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元人間の天狗徒然紀行  作者: 唐墨 いくら
第二章 蛍恋祭編
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その一、天狗の修行

 眷属神として、天狗になることを決めてから1週間。光翼は神社に香音とともに居候させてもらいながら山神から眷属神に関する知識や力の制御の仕方を教わっていた。場所はあの、幽世と現世の境を体験した山奥の祠近辺である。理由はいくつかあり、一つは一般の人に見られないようにするため。もう一つは、何者かによって力の干渉を受けてしまった山神の代わりに一刻も早く光翼が幽世と現世の境を守れるよう、祠の出入りの練習をしやすくするためである。


 ここ1週間で、羽に力を集めて飛び、幽世と現世の境を行き来することに段々慣れてきたところであった。今日は別の力を教えるということで、光翼はワクワクしながら祠に来たのだった。


 「そもそも、儂はもともと山そのものであった。山から来る恵みにより信仰が始まった故、山に関することならどのようにでもできる。このようにな――」


 講師のように、祠の周りを歩きながら山神は光翼に自身に関する知識を伝え始める。山神が手を掲げるとそこには先ほどまでなかった桜の木が現れ、さくらんぼがたわわに実り始めた。


 「わぁ・・・!すごい!これが私にもできるの?!」


 光翼は目をキラキラさせながら山神に聞く。あまりにもおいしそうなさくらんぼだったので、それをつまみながら。


 「光翼、お主、準備したとは言え人里に慣れているお主が一人で山に何日も順調に生活できていたのは不思議に思わなんだかのぅ?」


 「あ、もしかして、おじいちゃんが守ってくれてたの?だったら、今まで気づかず、ろくなお礼も言わずにごめんなさい。」


 「いや、そうではない。わしはお主のことをほとんど見守るだけじゃった。」


 「じゃあ、もしかして…。」


 「うぬ、まだ完璧に力を使いこなせていないとはいえ、すでにお主は無意識のうちに山を自分の居心地のよい環境にし、山もお主の力に従っておった。お主なら、山をどのような姿にも変えられる力をも制御できるようになるであろう。」


 全然気づかなかった、とばかりに呆けた顔をして山神の話を聞きながらも、納得する部分はあった。確かに、あの山籠もりの生活では食材探しに行って何も捕れなかった日はなく、飲めるようなきれいな水にすぐにありつけ、テントを張る場所まですぐにあった。

 都合がよすぎたのだ。山神の力が働いていた、もしくはよほど運がよかったとしか考えるほかない。


 「では、さっそくわしがさっきやったことをしてもらおうかの。」


 過去を思い返し未だ呆けている光翼が我に返った。


 「え、今さっきの?!桜の木をはやすこと?!」


 「そうじゃ。ここらの山に存在しない木は生やすことはわしにもできんが、桜の木ならどの山にも生えておろう。また、言い忘れておったが山の生命を生み出すとき、力を使ったそのときの季節のものしか出せぬ。さくらんぼを実らすことができたのは、この季節ならではなのだ。」


 「じゃあ、秋に桜を生やしたら紅葉した桜が生えてくるってこと?」


 「手っ取り早く言うとそういうことじゃ。」


 「でも、力を意識したことはあまりないし、どうやったら…。」


 「まずは桜の木、、、そうじゃな、今目の前にあるこの木のような木を頭ではなく、心から生えてきてほしいと願い、その姿を想像するのじゃ」


 光翼はやってみる、と表情で語り、そして息を吸って目をつむった。


 ―――どうか、あの木のような立派な桜がここにもう一本ありますように。


 イメージするは樹齢200年を超えるかのような立派な大木。葉は生い茂り、先ほどの桜と同様に大きなさくらんぼを何個も実らせている、そんな木だ。


 イメージが固まると、光翼は自身の変化にすぐに気づいた。体の内で何かが光るのを感じたのだ。その光はどんどんと光翼の体の中で大きくなっている。


 ―――これが、さっきおじいちゃんが使っていた力のことね。


 感覚的に理解した光翼は先ほど山神がしていたのと同様に、そこに桜の大木が存在するかのように手を掲げた。


 光翼の目の前に木の芽が生え、みるみる大きくなっていった。それは光翼がイメージする大木へと成長するかのように見えた――


 が、


 「あ、あれ?」


 そこに現れたのはまだ光翼の身長と同じ高さのヒョロヒョロの若木であった。さくらんぼは少し実っているが、想像していたのとはずいぶん違う。


 「ふむ、その様子だと、想像通りにいかなかったようじゃの。」


 「うん、おじいちゃん、これが力を制御するってことなの?」


 「その通りじゃ!物分かりよくて助かるのぉ。今の場合、ちと力が足りんかったようじゃの。イメージはわしの木のようにといったから大丈夫じゃとは思うが、『心からの願い』の方が浅く、沸き起こる力も小さかったのではないかの?」


 「な、なんでそこまでわかるの?おじいちゃん千里眼?」


 自分でもよくわかっていなかったことまで見抜かれたようで、軽くたじろぐ光翼。


 「ま、経験じゃろうて。前の天狗に教えていた時も失敗の連続であったぞ。奴は最初、生やすことすらままならんだったが、お主は筋が良いのぅ。」


 流石は儂のお気に入り。と、満足げにホクホクと笑っている傍ら、光翼は首を傾げた。


 「前の天狗…?」


 「おお、そうじゃったの。お主にはまだ話しておらんかったか。では、さきの木を生やす練習をした後に、話すとしようぞ。」

前の天狗とはいったい――?

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