その十一、迫りくる人影 【イラスト付き】
山で生活し始めてもうすぐ一か月が来ようとしている。人里のほうではゴールデンウィークの始まりが来ている。今頃の自分と同じ年頃の女子たちはおしゃれしてSNS映えするような所へ友達や彼氏と行ってと、楽しく過ごしているんだろうなと川で洗濯をしている光翼。焚火の煙臭さが服にしみついて嫌になったので清流で洗いに来たのだ。洗剤は使っていなくても、水洗いしないよりはマシだと言い聞かせてごしごしと服を擦る。現在代わりん着ている服はかわいらしい黄色ベースのパーカーとノルディックなレギンス、短パンである。パーカーの前部分のポケットはオレンジ色であり、翼もあるためその姿はひよこを彷彿とさせる。大きな翼を持つひよこはせっせと桃太郎のお婆さんよろしく川で洗濯をし、ふぅと額をぬぐう。
少し立ち上がって景色を眺める。いつも見る景色であるが、山の静かな景色が光翼は好きだ。姿はめったに見えないが小動物の動く音、鳥の鳴き声、風に揺れてさざめく木の葉。そして、流れる水の音。景色は静的だが音は動的であるこの森の様子を、五感全てを使って感じるこの時が光翼は好きなのだ。
洗濯物を干して一息つこうと、洗濯物を干している隣の太い木の枝に乗って山を感じていると、若干だがいつもの様子に違和感を感じた。前回足跡を見つけた場所よりやや上流域なのに自分以外の大きな靴の跡がところどころ残っている。それに草木が少々踏み倒されている場所があるようだ。光翼が通るルートは大体低空飛行か河流の左側だ。それが右側に踏み倒された跡があると言う事は、別の誰かが確実にこの山へ出入りしていると言う事である。背筋から血の気がサッと引いた光翼は一目散に生乾きの洗濯物をかき集めてテント場まで戻った。
翼がすっかり治ったフィは何事かと一瞬羽をバタつかせて睨むが、構ったこっちゃない。足跡は確実に上流へ上ってきている。このまま頂上まで来るかもしれない。そう直感で感じた彼女は荷物を軽く整え、大体テントをたためば飛び立てるように準備をした。そして
「フィ、ちょっと山偵察行ってくるね!」
「フィィイ!」
僕も行くとばかりに威勢良く鳴いて飛びながらついてきた。翼が治ってもなお、共に行動しようとするこの梟の変わった行動は変わらない。人間が脚を運べないような危険なルートばかりを選んでゆっくり低空飛行していく。すると、フィが何か見つけたようで低木に留まった。
「何か見つかったの?」
急いで同じ低木に潜んで聞くも、フィも息をひそめて緊張感が高まっている。じっと向こうを見つめて返事をしない。何があるのかと光翼も一緒に見つめると、はるか遠くで草木が揺れていた。そこから出てきたのは
「…!」
人間だ。しかも複数人連れで来ている。その一人に光翼は見覚えがあった。あの、買い物をした直後に同じ店へ出入りしたおじさんだ。
「…んでよ、ここまで来たってだぁれもいやしねぇじゃねぇかよぅ。お前さん夢でも見たんだべぇ。」
「俺の目ぇはこん村一良いってぇことはおめぇ知ってるじゃねぇかよ。それに婆さんだってその女見たって言ってんべ。」
「婆さんもおめぇさんも寝ぼけてたんだろうよ。羽生やしたぁ女なんて妖怪でもあるめぇし。」
今、心臓が張り裂けそうだ。やっぱりあの買い物をした時に見られていたのだ。それをお婆さんに話してたんだ。でも、なんでここにいるって...。
「んでもな、その女婆さんによると誰かん家へ泊めてもらってるだと。こーんなふっけぇ山ん中で女一人いるわけねぇだろ。」
「俺が村聞きに行ったら、そんな家だぁれもなかったべ。ましてこんな小さな村、わけぇよそもんの女が来るわけねーって。」
Oh…自分がついた見え見えの嘘に、その時の自分に、一発殴ってやりたい気持ちだ。でもあの時はそれ以外言い訳見つからなかったし。そう自分に自分で突っ込みを入れながら考えている間に男達の会話は続く。
「にしても、その女見たの大分前だろうがよ。もういなくなっているかもしんねぇべ。」
「いーや、川から時々羽が流れてくるからまだいるはずだえ。ぜってぇに見つけるぞ。」
「おめぇさん、そんな怪しい女をこんな山奥まで探してどうするんでぃ?」
「そりゃああったりめえよ。捕まえて見世もんにするなり国に売っちまえば高く売れるってことよ。そん金で一生遊んで暮らしていくに決まってらあ。」
これはまずい。こんなところへいつまでもいればその内彼らに見つかることはまず間違いない。彼らは何日もかけて山を隈なく回っている。早急に次の山へ移ったほうがよさそうだ。そう考えた矢先に
――ガサッ
「「「誰だぁ?!」」」




