第6話 屋台審査会
どうしようか悩んでいる間に、時間は刻一刻と進み、開始の鐘が鳴る。
会場は小型の体育館くらいの場所で、少し高くなっている場所では3人の人物が座っている。
その下には調理器具が置かれていて、調理をするのは5人までということだろうか。
会場にはわたし含め50人近くが詰め込まれており、この人数を勝ち残らなければならない。
檀上に座っていた1人のコック服を着た老人が立ち、マイクを手にする。
それに向かって話すと、声が大きく聞こえた。
こっちの世界のマイクだったらしい。
「はい、みなさん。静粛に。突然のルール変更、ふざけるなと言いたい気持ちも分かります。ですが、これは皆さんのためでもあるのです。ご理解ください」
「ふざけるなー! 折角準備した食材はどうすんだよ!」
「そうだそうだ!」
会場の中からヤジが飛ぶが、老人はそれを説明してくれる。
「ええ、ですので、もしこの場に持ってきている食材があれば、通常の売値と同額でこちらが買い取らせていただきます」
「大体なんでルールを変えたんだよ!」
もっともな質問も飛ぶ。
「前回のこの審査会、その時に、目も飛び出るような高級食材を持って来た人がいたことはご存じでしょうか? その時にご指摘があったのです。これでは料理の腕を競うのではなく、いかにして食材を調達できるのかという金額勝負になってしまっていると」
「……」
「わたくしどもはその食材の調達能力に関しても屋台を開くための能力としておりました。しかし、屋台を開くために必要なことはまずは美味しい料理を作ること、そう判断し、今回のルール改正に至りました」
「突然過ぎるだろう!」
「それも公平を期してのこと。ご理解をよろしくお願いいたします。さて、それではルールですが、他は以前と同じ、1人持ち時間は20分まで、その時間内に美味しい料理を作り、我々に食べさせてください。食材はそちらにあるのを1人分まで。調理器具は持参してもいいですし、そちらにある物を使用してもかまいません。話は以上です。では開始」
老人が開始を宣言すると、参加者達はわっと食材を取りに行き、調理場に立つ。
皆誰もが先に調理場に立たんと必死だ。
なぜ皆そんなに急ぐのだろうかと思っていると、わたしに声をかけてくる人がいた。
「あなたは行かなくてもいいの?」
「あなたは……受付さん」
「名乗ってなかったわね。私はハンナ。料理ギルドで受付をしてるわ。よろしくね」
「わたしはカレンと申します。よろしくお願いいたしますわ。それで、行くっていうのはどうしてでしょうか?」
「この審査会は一番最初に料理を提供した者が受かる。っていうジンクスがあるからよ」
「そうなのですか?」
それならもう出遅れてしまった。
やらかしたのか……と思ったけれど、ハンナさんは肩を竦めて首を横に振る。
「あくまでジンクスよ。まぁ、半分くらいは最初の人だったかしら? でも、後は他の人だったわよ。結局、美味しい料理が作れるかどうかだからね」
「そうなんですの。では大丈夫だと思います」
「ほんと? 参加者も結構すごいのよ?」
「有名な方がいるのですか?」
「あの人見て」
彼女が指すのは、調理場の中央に立つ大柄の男。
「彼は大ナタのジェバンニ、その名の通り彼が持つ大ナタを器用に使いこなして調理をする凄腕よ。屋台審査会の挑戦は3回目ね」
「は、はぁ」
「あ、あっちに並んでいるモヒカンは見える?」
「目立つ方ですわね」
「ええ、彼は不死身のマルコ。屋台審査会初回からずっと参加している大ベテランよ」
「それって……」
あんまり良くないのでは? と思ったわたしだが、それ以上のことを突っ込む者がいた。
「それって雑魚なんじゃニャいのかニャ?」
「ソラ……そこまで言わなくても……」
「それだけ屋台にかける想いも強いってことよ。まぁ……あの人の料理を食べた人はみんな微妙な顔をするんだけどね……」
やっぱりダメなんじゃ……。
「と、最後はあの子。一番後ろに並んでいる子」
わたしは視線を並んでいる子に向ける。
彼女はわたしの身長より少し低い子で、耳が結構尖っている。
金髪をポニーテールにしていることくらいしか分からない。
「あれは……エルフ?」
「ええ、有名な料理人の娘っていう話よ。今回は彼女だろうってもっぱらの噂ね」
「そうなんですか……」
まぁ、そういう人もいるだろう。
だけど、大事なのは美味しい料理を作るかどうか。
「あ、そう。一つだけ……言った方がいいか迷ったけど、今回、初めてなのよね?」
「ええ? そうですわ」
「なら、あの審査席の左に座っている男、あの人は……すごく評価が厳しいから、気をつけてね」
左の……スキンヘッドの40代くらいの人のことか。
星型の奇抜なサングラスを室内なのにかけているちょっと変わった人だ。
「できることをするだけですわ」
「そう……ね。ごめんなさい。余計なことよね」
わたしは話を変えるように食材のことについて聞く。
「ハンナさん、食材のことについて聞いてもいいですか?」
「ええ? まぁ、一般的なことでいいならだけど」
「今回の食材はなんの肉なんでしょうか?」
「よくあるオーク肉よ。ダンジョンで獲れるお肉で一般人から貴族まで皆食べる普通のお肉」
「なるほど」
オーク肉……ファンタジーでは良く聞くけれど、実際には食べたことがない。
なんなら、今世のわたしも多分食べたことはない。
地元にオークがいなかったから……。
「わたし、オーク肉を食べたことがないんです。少しでも教えてもらえませんか? あと、今回使える調味料とかも知りたいんですけど」
「ええ、それくらいだったら大丈夫よ。オークは少し癖が強いわね。だから、ハーブ等の香辛料を使ってその癖を消したりしているわ」
「なるほど」
「だから、ハーブとかの香辛料はそこそこ自由に使えるはずよ。ああ、前の人が使わなかった分も使っていいとかあったかしら? メインはオーク肉だけれど、それをサポートする調味料や野菜と合わせてパンで挟むことも出来るわよ」
「ほう」
癖が強い肉。
それを香辛料で消す……か。
それも20分以内に。
「ありがとうございます。少し他の方の調理を見てみたいので」
「ええ、頑張って、応援しているわ」
「はい」
わたしはハンナさんにお礼を言って、調理台の出来るだけ近くに行く。
5人の中で一番動きがしっかりとしている人を見極め、その調理をじっくりと見つめる。
みんなの料理を確認していると、確かに、多くの人が数々の香辛料を使って肉にもみ込んだりしている。
なんならハーブで肉を包み、そのまま焼いている人もいたくらいだ。
自分で味見が出来ないのは仕方ない。
だが、これまでわたしはずっと調理を見てきた。
先輩や先生、多くの人の調理を見つめ、それを自分の中で理論立てて行く。
なぜその動きをするのか?
その動きは必要な動きなのか?
仮説を立て、検証し、必要かどうか判断する。
わたしは、自分の番が来るまでじっとそれを続けた。
「カレン……大丈夫かニャ……」
「ピー」
「大丈夫。彼女は……きっとすごい物を作り上げてくれると思うよ」
わたしは自分の番になると調理台に立ち、即座に調理をはじめる。




