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初詣

title by 確かに恋だった

冬休みに入る直前の昼休みのこと――


「ねぇねぇ、志月。大晦日の夜、初詣行こっ!」


満面の笑みで初詣デートを誘う青年。


「いや、寒い、めんどくさい。何でアンタと行かないといけないのよ」


席についたまま、黙々と勉強をする少女は、青年の誘いをざっくり切り返す。

青年は笑みのまま顔を強張らせる。


「し、志月チャン、俺達付き合ってるんだよね?」


青年の問い掛けに、初めて少女は青年の方を向く。

そのやたらと冷たい視線に、青年はえっと、と苦笑い。


「志月、アンタねぇ!仮にも愛する彼氏のお願い聞いてやろうって気はないの?」志月の目の前で腰に手を当てて、身を乗り出す少女に志月は、視線を向ける。

青年に向けていた絶対零度の瞳とは随分温度差がある。


「愛する……?」


志月は首を傾げて、チラリと横目で青年に視線を向ける。

そこには期待に満ちた瞳を向けるヒト――全力で尻尾を振る犬みたい――。


「無い」


がくっと全身でがっかりしたのを表す青年を憐れみの目で見る少女。


「志月!今年はクリスマスも平日でまともにデートも出来ないんだから、初詣くらい行ってあげなさい!!伊織くんがかわいそうでしょ!?」

「別にかわいそうじゃ……」

「行きなさいっ!」志月は憮然とした表情のまま、コクリと頷いた。

それに満足げな息を吐く少女。


「ありがとう、揺ちゃん!!一生、この恩は忘れないよ!」


伊織はキラキラとした目で揺の手をとって、感謝の言葉を述べる。

志月はその反応を一瞥するが、何も言わない。


「伊織くんちのホテルの食事券ペア一回分でいいわ」


同じくキラキラとした無邪気な笑みで、謝礼を要求する揺。


「えっ?」

「恩を忘れないんでしょう?もちろん返してくれるのよね??」

「う、うん」

「じゃあ、よろしく」


にっこりと微笑む幼なじみに打ち負かされた彼氏に対して、志月は深い溜息をつかずにはいられなかった。




大晦日の夜――

待ち合わせた時間になっても現れない志月に、伊織は内心冷や冷やしながら首を傾げる。

いつも志月が待ち合わせに遅れたことはない。

だから、まだ5分とはいえ、来ていないことに、これは遅れているのではなくて、来ないのでは?と、肝を冷やしていた。


「伊織」

「志月!おっそー……ぃ」


伊織は声をかけてきた志月を振り返り、ぽかんと口を開ける。


「遅れてごめん。着付けに時間かかって……何その顔」


伊織の表情に気付いた志月はムッと顔をしかめる。


「し、志月チャン!」

「何よ?」

「振袖!」

「悪い?」どんどん機嫌が悪くなる志月に伊織はブンブンと顔を横に振る。

顔が若干赤い。


「すっごい似合ってる!え、でも、何で?」


あんなに行くのを渋っていた志月が振袖をわざわざ着てきてくれるなんて、と嬉しさで口が緩む。


「……うるさいっ」


プイッと顔を背けて歩きだした志月に慌てて足を合わせた伊織は、志月の顔を覗き込む。


「俺のために着てくれたの?」

「知らないっ!」


伊織から顔を背ける志月だが、アップにした髪型からのぞく耳が赤いのが、後ろからでも分かる。

きっとそれは寒さのせいだけではないはずだ。

志月の白くて細い手を自分の手で包むと、伊織は目を細めて微笑む。


「嬉しい」思わず漏れた本音に、伊織の手の中でピクリと反応がある。


「可愛いよ、志月」


耳に囁けば、俯いてもわかるくらい真っ赤な顔。


「ね、志月一人で着付けできる?」

「なんで?」


恥ずかしいのを必死で隠しているのか、わざと硬い声。


「帰りにうち来ない?」

「……!?」


言葉の意味に気付いて、反射的に挙げた志月の顔は真っ赤で、繋がった手も寒さに反するように体温が高い。


「出来ない!」

「そっか、残念」


着付けを出来るようにしておこう、と口には出さず頭の中でメモする伊織。

そんなこと噫にも出さず、志月ににこやかに微笑みかける。


「さ、早く参拝しよ」もう目の前に来た社。

お賽銭を入れて、二礼二拍――最後にもう一礼して、二人は社の前から離れる。


「ねぇ何祈ったの?」

「秘密」

「え〜、教えてくれてもいいじゃん」

「秘密!」



“これからも二人でいられますように”

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