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第168章「祭りと花火と闇」

「あんたたちも来ない? みんなで一緒に花火みようよ!」


 さやかの提案にやったぜ、と男子たちは歓声をあげる。


「賛成!」

「い、いいのか?」


 さすがさやかは、女子グループのカースト上位というやつだ。

 男子を従わせるのもお手の物だ。


「健一も行こう!」

「お、おう……」


 美乃理が健一の腕を取った。

 健一は並んで歩く美乃理の匂いが伝わってくるのを感じた。

 石鹸とそしてかすかに発する美乃理の甘い香り。

 男子とあまり変わらないと思っていたが、いつのまにかどんどん美しさを増している。

 成長しているんだ……と改めて健一は実感させられた。

 体も心も一流のアスリート少女として成長している。

 足踏み状態の自分と比べてせつなくなった。 

 どん、と空に打ち上げられた花火を健一はただ見上げた。



 花火の打ち上げが終わり、周囲は帰りの人でごった替えしていた。

 一気に人が集中したため、出口へ通じる道は大混雑だった。

 警備員、会場の整理員が、「慌てずゆっくりとおすすみください」と声を張り上げている様子が遠くの雑踏から聞こえてくる。

 また会場のアナウンスから、落とし物、迷子の案内が流れてくる。

 美乃理やさやかたちは、混雑をさけて、しばらくしてから帰ろうと、会場になっている境内から少し離れたところ、樹齢100年はあるかもしれない大きな木の根っこの部分をベンチ代わりに腰掛けていた。

 その間、3人ほどの女子がトイレに行ってくるといったので、忍とさやかと美乃理たちは戻りを待った。

 金魚すくいで貰った金魚はさやかの家で飼ってもらうことにした。

 家に大きな水槽があり魚を飼っているのだ。


「お願いね、さやかちゃん」

「うん、うちに任せて」


 さやかに泳ぎ回る金魚が入ったビニール袋を預ける。

 そんなやりとりをしている時に、何か近づく気配がした。

 美乃理たちも含め、全員一斉に顔をあげた。

 嫌な気配を感じたからであった。 


「ねえ、君たち。どこか来たの?」

「友達同士?」

「この後、みんなでどっか行かない?」


 大学生ぐらいだろう、3人組が声をかけてきた。

 車のキーを片手にしている。

 微妙な顔で美乃理や忍、さやかも、女子同士顔を見合わせた。


「なんですかー、お兄さんたち」

「もう花火みたから俺たち帰りますよ」


 すぐ傍らで同じように木の根に腰掛けていた男子が、すかさず反応した。

 女子から余りを分けて貰った、ベビーカステラを片づけてていた。

 いざとなったら自分たちが相手する、という鋭い眼光が男子たちに潜んでいるのを見逃さなかった。

 自分たちよりも年上で体も大きい男たちに一歩も引かない。


「ちっ」


 と舌打ちする音と共に青年たちは雑踏の中に去っていった。

 自分たちを守ってくれたのだ。

 

「良かった、しつこかったらどうしようって思っちゃった」


「あー良かった」

「なんかやばそうだったよねえ」


 男子たちが追い払ってくれて助かった、と安堵を覚える。 


「ま、あいつらもちょっとはつかえるようになったね」


 お互い手を振り合図を送りあった。

 女子からは、ありがとう、よくやった。

 男子からは、あれぐらいなんともないぜ、の意味が込められている。


「みんなもいつの間にか変わったね」


 美乃理はぽつり、と漏らした。

 ほんのわずかなやりとりだったが、改めて認識させられた。

 なんだかんだいって男子は男子らしくなった。

 もう子供ではない。まだ完全に大人ではないけれど、着実に成長している。

 時間は着実に流れている。

 そして美乃理も例外ではない。可愛い、綺麗になった、大人っぽくなったと今日皆からかけられた言葉をかみしめた。

 やがて子供から一人の女性として成長していくのだ。

 その当たり前の現実を今日のお祭りで美乃理は実感させられた。

 恋愛、進学、就職、結婚、出産。

 これから自分を待ち受けるだろう未来の言葉が頭を駆けめぐる。

 稔と美乃理、そして新体操。今の自分を未来へどうつなげていくか、まだ向き合えてはいない。

(まだ……時間はある……よね……)

 祭りが終わり夏が終わろうとしている。

 当たり前のことなのに、今年は楽しかった時間が終わろうとしている予感がなぜかした。

 合宿から帰ってきたときから、感じている胸騒ぎ。


「どうした?」


 しゃがみこんだ美乃理に、健一が声をかけた。


「足が……」


 履き慣れない花下駄に、足が悲鳴をあげていた。

 足の指が赤くなっている。


「大丈夫か?」

「う、うん、まあ……」


 ごまかそうとしたが実は限界で皮がむけそうであった。


「駄目だよ、新体操は綺麗な足が命だから……」

 

 すかさず忍が健一に目配せした。

 すぐに健一は気づき、腰を下ろした。

 そして背中を差し出した。


「乗れよ」 

「え、い、いいの?」

「遠慮すんな」


 美乃理ちゃん、遠慮しちゃだめ。

 足は大事だよ。

 忍とさやかも後に続いた。


「あ、ありがとう……」


 美乃理は肩に掴まり、健一の背中に乗っかった。

 健一は美乃理を背負って立ち上がった。

 美乃理が予想以上に軽いことに健一は驚く。

 同じスポーツをやっていて、しかも全国トップクラスなのに。

 こんなに細くてたおやかなのかーー。

 健一はその儚さに胸が熱くなると同時の驚きもあった。

 美乃理の胸の膨らみが少しあたっていたーー。

 少女らしいささやかだが確かに柔らかいものがあたっている。

 健一も美乃理が少女であることを肌で感じた。

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変わりつつある、その只中だけに大事ですね。 どう変わって行くのか
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