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元人間の天狗徒然紀行  作者: 唐墨 いくら
第一章 山籠もり編
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その十六、村の人



 村に泊まった香音はすぐに村の住民が光翼の存在を見たことを知った。何しろ最初の晩で


 「なぁおめえさん、こん山で別嬪な鳥女がいるの知ってっか??」


 と聞かれたものだ。鳥女で美人ときたら光翼以外当てはまらない。だが、知っているというと後々面倒な気がしたので知らないと答えると。


 「ここん村と周りの町行ったらそん話で今もちきりよ!んでな、その鳥女を見たってやつが、こん村に何人かいるってぇ話だ。」


 あぁ、見つかったのか光翼は。だったら多分生きていればこの山にはもういないだろう。少しでもその後の手がかりをつかむべく、その見た人と話さなくては


 「そうなんですね!それで、その見た人っていうのはどなたですか?私、詳しく話を聞いてみたくって。」

 「それがよ、村一番の荒れくれもんのケンスケとそのダチらしいんだ。おめさん、話すなら一緒に行ってやっから、あんまり刺激すんじゃねーべ」


 面倒になりそうな人たちの元へ女性一人で行くのは危ない。その忠告は正しく、会いに行ってすぐそのケンスケ達に強い酒を飲まされそうになった。


 その日は大雨で、村一番に広いお婆さんの家の部屋で村中の人が宴会を行っていた。


 「おめぇ、あの鳥女よりは負けてるがまぁまぁな顔じゃねぇか!気に入った!特に尻がな!」


 初対面にいきなりセクハラか。ハッキリした性格の香音は不快な顔をしてスルーし、拒否したがこれも光翼の為。少しでも機嫌を取って情報を引き出そうとした。


 「どの山の方でその鳥女を見たんですか?その人、その後どうなったんでしょう?」


 作れるだけの営業スマイルで優しく問う。いい感じに酔っているケンスケの仲間の一人が気前よく


 「なぁに、あの村の名物の店の裏口の方面の斜面上ったとこよ。登りにくいったありゃぁしねぇ。俺たちゃあみただけじゃねぇ、見た後に石やその辺のもん投げつけて落とそうとしたんだけどよ。うまく命中しねかったんだ。んでも、なんか最後は奇声あげてたからどっかあたったんじゃねぇかってよ。」

 「あんな鳥の羽生やしてる奴ぁ人なんかじゃねぇ。バケモンだぇ。なんだって、逃げるときに山の向こうまで一気に飛んでったんだ。普通の鳥でもあそこまで速さでねぇべ。んだから撃ち落とせもできなんだ。」


 ケンスケがふんぞり返って酒を仰ぐ。黙って聞いてればこの言い様。親友を悪く言われて黙っていられるはずがない。それに、香音は聞き捨てられなかった。バケモノ呼ばわりしたこと、光翼を小石等とはいえ、撃ち落とそうとしたこと。


 「みつ…その鳥女さんだって生きてるんですよ?なんで話から入らず石なんか投げたんですか?当たり所悪かったら死んじゃってますよ?!」


 香音の言葉が意外で驚いたのだろう。ケンスケとその仲間は怪訝な顔で「何言ってんだ?」と少し顔を見合わせて香音に問い詰めるかのような姿勢で顔を近づけた。


 「おめぇ、鳥女を人間だと思ってんのか?」

 「えぇ、人型をしていたのでしょう?なら話はできるかと…」

 「あんなバケモン、おめぇは人とおんなじってぇのか?!はっはっはは!!」

 

 ケンスケに合わせて仲間も笑う。一緒についてきてくれた男性はどう取り持っていいのかオロオロしている。ケンスケは続けた。


 「見た目人間でも、羽が生えてたらそりゃぁバケモンだろ。おめぇ、現実で人間様に羽が生えるとでも思ってんのか?そんなんがいたら天狗だべ」

 「天狗?」

 「知ってんだろ?あの妖怪の。俺らはその妖怪の天狗そっくりな鳥女をとっ捕まえて国とかに売っ払うつもりだったんだけどよ。けど、おめぇさん、妖怪と対等に話そうなんざ…」


 こらえきれずケンスケが爆笑する。周りも合わせて笑う。分からない。彼らは光翼を同じ対等の立場として見ていなかった。なんだか話や価値観がかみ合わず、そっとその場を離れた。


 光翼がまさかこんなあんな人達に見つかって、いられなくなったとは。スマホも、逃げるときに落としたかな。なら何としてでも彼女を見つけなくては。飛んで行った方向は聞いた。

明日、ここを出よう。そう、民家の母屋を出ようとしたとき、出入り口で小さなお婆さんに手招きされた。あれは、名物店のお婆ちゃん…?


 「お前さん、あの娘と知り合いなのかえ?」


 手招きされるがままに外の縁側に座った途端、単刀直入に聞かれた。


 「お婆さん、その鳥姿の女性を見たんですか?どこで?彼女はどんな様子でした?」

 

 答えないが、その態度には質問に是とする答えがにじみ出ていた。


「鳥姿だったかは覚えてないがね。黒髪の、目がとってもきれいな森の色をした優しい感じの子だったよ。この村ではなかなか見ない器量だったからね。」

「そうですか...。」

「うちの馬鹿どもがすまないね。何も考えず、バケモノと決めつけてとっ捕まえようだなんてかわいそうな目に合わせたよ。もうここには来ないだろうがね、そのほうがあの子の為にもいいと思うわい。」


 お婆さんはまともであった。村の人全員がケンスケ達と同じ考え方だったら、私は冷静でいられなかったに違いない。


「お婆さん、私、あの子を探しに明日出ます。」

 「お待ち、来たばっかで、ろくな食事の貯えもないと見た。今から、握り飯でもこさえるから、それ持っていきな。」


 お婆さんが少し咎めるかのような口調で、でも、優しい目で言ってきた。


 「私も手伝います。」


 香音は厨房へ歩いていくお婆さんのところへ駆け寄った。ケンスケ達のことは好きになれないが、お婆さんのことは好きになった。


 大雨が台所を響かせる中、老婆と一人の女子大生がキャッキャウフフとおにぎりを準備していた。


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