04 もう一人の公子(2)
さて、目的地までどうやって進もうか。
私は周辺を見回した。
廊下の分岐点に浮かぶプレートを確認していく。
ご丁寧にも、プレートには矢印と、その横に『書庫』と記されていた。
このプレートは、即時対応も可能らしい。実に便利な機能だ。
マレンダに「書庫に行きたい」と頼んだのは三日前のこと。ダメもとでのお願いだったが、今日の朝、マレンダから書庫への出入りが許されたことを聞かされて驚いた。
だから、昨晩のむち打ちの時、メイドたちは「最近図に乗っている」「この家の人間になったつもりか」「何を企んでいるのか」と口々に言っていた。私の希望が叶ったことがとにかく悔しいのだろう。ただ、自由に本が読みたいというささやかな希望であっても、それが通ることが受け入れられないのだろう。
(そういえば、昨日はマレンダがいなかったな)
むち打ちに来たメイドたちの中に、マレンダはいなかった。
思い返すと、ここ数日、マレンダに鞭を打たれた記憶がない。運んでくる食事は相変わらず腐っているけど。
何かが少し変わってきているのだろうか。
(まあ、私には関係ないけど)
そこで私は考えを頭の中から追い出した。
プレートに従って進んでいくと、重厚感のある扉の前にたどり着いた。観音開きの扉は見上げるほど高い。
周囲を見回して、だれもいないことを確かめた後、私はゆっくりと扉を開けた。
目の前に現れたのは、二階まで吹き抜けになっていると思えるほど高い天井と、天井まで続く壁一面の書棚。閉鎖された室内にある独特のにおいは、久しぶりに心地よさを感じさせてくれる。紙とインクとかすかな黴臭さ。学生の頃に入り浸っていた図書館を思い出した。
目に映る本を全てデータとして取り込めたら、どれだけの知識になるだろうか。考えただけでもわくわくする。この世界に来て、初めて、楽しいと感じた。
貯蔵された本がどう分類されているのかは分からなかった。私の知っている図書館は、内容を分類訳し、書棚が区分けされている。その書棚ごとに分類の表記が貼られているから、目的の本を探しやすかったのだ。そして、所蔵図書をリスト化し、検索がかけれるようにコンピュータも常設してあった。
(パソコンなんて、ないよね)
当たり前のように使っていたパソコンやスマートフォンは、影も形もない。存在もしていないだろうと思う。この世界には、電気もないのだから。部屋にも廊下にも、照明器具はない。壁に設置された蝋燭の明かりが、夜の管内を照らすだけだ。
(どうやって探そうか)
今一番欲しい情報が何なのか、そこをはっきりさせるところから始めないといけないようだ。
目の高さにある本の列を眺めながら、私は書庫内を歩き回った。
まずはこの国について、ヴィスコス公爵家について、土地勘と情勢と政情、時代背景、構成組織と関係性。そんなところだろうか。
とにかく自分の置かれている現状が知りたかった。
どの世界にいたとしても、情報こそが最大の武器となり、命砂となるのだ。
手にした本をぱらぱらとめくっていく。
内容を理解するよりも、まずは読むことに専念してみた。何が書かれているのかを読み進め、読み終わったときに「ピコン」と音が鳴った。
試しに「設定」のプレートを表示させてみた。「本棚」には、今手にした本の題名が追加されている。
ただ通し読みしただけで、内容をデータ化して取り込めるようだ。
(やばい、すごすぎる)
今私の胸が高鳴り、感じている高揚感は、確かに「私」のものだった。




