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ブックカフェの店長はアライグマで神様でした  作者: 日野 祐希@既刊9冊発売中
第一話 梅と和歌とブレンドコーヒー
11/47

3-4

          * * *


 志希が昼食を取って戻ってくると、荒熊さんはカウンター席に座った老人と談笑していた。


「すみません、荒熊さん。今、戻りました」


「ああ、志希ちゃん。お帰り」


 志希の声に反応し、荒熊さんが手の代わりに尻尾を振ってきた。……かわいい。

 志希が荒熊さんのフリフリ動く尻尾を目で追っていると、カウンター席の老人が穏やかな目で彼女の方を見た。


「荒熊さん、この子は新しい店員さんかい?」


「そうですよ。今日から働き始めた期待の新人、志希ちゃんです。――志希ちゃん、こちらは源内(げんない)明義(あきよし)さん。うちの常連さんだよ」


「はじめまして、小日向志希と申します」


 荒熊さんの紹介を受けて志希が挨拶すると、源内は「よろしくね」と微笑んだ。何だか見ていて安心してしまう笑顔だ。

 すると、不意に何かを思い出した様子の荒熊さんが、志希の隣で手を叩いた。


「そうそう! 源内さん、確か梅が好きでしたよね。今週から手作りジャムのひとつを梅ジャムに変えたんですよ。いかがですか? 今年もいい出来ですよ」


「ほほう、それは心惹かれる。荒熊さんの梅ジャムはおいしいからね。じゃあ、今日はスコーンとその梅ジャムをもらおうか。あと、いつもと同じブレンドを」


「ありがとうございます。――志希ちゃん、スコーンの準備、お願いね」


「了解です!」


 源内の注文を受け、荒熊さんが早速コーヒーを淹れ始める。


 お湯で温めたサーバーとドリッパーを用意し、ペーパーフィルターをセット。荒熊さん特製ブレンドのコーヒー豆を挽いたコーヒー粉を入れ、お湯を少し注いで蒸らす。

 源内は濃いコーヒーが好みなので、蒸らしはじっくり長めに。

 十分に蒸らし終わったら、いよいよ抽出。真ん中から円を描くように、ゆっくり途切れることなくお湯を注いでいく。


 そうやって荒熊さんがコーヒーを淹れている間に、志希はスコーンをオーブントースターで温めていく。最適な温め具合は荒熊さんがマニュアル化してくれているから、志希はそれに倣ってオーブントースターを操作するだけ。今日が仕事始めの志希にも十分こなせる。

 ホカホカサクサクに温まったスコーンをお皿に盛り、梅ジャムを入れた小皿を添えれば、スコーンの準備は完了だ。


「荒熊さん、スコーンの準備できました」


「ありがとう。こっちもできたよ」


 荒熊さんから、淹れ立てブレンドコーヒーのカップを受け取り、志希はスコーンと一緒に源内へ給仕する。


「お待たせしました。ブレンドコーヒーとスコーンです」


「うん、ありがとう」


 源内が読んでいた本をカウンターテーブルに置き、志希にお礼を言う。

 カウンターテーブルに注文の品を並べた志希は、何の気なしに源内が読んでいた本に目を留めた。どうやら、短歌集のようだ。


「短歌、お好きなんですか?」


「妻の影響でね」


 志希が訊くと、源内は一際優しい顔でそう答えた。どうやら源内は、愛妻家であるらしい。


「さてさて、それでは荒熊さん自信作の梅ジャムをいただくとしようかな」


 源内は温かいスコーンを割って梅ジャムをひと匙塗り、パクリと頬張る。その顔は、すぐに満足げにほころんだ。


「なるほど。確かにいい出来だ。今年も絶品だね、荒熊さん」


「恐縮です」


 梅ジャムを絶賛する源内に、荒熊さんが殊勝な態度で応じる。

 いつものお気楽極楽な荒熊さんとのギャップに、志希は思わずお盆で顔を隠して笑ってしまった。


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