第7話 調理開始
わたしがまず行うのは厚めのフライパンに火をかけ、オーク肉の脂身を切り取る。
それを目算で200gくらい切り取り、それをひたすらに細かくしていく。
大きさは二〇系……と呼ばれるラーメン屋で見られる脂身の細かさだ。
それを細かくした後は水を少しだけ入れたフライパンに放り込み、弱火で熱していく。
「次は……」
考えていた通り、オーク肉を小さく切り分けていく。
大きさは触った感じでかなり固めなので、1cm四方の大きさで。
小さく切った後に、それを丁寧に水洗いしていく。
これをしないと臭みが残ってしまうはず。
ただ、このままで食べられるかを確認するために、ひとかけらをフライパンの上で焼く。
十分に火が通ったことを確認したら、わたしはそれを口に入れてかみしめた。
「! 美味しい……」
味は豚肉をもっとワイルドにした感じが強いだろうか。
豚よりもワイルドさが強いので、イノシシ肉と言った方がいいかもしれない。
ただ、元々の肉のせいか、血抜きが足りないのか、やはり癖が残る。
「上手くいくといいのですが……」
わたしは調味料として置かれていた木のボウルにビールを50mlほど、ハチミツをひとさじくらい入れた後は塩を少々入れてヘラで必死に混ぜる。
完全に溶け切ったのを確認したら、切り分けたオーク肉を漬け、適当なフタで重石をして待つ。
その間は、綺麗なフキンの準備、串の用意、温めている油をかき混ぜる。
軽く混ぜた後は、パンとおろし金を持ちそれを広めの器におろしていく。
おろし金はきめ細かいもので、かなり細くなるが今回はそれでいい。
あまり荒くない方が美味しくなる。
オーク肉とパン粉をつなげるためのバッター液もこの間に作っておく。
小麦粉と水、それとビールを多めに入れ、塩も少々混ぜる。
ビールは泡が混じるようにしていく。
時間がない。
オーク肉はできる限り漬けこみたいし、本当ならオークの油ももっと時間をかけて抽出したい。
「いけませんわ」
でも、わたしが今できることに集中しなければ……それができなければ、美味しい料理にはならない。
わたしは頭を横に振り、意識を集中させる。
オークの油を煮詰め、揚げるための油を作ることには成功した。
残り時間は……5分あるかどうか。
しかし、これ以上は時間がない。
わたしは肉を取り出し、肉を一つ一つ、丁寧に拭いて水分を拭きとっていく。
今回は臭みをとるためにはちみつに漬けこんでいるため、しっかりと拭きとらないと焦げてしまう。
焦げてしまった物をお客様にお出しするなど料理人として失格だ。
時間との勝負だけれど、手を抜く暇はない。
一つ一つ、丁寧にかつ急いで拭きとっていく。
そして、12個ふき取ることが出来たので、串で3つずつ刺していく。
次はあらかじめ作っていたバッター液につけすぐに余分な量を落とす。
すぐにパン粉をまとわせていく。
時間がない。
4本全てにパン粉をまとわせると、すぐに油に入れていく。
ジュワアアアアアア。
油の温度は串を入れて確認済み。
串を入れただけでどれくらいの温度か分かる。
その証拠に、串オークは入れると沈んだけれど、すぐに浮かび上がってくる。
満足のいく温度だ。
揚げている肉からは目を離さず、残りの3本もやっていく。
肉の水分をふき取り、バッター液につけてパン粉をまとわせる。
揚げていた4本がちょうどいいというタイミングで油から取り出し、まとったままの油を少しでも落とすように木のまな板の上におく。
ここにおいて置くのは数分。
これ以上は劣化してしまう。
なので、まな板の上に置いて1分。
その内の1本に塩を振り、味見をする。
「……!」
わたしは満足の行く結果になったと思う。
わたしは揚げている残りの3本を確認した後、審査の順番待ちの列を見る。
今は2人が並んでいるので、最後の3本を審査員用にした方がいいだろう。
それと、この予備として作ったのは、わたしを心配そうに見ている3人に。
ちなみに、同行者に少しだけ食べてもらうということはハンナに確認して聞いておいた。
3人はおずおずと来るけれど、わたしは自信を持って串カツ……串オークを3人に差し出す。
その間に、揚げている3本を取り出して油を切っておく。
「これはなんニャ?」
「食べてくださいまし」
「わ、わかったニャ……」
「ピー?」
「う、うむ……」
3人は見たことはないといった様子で、少し戸惑っているようだ。
そんな中、真っ先に食べたのはフェニックスだった。
「ピーーー!!!」
今まで聞いたことがないくらいの音量で鳴き、多くの人の視線を集めている。
「ちょ、ちょっと、大声で鳴くのはよろしくありませんわ」
わたしが慌てるけれど、フェニックスはものすごく力強く首を縦に振る。
それから、何かを表現するように羽をバサバサした後、串オークを食べに戻った。
「お、美味しいって言ってくれているのかしら?」
「だニャ」
「だね。俺も食べてみるか」
2人はそう言っておそるおそる串オークを口にする。
サクッ!
近くのわたしに聞こえるくらい、いい音を立てて口に入れていた。
「美味い……」
「本当ですか?」
「ああ、こんな……こんな美味い物は食べたことがない。あふれ出る肉汁もこの外側を包み込む食感の楽しさも、今まで味わったことがない。俺はこれまで多くの肉を味わってきたが、力強く、かといって脂身の重さだけではない。考え抜かれたこの料理、素晴らしい……カレンでなければ作れないだろう」
「う、美味いニャ! サクサクの食感もいいけど、その味付けが塩だけで香草をほとんど使っていないっていうのもすごいニャ! たいていのオーク料理は香草で誤魔化したりする料理が多いはずだけど、そんなの作っている奴の問題だろとでも言っているみたいニャ! っていうか、猫舌のボクでもアツアツのままもっとほしくなるくらいニャ!」
九尾はじっくりと味わうように食べてくれていて、ソラははふはふさせながらも食べ、残っている串オークを見つめていた。
「これは審査員の方々の分ですわ。本当はハンナさんの分も作りたかったのですが……今度ということにいたします」
肉から水分をふき取る時間なども考えていくと、本当にギリギリだ。
今、こうして待っていることができるのも、わたしは調理を終えて、後は皿に移すのを待っているだけだから。
後は、順番待ちをしている人がいるから。
という程度のもの。
時間を計っている方は早く審査員に届けるように目線で訴えてくる。
「次の方、料理を持って審査員の列に並んでください」
「はい」
わたしは言われた通りに料理を皿に移し、列に並ぶ。
「ピー!」
「カレン頑張るニャ! これで落ちたら全員味音痴ニャ!」
「君の作る料理は特別だ。自信を持って」
みんながそう言って応援してくれる。
わたしは皆に振り返って答える。
「ええ、ありがとうございますわ。きっと……手に入れてみせます」
「次の方、審査員の前に料理を」
「はい」
そして、わたしの番になった。
審査員はじっとわたしの料理を見つめている。
わたしは、まっすぐに見返して、彼らの前に料理を並べた。
「料理名は?」
マイクを持っていた老人が聞く。
「串オーク……とでもいいましょうか。どうぞ、ご賞味ください」
わたしの料理の審査が……今始まる。




