろくな奴がいないっ)
ふつふつとこみあげてくる怒りで、頭に血が上り、めまいがした。




