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元人間の天狗徒然紀行  作者: 唐墨 いくら
第一章 山籠もり編
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その十八、再会

夏を告げるような強い日の光が差し込む。だが、不思議と蒸し暑くない。地面もなぜか固くない。上に何かかかっている。

 

 あったかい。このまま寝ていたい。


 もうずいぶんとまともなベッドで寝ていない光翼の体は起きることを拒否している。だが、話し声が聞こえてきて脳が覚醒した。


 「…全く大変な目に逢いましたね彼女は。」

 「本当にすみません、こんな時間に押しかけてしまって...。助かりました。」

 「いいえ、元々困っている人々を助けるのも私たちの神社の役目でもあるのですから。」

 

 聞きなれた、今や懐かしい声と、穏やかな低い声が聞こえてくる。話が気になり、光翼は目だけを薄っすら開けて様子を見た。

 

 どこか、見慣れない和風の部屋に、複数の男女が正座して話している。低い位置にあるから自分は布団にいるのだろうか。なぜか頭がフワフワしていて上手くものが考えられないが、複数の人の中の一人ははっきりと分かった。香音だ。


 来てくれたんだ…と、ホッとしたのもつかの間、よくよく考えると何故光翼はここにいるのか、何があったのか、覚えてなく、そこに気づいた途端


 「ここ、どこぉ…。」


 起きたばかりで弱弱しく声上げた途端、部屋にいた一同がギュルン!とこちらを向いた。


 「ひぃ…!」

 「みぃいつぅうばぁあああ!起きたのね!?けがは無さそうだけど頭は?!大丈夫なの?!」

 「落ち着いて頭は通常運転でいかれてる。」


 飛びついてきた香音の心配かジョークか分からない言葉に一瞬スナギツネの顔で応対する。そして、お互いが笑いあった後に、ハグをした。


 「心配したんだからね。」

 「ごめんね。スマホ落としちゃって。」

 「神主さんが保護してくれなかったら今頃あんたは...!もう!」


 神主さん…?そういえばもう2~2人人がいたような。改めて後ろを見やると短髪の体が大きい青年と、その後ろに良かった良かったとうなずいている老夫婦らしき姿があった。


 「あなたが私を…?」

 「えぇ、何も、覚えていませんか?」


 本当に失礼ながら全く記憶がない。これまでの経緯を整理するべく神主さんから説明をしてもらった。


 どうやら、昨日の大雨と雷で山一帯が心配だったらしく、神社関係者総出で神社の敷地内を見回ってたそうな。決壊とか土砂崩れの危険性あったら大変だからとのこと。


 その早朝の見回りで、神主さんが私を抱えて泣いている香音を見つけたらしい。香音は、私が川の岩場に引っかかって浮いているのを引き上げたは良いが、死んだような顔色をしていて怖くて涙目になっていたそうな。


 そこで、幹部の者以外に内緒で、神社に保護してもらったらしい。


 なるほど。つまり私は雷で目を回して気絶した挙句、桃太郎よろしくどんぶらこと川に流されてたわけだ。うーぬ、なんという間抜け。


 事情を理解したところで、光翼は一羽の相棒を思い出した。


 「そうだ、フィは??!」

 「フィィー」


 後ろを向くとフィが窓枠に留まっていた。いつからいたのだろうか。


 「彼は賢いですね。騒ぎであなたが担ぎ込まれた後、すぐにどこからか飛んできてあなたのもとにずっといたのですよ。本当に優しい子です。」


 老夫婦の妻の方が穏やかに申し出た。そうか、ずっといてくれたのか。


 「探してくれたんだ。心配かけてごめんね。フィ。」

 「フィィ!」ガブッ

 「あいたたたた」


 めちゃくちゃ探したんだから!このドジ!とでもいうようにいつもより強めの甘噛みをそこかしこにしてくる。いつものようにじゃれようと体を起こした途端、ぐらっと視界が揺れた。


 「あ…れ…?」


 そのまま布団に倒れこむ。デロンと重力のなるがままに倒れたからだは不自然に傾いている。動かそうにも、戻ろうにも、体に力が入らない。


 「光翼、あんた高熱も出てるよ。本当、良くあんな大雨の中に外出したものだわ。」

 「ねつ?わたしが?まさかぁ」

 「はい、病人はまだ寝ていましょうねぇ。」


 香音にどっこいせと言われながらも正しいポジションへ戻される。神主が心配そうな目で見ながら、


 「大丈夫です。事情は堀口さんから聞きました。この神社内でしたら、私たちしか入れないようにできますし、体が良くなる間だけでも遠慮なくこの部屋を使ってください。」

 「辛かったでしょう。もう、大丈夫ですよ。」

 「もしいたければずっとここで暮らしてもかまわんからね。」


  老夫婦が続けてにっこりと声をかけた。久しぶりに人と話して、会いたかった香音にも会え、なおかつ拾ってくれた方がこんなにも暖かい人たちで…光翼の目からは自然と涙があふれてきた。その涙をフィが舐めるように掬い取る。


 「とにかく、あんたが生きてて、良かった。もう会えないかと。見つけた時は、死んじゃうかと、そう思った。でも、またこうして話せたからよかったよ。」


 つられたかのように香音も涙声で光翼に声を注ぐ。寂しくて、虚しくて、空っぽになりかけた光翼の心に少しずつこの状況が温かさを満たしていく。


 また会えてよかった。

 本当は雷の中出るのが怖かった。

 フィが無事でよかった。

 体がしんどくてとてもつらい。

 神主さんたちがいい人で嬉しい。

 その分、前の山の生活がやっぱり怖かった。

 今、私は安心して良いんだ。

 受け入れてくれているんだ。


 いろんな感情が一気に沸き上がり、光翼は思いっきり泣いた。山籠もりでは泣き言を言うまいとした、昔の決め事を放り去り、気が済むまで泣いた。香音は、黙って光翼を抱きしめていた。


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