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第138章「未来の道」

「あの……宏美さん、海外に行くって本当なんですか?」


 それでも美乃理には、この人に聞きたいことがあった。


「ええ、間違いないわ。協会が選抜する強化選手に指定されたら、欧州の本場に留学というのがここ最近の流れだから」


 既に朝食時には宏美の話題は、合宿メンバーたちの間でもちきりだった。

 宏美が国際大会の出場がほぼ内定した。

 そして代表になれば強化選手として留学するのは規定の流れ。


「おそらく東都女子体育大への進学もほぼ確実ね。環境も設備も圧倒的だから――。彼女の才能とこれからの飛躍を考えれば至極妥当な線ね」


 やっぱり……あの話は本当に実現していくのだろう。

 宏美は自分たちの下から飛び立っていく。


 いままで追ってきた背中、この人についていけば大丈夫という道標がなくなる。

 同じ立場を抱えている存在、悩みも聞いてくれた。自分の方がより複雑な事情を抱えているのに。


「御手洗さんは、正愛学院でそのまま続けるの? それとも東都女子大あるいは、まだ中学生だから、そこの付属高校を考えているのかしらーー」


 今の美乃理にとって、痛いところを突かれた。

 将来のことなんて深く考えていなかった。

 ちらりと小堀さんをみるとニコニコ笑顔だ。

 笑顔の中にも、情報を教えてもらったからには、お返しが欲しいというところらしい。


「まだ、そこまで考えていないです。今やるべきことをやることに専念しています」

「そうね……でも野球やサッカーと違って裾野がそこまで広いわけではないから、選択肢はそう多くは無いのが現実なのよね。残念だけど……将来のことを考えるのも大事よ。まだあなたの年でそれを考えるのは難しいことだと思うけど」


 もしさらに新体操を求めるのならば、正愛を巣立つことになる。

 俄に昨日の夜の清水敦子の言葉が頭によぎった。


 真実を求める道を行くか、このまま今の自分を受け入れるのかーー。


(選ばなきゃいけないのかな……)


「ありがとうございました」

「いいえ、また何か聞きたいことがあったら、なんでも聞いてね」


 美乃理は一礼して小堀さんを後にした。

 熱心にメモと観察をしている。

 流石、記者。プロ意識は凄いと思った。少しの情報も漏らさまいとしている。

 そっとポケットに名刺を忍ばせる。ひょっとしたらいつか何かの役に立つかもしれない。


「龍崎さん……どうするんだろう」


 一人練習場を見て呟いた。

 龍崎宏美は生憎別の場所で練習をしているようで見あたらなかった。



 わあっと練習場内に大きな歓声があがった。

 何事かと振り返る。

 他のコーチから指導を受けている一年生たちが、正愛学院一年生、和穂に拍手をしている。


(あ、和穂ちゃん……)


 教えられた難しい技、課題を見事上手にやってのけた。

 ボールを大きく投げて、ジャンプと回転を組み合わせて再びキャッチする。

 もう一回、とお手本を見せるように指示されていた。

 今田和穂は、人数は多いものの、どんぐりの背比べだった一年生の中で頭一つ抜きんでてきていた。

 入部時にはそれほど目立った存在ではなかった。

 和穂自身も中学から始めたばかりだというが、飲み込みが早く、初心者グループを早くも一抜けした。

 小さい頃からやってきたという子たちと肩を並べている。

 龍崎宏美、御手洗美乃理や清水敦子などの超有望選手が不在と言われていたが、ここにきて、目を見張る成長株として育ちつつあった。

 好子とも親しい。気のいい子だ。

 ややおっちょこちょいなのが玉に傷、ではあるが……。


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