表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元人間の天狗徒然紀行  作者: 唐墨 いくら
第二章 蛍恋祭編
35/37

その八、香音と和久

いつも読んでくれてありがとうございます。

今回は香音たちの話です。


 翌朝、香音は鬱々とした気持ちで境内の掃き掃除をした。居候の身で少しは手伝わなければという気持ちもあるが、何より何か作業を行っていれば、気分転換にもなるかと思ったのだ。


 「おはようございます。毎朝すみません。今日はまた一段と早いですね。眠れませんでしたか?」


 最近聞きなれてきた爽やかな声の方を振り向くと、和久がいた。


 「和久さん、おはようございます。そうですね…。昨夜はちょっと寝付けれ無くて…。」


 「何か、訳ありそうですね。…あ、そういえば光翼様にそろそろ蛍恋祭が始まるので、山の方へ隠れるように昨夜言ったのですが…。あの後、何かあったのでしょうか?」


 振り向いた香音の顔は図星だった。


 「すみません。個室をお貸ししているとはいえ、少し、言い合いの声が聞こえたものですから。私も心配になって…。」


 「そ、れは…夜分遅くに大変失礼いたしました。以後、気を付けます…。」


 恥ずかしい。あの自分本位の大声が響いていたなんて、今思えば当たり前じゃないか。香音は自分を恥じた。と、同時に――

 ――自分本位?あぁ、なんだ。やっぱり自分は現状の不満を八つ当たりしていただけじゃないか。――

 

 自分が何故あんなことを言ってしまったのか、自分で本当は気づいていたことを悟った。そうすると、なんだか人に話を聞いてほしくなった。


 「ねぇ、和久さん、少しお時間頂いてもいいですか?お話を聞いてほしいんです。独りよがりの独善的な理由で八つ当たりした人の話なんですけど。」

 

 和久は少し驚いたような表情をしたが、すぐに破顔で応えた。


 「もちろん聞きたいです、香音さんの話。」


 その答えが、今の香音にとって何より嬉しかった。


 「…光翼と、喧嘩してしまったんです。それで、私、光翼がここを出る前に酷いことを言っちゃって…。それは悪いことを言ったなと今は思ってるんです。…光翼は私の唯一の親友で、これからもずっと一緒に親友としていたいと思ってたんです。それなのに、最近、特に天狗として身を固めることをあの子が決めてから妙に距離を自分が感じてしまって。ここまで自分はあの子のことを想ってついてきて、支えて、でも、光翼は私が彼女と自分の人生を重ねすぎじゃないかって言ったんです。それを言われた時、あの子は別に私のことがいらないんじゃないかって不安になって…。そんな身勝手な思いで彼女に酷いことを言ってしまったんです。光翼、最後に凄く悲しい顔をしてたから、きっと彼女の心に深く傷をつけるようなことを。謝りたくて、でも言った言葉は取り消せなくて、そう悶々と、堂々巡りに反芻してたら気づいたら朝になってたんです。これが、昨日寝れなかった理由です。」


 本当、最低でしょ?と自嘲気味に光翼が飛んで行ったであろう祠の方向を見ながら掃き掃除を続ける香音。その横に、和久が並ぶ。


 「光翼様はとても素敵なご友人を持たれていますね。」


 「…へ?」


 思いもよらない言葉に思わず和久の方に顔が向く。


 「あの、今の話でどうしてそうなるんですか…?」


 和久は少し歩を鳥居の方に進める。その方向からは朝日が昇ってきているため、和久を見るととてもまぶしく感じた。


 「家族以外でその人のことをかけがえのない存在と思い、強く想われる。そのようなかけがえのない友人に恵まれる方は、実はごく稀です。そして、そのかけがえのない友人に、光翼様は恵まれたと言っているのですよ。あなたは光翼様が山へ隠れ住もうと都会から旅立った後、連絡が取れないため心配のあまり追いかけたとか。普通、そこまでしてくれる友人なんていません。これまでも、光翼様の困難な時に一緒に寄り添ってくれていたのでしょう?そして、今回も自分の発言で相手を傷つけたことを後悔している。あなたは光翼様にとって既にかけがえのない存在だと、私は思うんですよ。」


 香音の目に、少し水が溜まる。自分はいつまでも親友でありたい、もっと友として何かしたい、そう思っていた。しかし、既に自分は親友であり、光翼にとってかけがえのない存在と第三者に言われると嬉しいのか安心したのか、それとも否定したい気持ちなのか、その感情が目から溢れてきたのだ。


 「でも、今は何もできていないんです!それに、さっきも言いましたけどあの子に酷いことを言ってしまったんです…。あの子自身はもう私を親友とは思ってくれなくなるかもしれない…!それに、あの子が眷属として頑張れば頑張るほど、私には何もないってことがまざまざと思い知らされている気がして…その苛立ちをぶつけてしまった、友人としては最低なことしたんです。」


 和久はただじっと香音の言葉に耳を傾けていた。香音のまっすぐで、正直に放つ言葉が、太陽の光に当たって輝いて見えた。


 「若く、純真な言葉です。自分の非が分かっているのであれば、そこを改め、相手に謝罪をすればまた歩き出せるはずです。確かに、言った言葉は元には戻りません、相手の心にも、自分の心にも、刻まれたままです。ただ、お互いが大事な親友同士。勇気を出して謝ると、意外とまた二人で笑いあうこともできたりするのです。香音さんは行動力に優れているとお見受けします。謝るなら早いうちが、お互いの傷も浅く済みますよ。」


 そうはいっても、香音の顔は暗いままだった。謝るのは元から考えていた。だが、どんな態度で謝れば良いのか。今まで光翼以上の友人など持たず、表面上のらりくらりとしていた香音にとってはとても大きな壁に思えた。


 「それに、先ほど香音さんは「何もない」とおっしゃっていましたが、果たしてそうでしょうか?確かに、光翼様は山神様の眷属として翼も、神力もお持ちになられました。しかし、その代わりに私たち人間の世界では生きづらくなられました。その点を、香音さんは補ってきたのでしょう?」


 確かに香音は、家事や建物の修復・改善などできることは自分のスキルや財力を活かしてなんでもやっていた。大学も行く必要がないため、時間は有り余っていた。そのため、前から行っていた株や不動産の投資などで親の支援などなくともお金には困らなかったし、儲けたお金で村の為の事業やクラウドファンディングなどを行ったりしていた。


 「補ったといっても、人間として、ここに居候させてもらう身で当たり前のことをしているだけですよ。」


 「いやいや、家事の手伝いだけならともかく、事業を起こしたりクラウドファンディングで村の特産品を開発・販売更にはこの建物の修復まで行うなんて普通じゃありませんから。どこから出てくるんですかその財力と行動力と発想はって感じですよ。おかげさまで、私たち神社関係をはじめ、ここの村の雰囲気が明るくなったのはあなたのおかげですよ。この田舎で、高齢化も進み、自分くらいしかこの神社及び村に愛着を感じ働いているものはいないのではないかと、最近擦れた気持ちになっていたんですよ。それが、光翼様がきっかけとはいえ、あなたがここに来て、いろいろ率先して神社や地域の為の活動をしているのをみると、活気が戻ったようでなんだか最近楽しくてしょうがないんです。光翼様は確かに山神様に気に入られた、特別な存在です。しかし、それと同じくらいあなたも私たちこの村の人間にとっては特別だと思われる存在になっているんじゃないでしょうか?少なくとも、私にとってはもう特別なのかもしれませんが…。」


 「え、最後の意味って…。」


 それには答えず、和久が香音の横を通り過ぎる。


 「さぁて、もう朝食の時間です。今日は私が用意しますので、その涙が乾いたらいらしてくださいね。」


 ただ茫然と立ち、和久の歩いて行った方を見る香音。軽い慰めの言葉だけ返ってくると思っていたのに、あんなに自分のことを見てくれ、そして認めてくれるのはとても嬉しかった。しかし、


 ―――あんな思わせぶりな言葉、意識してしまうじゃない!


 宮司に恋してもよいのだろうか?あの言葉の意味は本当は何だろうか?聞きたいけれど勘違いだったら恥ずかしい。先ほどとは違う思いが今度は香音の頭の中で堂々巡りする。涙は乾いたが、今度は別の意味で朝食に食べに行けなくなった。だが、和久の言葉のおかげで香音は前向きになった。


 ―――そっか、私は私のやり方で、光翼やみんなの役に立てていたんだ。何もないことはなかった。…光翼にちゃんと謝ろう。そして、私には私の道で光翼を支えていけばいい。…なんだ、さっきまで悩んでたことが簡単に思えてきたじゃない。馬鹿だな、私は。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ