第9話 この屋台から
そんなこんなで屋台審査会には合格し、念願かなって屋台を構えることができるようになった。
翌日には、わたしが担当する屋台を案内される。
「それでは、失礼いたします」
ハンナさんではないギルドの方が案内をしてくれた。
「ありがとうございますわ」
わたしは彼女の背にそう言って見送り、振り返って立地や屋台を改めて見直す。
わたしが店を構える場所は都市の中の南東南といったあたりだ。
ウェリスの南にはダンジョンがあるらしく、そこから頻繁に肉や財宝等が運ばれてくる。
というせいもあるのか、この都市の冒険者ギルドは南の中ほどにあり、わたしが屋台を構える場所から意外と近い。
具体的に言うと、南の城門を入ってまっすぐ北に進むと、冒険者ギルドがある。
そこから少し道を入った所にあるのが、わたしが屋台を構える場所だ。
その屋台は高さ2m、横幅は3mくらい。
祭りの際に出ている物を想像してもらえると分かりやすいだろうか。
その中に入るとコンロ……火を扱う場所は2つ。
まな板を置き、調理場を整えてもまだ十分な広さがある。
かなりの大きさを誇っている屋台だ。
しかも、この通りの屋台も全て料理ギルドが認可を出しているらしく、どこもそれなりに美味しいらしい。
ぜひとも食べに行きたいけれど、それは出来そうもない。
なぜなら、みんながすごく……本当にすごく食べたがっているから!
昨日は手続きなどでそんな暇はなかった。
けれど、みんなから串オークを食わせろという圧をすごく感じたのだ。
「さ、それでは最初はプレオープン……ということではありませんが、お食事をお作りいたしますわ」
「なにが食べられるのニャ?」
「ピー!」
「何を作っても、カレンなら素晴らしい物になるだろう」
ということで、わたしは昨日、審査会で作った串オークを作る。
今回は割と時間に余裕があるので、丁寧に作ることを心がけてだ。
ただ、屋台で調理をする予行演習でもあるので、そのことは忘れずに。
前回やった時は出来なかった細部をより細かく、丁寧にして調理する。
こうした方が、より美味しくなるはず。
本当は、もっと……食材の研究もしたい。
ただ、ひとまずは美味しい料理を作ってお客様に食べてもらいたいので、研究はおいおいでいいだろう。
鍋に串オークを入れて揚げていく。
今回は他になんの食材も準備はしていない。
まぁ……プレオープンということだし、とりあえずどれくらいの人通りがいるのか。
この通りにはどんな店を出すのがいいのか。
様々なことを調査していかなければならないからだ。
わたしは少しだけ考えごとをしていたけど、料理から目は離さない。
串オークがあがったタイミングを見計らい、油からあげた。
「もういいニャ!? もう食べたいニャ!」
「少々お待ちください」
わたしは時間を1分頭の中で計りながら、余分な脂が落ちるのを待つ。
そうしている間にも、ソラ、フェニックスが徐々に串オークに近づいてきていて、圧力を感じる。
でも、それが嬉しくて、可愛らしくて苦笑してしまう。
「どうした? 何か面白いことでもあったか?」
一人、屋台から離れて見ていた九尾が、尻尾で? を作りながらわたしに尋ねてくる。
「いえ、わたしが作る料理をこれほどまでに楽しみにしてくださるのがとても嬉しいのです」
「ふふ、それはこれからもっと来るぞ。その証拠に」
彼がそう言って視線を右に向ける。
わたしもつられるようにしてそちらの方を見ると、ハンナさんとアミアさんが歩いてくるのが見えた。
「カレンさん。屋台に問題はありませんか?」
「おいおい! 魚で作るって聞いてたのに残念だったな! まぁ、オレの魚を使っても結果は変わらなかっただろうから、別にいいんだけどよ!」
ハンナさんとアミアさんはそう言ってわたしに話しかけてくる。
「ソラ、フェニックス、九尾、食べても大丈夫ですわ」
「ニャ!」
「ピー!」
「……ありがたくいただこう」
ソラはその持ち前の俊敏さで、フェニックスは串を足で押さえ、器用に肉を串からとっていく。
九尾は魔法で宙に浮かせ、大事そうに肉を食べた。
「それ! あたしも食べたかったんだけど!? 昨日はあの後撤収とか、書類とかで色々とあって食べられなかったのよ! だから今日かなり早く様子見に来たんだから!」
「オレは屋台審査会に受かっちまうお前の料理が食いたくってな。昼は割と空いてるから来ちまったぜ」
「今からお作りしますから、少々お待ちいただけますか?」
「もちろん!」
「なるはやで!」
がっつく2人にそう言った後、わたしは準備を進める。
ただ、ある程度は仕込みとして終わっているので、話しながらでも問題ないが。
「ハンナさん。とりあえず今の所不具合等はありませんわ。ご心配いただきありがとうございます」
「いいのいいの。仕事で来ているだけだし、カレンちゃんの美味しいごはん食べられるなら飛んで来るわ」
丁寧な方だと思っていたけれど、意外とフランクな方なのかもしれない。
「それなら存分にお作りしますわ」
「そう言えば、昨日買った魚はどうしたんだ?」
そう聞いてくるのはアミアさん。
自分の売った魚が美味しく調理されているのか、かなり気になっているのだろうか。
「ええ、それでしたら九尾、お願いします」
「ああ」
九尾はどこからともなく昨日のままと言われても疑えないような魚を取り出した。
「これは……新鮮なままだな。どうやったんだ?」
「なに、魔法でちょちょいとね。食材は無駄にはできないだろう?」
「その通りだ。いい料理を作っても、オレの魚を台無しにしてたらどうしてやろうかと思ってたんだよ」
「俺もカレンも……ソラにフェニックスもそのようなことはしないよ。と、そろそろ揚がったぞ?」
「なに!?」
九尾の言葉で、2人はギン! とこちらを振り向く。
そして、油を落としてある串オークに手を伸ばす。
「お待ちください」
「ええ! なんで!?」
「ここで我慢を強いられたんじゃ腹が減って死んじまうよ!」
「1分ですからそんな簡単には死にませんよ……それに、少し味付けもしたいのです」
ということで、わたしは少しだけ待ち、もういいとなった所で塩を少し振る。
「どうぞ」
「ありがとう!」
「サンキュー!」
2人は串オークを一口で半分はほおばり、歯を立てる。
「んー!!!! 何これすっごく美味しい! オーク肉ってかなり豪快な味だから、香草とかで誤魔化すように味付けもかなり大味になるのよね! それがこれはあっさりとしていていっぱい食べられる! この食感も味わったことがないし……すごい! カレンって本当にすごいね!」
「おいおいおいおい! オレは魚が好きで……魚ばっかりしか好きにならねーだろって思ってたんだけどよ。これは……オレが今まで食っていた肉ってのはなんなんだ。そう思える美味さだぜ。カレンの作った料理なら、これから肉を食ってもいいかもしれねーな」
「ありがとうございますわ」
2人がそう言って賛辞を送ってくれるので、とても嬉しくなる。
目の前で作り、それを人に出す。
これは……料理人として、これ以上のことがあるだろうか。
「ふふ、それなら、屋台として、ある程度はやって行けそうですわね」
「なに言ってるの! ウェリスで一番の屋台になれるわよ!」
「これなら毎日でも来るぜ!」
「ありがとうございます。それではこれから、カレン屋台の開店ですわ」
わたしのウェリスでの屋台としての話はここから始まるのだ。
今回からセリフ同士の間を開けていこうと思います。
前のままがいいや、今回の方がいいなど教えていただけると助かります。




