お昼寝
title by 確かに恋だった
バカップルへ30題
13.お昼寝
土曜日の午後。
特に部活に所属しているわけでもない二人は、基本土日は休みだ。
今日は今年一番の暑さになると天気予報で言っていた。
そんな中、わざわざ外で志月が会おうとするわけもなく、いつものように伊織の一人暮らしのマンションに二人はいた。
人一人分空いた距離で、お互いに雑誌や本をパラパラとめくる。
「ねぇ、志月」
「何?」
「暇じゃない?」
「別に」
「映画とか行かない?」
「いや」
「映画館きっと涼しいよ」
「行くまでが暑いじゃない」
「……」
伊織の家から最寄りの映画館までと、志月の家までの距離は大して変わらない。
これは、映画館に行くまで歩くのは嫌だが、伊織の家に行くのは暑さに耐えられる、と言っているようだ。
その考えに達した伊織は緩む頬を抑え切れないまま、手元の雑誌に目を落とす。
まぁ一緒にいられるからいいか、と。
しばらくして、伊織はやっぱり恋人同士が同じ場所にいるのに、お互いが別々のことをしているのはいかがなものか、と思い直す。
一緒にいられるのは、もちろん嬉しい。
学校ではクラスが違うから四六時中一緒にいられる訳じゃない。
帰る方向だって違うから、一緒にいられる時間は短い。
だから、休みの日くらいもっといちゃいちゃしたいものだ。
「志月ー」
伊織は雑誌に目を落としたまま、愛しい彼女の名を呼ぶ。
「……」
「しづ……き?」
返事のない志月を覗き込もうとして、肩にかかった重みに目を見開く。
志月がコテンと伊織の肩に頭を乗せていた。
いつも必要以上に近付かない、手を繋ぐのすらあまり好まない志月からの急な接触。
伊織は、らしくもなく心臓が高鳴るのを感じた。
「志月……って、寝てるし!」
高鳴る心臓は急激に冷え込む。
伊織が志月を覗き込むと、すーすーと穏やかな寝息をたてて眠っていた。
確かに昼食を食べ、今は午睡にはちょうどいい時間かもしれない。
外からの厳しい日差しもいい具合に遮られた部屋の中。
何をするでもなく、本を流し読み。
昼寝の要素はいっぱいあったけれども、彼氏の家で、彼氏と二人で、寝るのか!?
思わず突っ込まずにはいられない。心の中で。
「しづきー、こんなとこで寝たら襲っちゃうよー」
半分冗談でゆらゆら揺すりながら声をかけるが、起きる気配はない。
「志月チャン」
伊織は思わず溜息をつくが、寝てる彼女には通じない。
「ん……」
小さく呻いて身じろぐ志月に起きるか、と様子を伺うが態勢を少し変えただけで、眠ったままだ。
「起きる気配ないなー。座ったまま寝ると起きた時体痛いよー」
なんだかんだ彼女の穏やかな睡眠を邪魔する気にはなれなくて、伊織は小さく話し掛けるが、大した意味はない。
「仕方ないな」
起こさないようにゆっくりと肩から、志月の頭をどかし、彼女の背中と膝裏に腕を回して抱き上げる。
そのまま立ち上がると隣の寝室の扉を足で押し開け、部屋へ入る。
自分一人で寝るには広すぎるベッドに志月をそっと下ろすと、伊織は離れる――ことができなかった。
「えっと、志月チャン?」
もちろん寝ている本人からの返事はなく、伊織は下を見下ろした。
志月がギュッと伊織の服を掴んでいたのだ。
軽く引っ張ってみたが、離れない。
「いおり」
小さく漏れた呟き。
伊織は驚愕の眼差しで、志月を見つめる。
志月は無意識なのだろう掴んだ服をキュッと引っ張る。
驚きに固まっていた伊織は思わずバランスを崩してしまった。
「う、わ!危なっ」
どうにか志月を避けてベッドに手を付けたが、間近に迫った志月の顔。
「っ」
またも心臓がバクバクと鳴る。
いいだろうか。
ふと思い至った考えに慌てて首を振って否定する。
息を詰めた後、長く深い溜息をつき、伊織は志月の横に寝転んだ。
「無防備過ぎだよ、志月」
そっと志月を抱き寄せて、伊織も眠りの淵へと旅だった。
今はまだ。
この穏やかな一時を。
二人でお昼寝。




