その十三、第二の山籠もり生活
実生活では新年度が始まりますね。何かと忙しくなりますが頑張りましょう
香音は悩んでいた。自分にとっての幸せとは、自分は本当は何がしたいのか、考えれば考えるほど分からなくなる。もう大学2年生の春学期が始まり、早くもインターンを始めようと動こうとする時。インターンの履歴書や応募フォームに決まって聞かれることは大体「あなたのやりたいこと」
である。
私のやりたいことって、、、何よ、、、。
自分は優秀だと思っていた。いや、勉学や状況判断、仕事を片付ける手際などは確かに優秀なはずだ。だが、こんな小学生にでも聞かれそうなことを自分は答えられない。
苛立ちが募る。心の中がぐしゃぐしゃと丸まった新聞紙になったかと思えば、回し車の如く焦ってただひたすら空回りした感覚に襲われる。
光翼に会いたい…。
ただ、今は大好きな親友に会って、何をするでもなく今の悩みを聞いてもらい、笑い飛ばしてもらいたい。光翼なら、真剣に聞いてくれた後に彼女のまぶしい笑顔で「大丈夫」と、背中を押してくれるのに。
そういえば、彼女は今どうしているのだろうか。いつもであれば、そろそろ連絡が来るはずだ。最近は彼女からの連絡ばっかりだったっけ。ならたまには私からも連絡してみよう。
そう思い、彼女とのメッセージチャットにメッセージを送った。
―どう、元気?こっちから連絡しちゃった(笑) 14:37
すぐには連絡返ってこなくても、夜には連絡が来るだろう。明かり一つない山では夜に活動するのは危険だから。そう思って、香音はスマホを閉じた。
―どう、元気?こっちから連絡しちゃった(笑) 14:37
おかしい。今現在夜の9時である。いつもなら彼女の連絡は党の前に来ており、通話ができてもいいくらいだ。なのに既読がついていない。
通話ボタンを押して待ってみる。出ない。ならばと電話番号でかけてみる。やっと出たと思った瞬間、電子の声に青ざめた。
『おかけになった電話番号は、現在電波の届かない場所にあるか、電源が入っておりません。ピーという音の後に…。』
「光翼…?」
今にも嵐になりそうな重たくどす黒い雲が瞬く間に空を覆っていった。
―――――――
慌てて村の男衆の追手から逃げた光翼は、今は3つ4つ先の別の山の滝の裏にうずくまっていた。比較的大きなその滝は、落下している水をくぐった先が洞窟の様になっており、出入りするときに濡れるのがデメリットだが住みかにするにはうってつけであった。テントを置いて行かざるをえなかった彼女にとっては、絶好の場所であった。
しかしそれにもかかわらず、うずくまっている光翼の表情は現在の天気の様に暗く、泣いている。わかってはいた。人間としての普通の生活はもう駄目であると。わかってはいたけど、まざまざと人に見つかった時の村の人の反応を見て、恐ろしさを実感した。
実感したと同時に、悲しさを感じた。自分は同じ人間という認識があったが、向こうからすれば私は異質だ。同じ人として見てくれない。そのことを改めて知って悲しくなったのだ。
「うぅ…香音...ぐすっ」
だから香音と連絡が取れることが生活するうえで大きな希望だった。その希望の蜘蛛の糸であったスマホは今や森の中水の中、探そうにも戻れぬ場所へ落としてしまった。
フィがさっきから慰めるように周りをぐるぐる回っては光翼に甘噛みをしている。親友との連絡が取れなくなった悲しみと人間に対する恐怖心はなくならないが、いつまでも泣いてばかりでは状況は変わらない。かといって
「翼生えている人がスマホショップに入ったら絶対だめだよねぇ...。コスプレの人がこんな田舎に来るわけないからコスプレって体でも無理があるよねぇ…。」
「フィ―」
光翼が初めて、嗚咽漏らしながらも泣き声以外をフィに発したので、フィも安心したのか高めの声で応える。光翼もそれにすこし微笑んだ。
「負けるもんか。生きるもん、私なら生きていけるもん。」
最初は少し見られてもごまかせると油断して失敗した。絶対に見られてはならないと思い知った。だから――
「もう、人里には降りない、しばらくここで身を潜めてよう。あんな追われるようなことはもうたくさん。」
何とか自分を保とうと、そう一人自分に言い聞かせる。疲れたため、雨降る夜の中寝袋にくるまって光翼は暗闇に身をゆだねた。




