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雨宿り

title by 確かに恋だった

「うわっ、急に降ってきた!!」


空から降り注ぐ雨に、伊織は慌てて足を早めようとするが、手を繋いだ志月は慌てる様子がない。


「志月!?急ぐよ!」


手を引き、急かせば後を追うようについて来る。


「うちもうすぐだから、止むまで寄ってきなよ!」


返事はないが、嫌がって手を引くこともないから、了承だと受け取って、伊織は足を早める。

急に降ってきた雨は土砂降りだ。

志月の家まではまだ距離がある。

止むまで待たせてもいいし、帰るというなら傘を渡せばいい、どちらにしろ一度自分の家に寄った方が良さそうだと判断して、伊織は急いだ。




やっと家に着いた頃には二人ともびしょ濡れだった。

伊織の家は高層マンションのかなり上の階に一人暮らしだ。

マンションはエントランスにもエアコンが効いていて、普段なら快適なのだろうが、まだ初夏でびしょ濡れの二人には、少し鳥肌が立つ程度には冷える。

部屋へと急ぎ、扉を開けると、志月に居間で寛ぐよう指示して、伊織はタオルを取りにいった。




すぐに戻ってきた伊織は居間で立ち尽くす志月にバスタオルをかけてやる。

どうやら濡れていたため、座るのに気が引けたようだった。


「志月、大丈夫?」


自分もタオルでガシガシと頭を拭きながら、尋ねるが志月から返事はない。

ゆっくりとタオルで頭を拭いている。


「志月チャーン?

お風呂入ってあったまる?俺と」


笑いながら付け足した言葉に普段の志月なら、冷たい視線を寄越す。


「うん」

「……え?」


普段なら有り得ない返事に伊織は目を剥く。


「し、志月?」


思わず両腕を掴んで、自分に引き寄せる。

志月はゆっくりと顔を挙げる。

朱く上気した頬、潤んだ瞳、少しだけ隙間の空いた色付いた唇――濡れた制服からはピンク色の下着が透けていた。


「……」


お互い無言で見つめ合っていたが、もう堪えられないとばかりに伊織は志月に噛み付くようにキスをする。

何度も角度を変えながら、触れる唇に志月からは甘い声が漏れる。

それに調子づいた伊織は、舌を志月の熱い咥内に侵入させた。

志月の味を楽しみながら、伊織は志月の背に手を這わす。

濡れて張り付いた制服越しに感じる体はピクピクと震える。


「あつ……い」


伊織の口が離れた隙に漏れた志月の溜息にも似た声。

そりゃあ、これからコトに及ぶのだ。

今段々と高めているところ。

暑くなるのも当然――


「さむい……」

「志月?」


よく見ればカタカタと小刻みに肩が揺れている。


「さむ、い」

「へ?」


慌てて志月の額に手を当てると、通常よりもかなり熱い。

高まった体――ではない。


「熱あるじゃん、志月!」


慌てて、寝室に担ぎ込むと制服を脱がせる。

これは下心じゃなくて、濡れたままではいけないのであって。

誰に言い訳するでもなく呟きながら、伊織は自分の服に着替えさせる。

布団に志月を押し込めると、タオルを濡らして額に置く。

力の抜けた志月からは寝息が聞こえ出す。

ホッと息を吐いて、伊織は志月の前髪を払う。


「熱のせい、かぁ……」


ガックリとうなだれて、先程の記憶を辿る。

普段なら有り得ない回答に、普段なら有り得ない従順さ。

付き合ってそこそこに経つが、まだ志月とコトに及んだことはない。

今までの自分からは考えられないが、それでも我慢できるくらい志月のことが好きだった。

しかし、彼女が許せばすぐにでもと思っているからこそ、飛び付いたのだが……熱で意識が朦朧としていただけという事実に伊織は悲しくなって来る。

溜息をもう一つついて、眠る愛しい彼女に目をやるとそれでも満足げに微笑んだ。


「今度は熱じゃない時に、ね」




翌日――


「ん……」


唇に触れる柔らかく湿った何かがくすぐったい。

何度もくっついては離れを繰り返す何かにぼうっとしていた脳が覚醒し出す。

まだ重い瞼をゆっくり開けると、眩しさに一度目を細める。

やっと視界に慣れた頃に、目を開くと、すぐ目の前には整った顔のどアップ――。


「っ!?」


唇に触れる何か――伊織の唇に、志月は一気に顔に朱を上らす。


「あ、起きた?」


長い睫毛の下から琥珀の瞳が現れ、名残惜しげに唇が離れるとにっこりと微笑まれる。


「起きた?じゃない!何すんのよ!?」


志月は慌てて伊織の下からはい出ると、距離をとる。

改めて周囲を観察し、そこが見知った自分の家ではなくて、しかも自分はやたらと広いベッドの上にいることがわかった。


「その元気だと熱は下がったみたいだね」


伊織の言葉に、昨日の出来事を思い出す。


「だから、何してたの!」

「え、キス?」


首を傾げながら当たり前のように述べる伊織に志月は顔を赤くしながら、キッと睨みつける。


「か、勝手にキスしないでよ!」

「……昨日はあんなに情熱的に応えてくれたのに」


ニヤニヤしながら言う伊織に、かっとなった志月。


「覚えてない!」

「やっぱり……まぁいいや。朝ご飯出来てるから、着替えてから来なよ。寝汗かいてるだろうから、それ使って」


肩を竦めるが、すぐに立ち直り伊織は、志月の傍らにおいたスウェットの上下を指差してから、寝室を出た。

それを見送った後、志月は曲げた膝の上に顔を埋め、溜息をつく。


「……覚えてるわよ…」

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