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第167章「浴衣少女と夏祭り」

 やがて神社が近づくにつれて、徐々に人が増えてきた。

 同じような浴衣姿の女性や家族連れなども同じ方向に向かって歩いていく。

 夏祭りが行われる花町神社は近隣では一番大きく古い。

 初詣も毎年ここへやってくる。

 ここで七五三を執り行ったのも覚えている。振り袖姿で顔を真っ赤にしている当時7歳の美乃理の写真はリビングの写真立てに飾られていた。  そんな由緒正しく、そして美乃理も縁のある神社であった。

 また多くの建物が立ち並ぶ市街地で、この地域だけは広々とした敷地に緑が生い茂る。

 普段は人気が少なく静かなこの神社も祭りのこの日は境内が明るい照明に照らされ、屋台とごったがえす人々があふれていた。

 

 そのちょうど入り口である神社の石段前に既に浴衣の少女のグループが集まっていた。


「あ、きたよ」

「みのりちゃん!」


 見覚えのある顔たちがこちらに気づき、手を振った。


「あ、みんな!」


 美乃理も手を振り返した。


「ひさしぶり!」


 沢山の浴衣の女子に迎えられ、その輪の中に入っていく。

 握手や肩を抱き寄せ会ったり、抱きしめあって再会を喜んだ。

 大半は地元の公立中に進学し、私立中に進学した美乃理とは卒業以来。

 こちらも手を振り替えした。


「うわっすごい美人になってる」

「しばらくあってなかったけど……さやかの言うとおり綺麗なったねえ……」


 久しぶりに会う子は、美乃理の変貌に一様に驚かされていた。

 そして顔立ちも幼さが抜けた分、大人の美貌が備わった。

 細く締まった体に長く伸びる足は、みるからにアスリートとして鍛えられた体だった。

 それも美しさを競う新体操によって鍛えられた賜物だった。

 すれ違う人々も美乃理に思わず視線を送っている。


「聞いたよ。美乃理ちゃん、正愛でも活躍してるんだって?」

「うん、今度休み明けに、また大会なんだ」


 活躍の報は公立中にも及んでいた。

 最近よく名前を聞く新体操界の彗星、正愛の御手洗美乃理は、この地元出身。


「うわー、すごーい」


 既に中学生ながら全国レベルの活躍を遂げる美乃理の活躍は、かつての女子仲間にもとどろいていた。


「あ、さやかちゃん」


 いつもやりとりをしているさやかは、少し反応は控えめ。

 他の子と挨拶が終わりようやく言葉を交わした。

 傍らにも忍がいる。


「久しぶり、みのりん」


 軽くタッチした。

 さやかの挨拶タッチは相変わらずだった。


「さやかちゃんも、待った?」

「ううん、まだこっちも着いたばっかりだったから」

「あ、さやかちゃんもその浴衣、凄く可愛いーー」


 白地に可愛い動物の刺繍が施されている。

 綺麗に小麦色にやけた肌が水着の色が首筋から見えた。

 やはり、水泳部らしい筋肉質で無駄のない脂肪と締まった身体であった。


「焼けたね……さやかちゃんも合宿いってたんだっけ?」


 さやかも水泳部の合宿に行ったという。

 海の近くの合宿所。

 海で泳いでサーフィンもやらせてもらったという。

 真っ黒に日に焼けていた。

 西瓜を沢山食べて、カレーをみんなで作って食べて。


「みのりんのところほど盛大ではないけどね。みんな知ってる? 」


 軽亜沢高原での他校との合同合宿を語った。


「すごーい」

「そんなところまで行ったの!?」

「サファリパークとか行ったの!?」

「あそこ巨大遊園地があるでしょ? ほら、最大の絶叫マシーンって」


 軽亜沢高原は観光の名所であった。

 

「い、行ってないよ、ずっと宿泊所で練習だったから……」


 あはは、そうだよね。遊びに行ったんじゃないんだからーー。

 とすぐに打ち消した。


「でも西の学校とかと交流したりとか、楽しかったよ」

「やっぱり私立は違うなあ」


 うらやましがられた。

 久しぶりの再会の挨拶を済ませた後、会場へ向かう。祭りは人でいっぱいだった。

 少し気を抜くとぶつかり合ってしまう。

 はぐれてしまわないように気をつけた。 

 そして早速屋台を楽しんだ。


「お嬢ちゃんたち、可愛いから、もう一本おまけだ」

「ありがとう、おじさん!」


 買ったりんご飴を一個余計にくれた。

 定番のやきそば、りんご飴、かき氷。をめいめい手にして、お互いに交換しながら、

 金魚すくい、ヨーヨーすくい。

 お面を手にする。

 屋台めぐりをしているうちに、ばったりでくわした。


「さやか!」

「健一!」


 ある男子グループたちとばったり出会った。

 その男子たちには見覚えのある顔と見覚えの無い顔が入り交じっている。その中に健一もいた。少し日に焼け、足がたくましく締まっているの。

 

「おまえらも来てたんだな」

「気合い入っているな」


 親しそうにさやかたちは男子たちに語りかけた。

 さやかと健一にしろ毎日同じ花町中学で顔をあわせているものばかり。


 自然、美乃理と忍に関心が移る。

 中学進学で地元中学にはいかなかった。

 彼らにとっては見慣れない少女たちであった。

 それもとびきり可愛い女子たちなのだから、「おおっ」と喜び色めき立った。

 そんななか美乃理は健一と挨拶を交わす。


「ひ、久しぶりだな、御手洗」

「健一……うん元気だった?」


 会う機会はめっきり減ってしまった。

 メッセージもあまり頻繁とはいえない。なかなか話題がつかめない。


「あれ、御手洗美乃理だぜ」

「嘘、あの体操で有名な? 初めてみる」


 他の男子たちが、少し後ろに控えてこそこそやっている。

 男子はまだまだ恋愛、この手の奥手であった。


「こら、こそこそしない、聞こえてるよ」


 さやかが、男子に叫んだ後に、うちの学校ではちょっとした有名人なんだよ、と美乃理の耳元でささやく。


「うちの町に住んでるって本当だったんだな」


 話の話題は美乃理に集中した。

 美乃理や忍たちとのやりとりに、耳をそばだてている。


「シノちゃんは、共新中で新体操部の部長やってるんだ。新しく」

「楢崎らしいなあ」



「え? 全国の合宿」


 やはり男子でも、新体操合同合宿は話題になった。

 花町中は普通の学校。

 全国にとどろくような成績を収める部活動や生徒というわけではなかった。


「そうそう、すごいんだよ。みのりん、合宿で新聞記者の取材があったって。これからも毎朝新聞でみのりんのこと取り上げるって」

「みのりんの専属!?」

 

 男子たちからすげえ、と声があがった。

 かなりおおげさに言われてしまった。


「そうか、すごいな」


 健一がややぎこちなく、その目が泳いだことを見逃さなかった。

 負い目を感じていた。

 以前はむしろ逆で健一が美乃理を引っ張った。

 休み時間や放課後、サッカーをしたのは数え切れない。

 男子に混じって美乃理はボールを蹴って遊んだ。男子よりも熱心にやってしまい、足を怪我して新体操クラブのコーチに怒られたこともあった。

 健一の勢いに引っ張られた美乃理は、学校ではサッカー少女だった。

 だが。

 今の健一は、あのかつてのサッカー少年は、今は普通の中学生。サッカー大会は健一のチームは二回戦で敗退。


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― 新着の感想 ―
そうなる可能性はあっても、実際に目立たない成果しか出ていないと言うのは辛いですね。本人は好きなだけに尚更
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