閑話その二、悠久の時
問題の気まぐれ神様の追憶です。
――その昔、東の一帯を守る山神がいた。神はもともと山そのものであった。その神は八百万の神の中の一人にすぎなかったが、人々は山がもたらす綺麗な水と栄養の含んだ土壌、天候からくる実りを神に大変感謝していた。感謝のしるしに村の人たちは総出で大きな神社を作り、そこへ毎年実りの季節になると感謝の供物を捧げた。山神はそんな人々の笑顔が絶えない生活を眺めるのが大好きであった。
時がたち、山神が守る一帯は豊かな土地のため発展していった。大きな町が建ち、山が運ぶ清い流れを町の中へ組み込む用水路も作った。畑も、市場も、一層大きくなり、次第に山神は金儲けの願い事も叶える神として、人々に位置づけられていた。
この辺りでは戦も度々あった。山神は人々同士の争いに対してはどうしようもできなかったが、戦火に巻き込まれ命からがら逃げてきた人や、けがをした人々に山から採れる果実や綺麗な水、雨風をしのげる岩場や木の洞穴を作って手を差し伸べた。いつしか山神は癒しの神としても祀られるようになった。
時が更に経ち、山神が万能の神として有名になり、様々な土地へ分社もされるようになった頃、どうやら人間達をまとめる政府とやらが変わるらしい。何やら大規模な工事が始まり、大きな町が更に大きな都市へと変わるようになってきた。畑が少なくなっていくのを、神は少し寂し気に見ていた。
人々がなんだか騒がしい。騒いでいるのは元々この地にいた人たちの子孫たちであるようだ。漂いながら聞いていると、山神の山を新しい政府は切り崩して新しい街と道を作るそうだ。そんな政府に、昔からいた人々は山神が祟るぞ!、今まで守ってきた神になんて仕打ちだ!この神社の神は元々あの山の神なんだぞ!
それはそれはもの凄い剣幕で役人に訴えていた。だが、役人はそんな村人の声を聞き入れようとせず、他の地から来たもの達も彼らの叫びに無関心だ。強引に山の切り崩しに取り掛からせた。現地の人は泣く泣く切り崩し、山神は自分の体ともいえる山が切り取られることに体と心が痛んだ。人の助けになるようにと過ごしてきたが、最早大半の人々にとって山は邪魔であったのだ。それ以来、山神は杖なしでは歩けなくなった。
神の体は切り取られ、なくなってしまった。霊体となって神社に憑くしかなかった。それでも神は人々を守ろうと努力した。街に穏やかな風を運び、努力している人々には福をもたらした。人々はその度に感謝し、神社には毎日人が訪れた。神は体を失っても幸せだった。
この国が戦争を始めた。皆、明るい色とりどりの着物からいつの間にか汚れた同じような服を着ている。食べ物を盗む人が増えてきた。神社前で開かれたあのにぎやかな市場はもうない。代わりに、同じ制服を着たいかめしい男たちが人数分に分けて食べ物を配っている。土地を潤そうにも、潤せる体はもうない。代わりに雨を降らせても、硬い平地の土は水が空く流れてしまう。人々は何故神は助けてくれないと憤っていた。福をもたらそうにも、皆盗みや盗みのための暴行が日常茶飯事であったため、限られた人にしか救いの手を差し伸べることができなかった。段々神社へ来る人の数が減ってきた。
戦争が終わり、人々に豊かな暮らしが戻った。技術が発達し、もう自然に頼らなくても良い生活が普通となったころ、人々は神の存在を忘れていた。どのような神だったかは一部の高齢者しか覚えておらず、その人たちもうろ覚えであった。都市にさらに建物を建てるため、神社は解体され、代わりに街の隅へ小さく押しやられた。神は人々に忘れ去られたことを嘆き悲しみ、泣き続けた。しかし、神という存在は人間の様に簡単に死ぬことはできない。神は「神として人々に恩恵を与え続ける」ことをやめた。神は自分の興味の赴くまま、自分の気に入った人にのみ手を差し伸べ、むやみに努力することを放棄した。こうして、面白そうな人を見つけるために街を眺めるばかりの生活が続いた―――。
神様の追憶は二つになって続きます。長くなってごめんなさい!
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