第5話 料理ギルド
わたし達は受付さんに屋台の審査会参加を申し込んだ後、宿に泊まる。
この宿は受付さんに紹介してもらった宿で、従魔や魔獣達も泊まれる宿だ。
「さて、それでは作戦会議ですわ!」
「作戦……」
「会議……?」
「ピー?」
ソラとフェニックスは毛づくろいをしていて、九尾は丸まって尻尾をゆらゆらとしていた。
3人とも動きを止め、なんで? という顔をしている。
「決まっていますわ。審査会というのなら、ちゃんと対策を採らなければならないのです」
「カレンの魚は世界一ニャ。世界2位のボクが保証するニャ」
「ピー!!!」
「俺も十分に合格出来ると思うがな。なんの対策をするんだ?」
「この街の好み……はすぐにはできませんが、食材もあの魚があるか確認出来ませんでした。なので、その辺りを明日の朝一で調べにいかないといけません」
審査会が開かれるのが昼一番の鐘、日本時間だと午後1時くらい。
その時までに、市場に行って食材を手に入れておかなければならないのだ。
受付さんに聞いた話だと、食材は3人前自分達で用意し、それを審査員達の前で調理する。
それをすぐに食べてもらい、全員の審査が終わったら合否を発表するというものらしい。
「なので、食材を探しにいかなければいけませんわ」
「なるほど、ならその案内くらいは俺がしようか」
「九尾は来たことがありますの?」
「時々ね。食材は魚でいいのか?」
「ええ、昨日食べた魚を調理してお出ししようかと考えています」
一度も扱ったことのない食材で、勝てるほど甘くはないだろう。
だが、一度でも扱ったことがあるのであれば、あれでもいいとは思う。
「なるほど、なら朝一で市場に向かうのがいいだろうね」
「よろしくお願いしますわ」
という感じで話をまとめ、わたし達は眠りにつく。
市場か……とっても楽しみだ。
自分は日本だけでなく、地球全ての食材を見て触って食べてきた。
それらを調理し、美味しい料理にする。
こちらの世界でも出来ると言うのは、本当に楽しみだ。
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翌日、わたし達は朝一で港に来ていた。
ここでは男達の野太いセリの声や荒々しい怒号なども聞こえる。
「うるさいニャ……」
「すみません。耳を押さえていましょうか?」
「大丈夫ニャ。自分でたためるニャ」
ソラはそう言って耳を器用にたたむ。
「それで聞こえますの?」
「問題ないニャ。それで、どの魚がいいニャ?」
「そうですわねぇ……一周見て回りましょう」
わたしは今一度市場を見回す。
市場はこの世界特有の物だった。
まず、この都市で市場とは、真っ黒に塗りつぶされた大きな建物のことを差すらしい。
そして、その中では氷魔法が常時かけられていて、魚の鮮度が落ちるのを防ぐという。
一般人が入れるのは半分で、もう半分は業者しか入れない場所になっている。
わたしは一般人として、黒い床を歩く。
その両サイドでは木のザルに魚が種類ごとにカットされずにそのままの姿で乗せられている。
価格は店員に聞いて要相談という形らしい。
なので、わたしは魚の鮮度はいいか。
しっかりと目を凝らして全てを見ていく。
そんなことをずっとしていると、鮮度も状態も素晴らしい店を見つける。
「あら。これは……素晴らしいですわね」
「お、嬢ちゃん分かるかい」
「あなたもお嬢様ではありませんか?」
わたしに声をかけてきたのは、日に焼けているのか浅黒い肌をした少女だった。
腕まくりをし、下は濡れても問題なさそうな太ももまで届く長靴。
前には防水性のエプロンを着ている人だ。
黒い髪は肩口で雑に切られ、燃えるような真っ赤な瞳が目を引く。
「やめてくれよ! オレはお嬢様なんて柄じゃねぇ。でも、貴族のお嬢様がこんな所になんのようだい?」
「今日屋台を出すための審査会がありまして、そこに持っていくための魚を吟味していましたの」
「……貴族様が自ら料理をするってのかい?」
彼女は驚いているが、それもそのはず。
基本的に貴族は料理をしない。
それは働くコックの役目だからだ。
「まぁ色々と事情がありまして。なので、このお魚はおいくらですか?」
説明してもいいけれど、長くなるのでやめようと思う。
それに、ここに来るまで結構時間を食ってしまった。
会場に行くまでの時間もあるので、話を進めなければ。
「お、サーバか。それは今が旬で美味いんだ、あんたいい目を持ってるよ。と、値段だったね。1尾1000ゴールドだね」
これの値段が妥当かどうかだけれど、それはこれまでの道中に交渉に聞き耳を立てている。
ちなみに、あの鯖のような魚はサーバという名であったらしい。
それと、現金価値は割と日本と同じような感覚で、1円=1ゴールドくらいである。
「少しお高くありませんか?」
「おいおい、他の鮮度の悪い奴と一緒にしないでくれよ。この鮮度と身の引き締まりっぷりなら、この値段を出してもいいだろう?」
「そうですわねぇ。では、6尾もらうので、5500ゴールドにしていただけませんか? 屋台の審査会を抜けたらまた来たいと思いますので」
「お! 面白いねぇ。いいよ。気に入った。その値段で売った!」
「交渉成立ですわね」
わたしは彼女と握手をする。
彼女の力はとても強く、握りつぶされてしまいそうなほどだ。
「おっと、悪いね。と、あたしはアミアっていうんだ。よろしく」
「わたしはカレンですわ。あ、後ろの皆も紹介しますわね」
「おう」
アミアの目がソラに向いている。
猫だと魚を持っていかれるとか心配しているのだろうか?
いや、手がワキワキしているから、撫でたいのかもしれない。
「こっちの猫がケットシーのソラですわ」
「ニャ」
ソラは尻尾で挨拶だけする。
「こっちの大きなのが九尾」
「よろしく」
「こっちの枝に乗っているのがフェニックスです」
「ピー!」
「お、おう。なんか伝説の魔獣のような気がするが……まぁ、気にしないことにするよ」
皆の種族を聞いて若干顔が引きつっているアミア。
「それじゃあこれで6尾だな」
「はい。ありがとうございますわ」
「しかし、審査会って3尾でいいんじゃなかったのか?」
「これらは予備ですわ。それに、余っても調理したら美味しくなりますから」
「へえ、カレンが屋台を出したら最初に行ってやるよ」
「いつでもお待ちしていますわ」
わたしはそう返して市場を出ようとしたのだけれど、アミアさんが顔を寄せてくる。
とても凛々しくかっこかわいい顔立ちだ。
「だけどよ。大丈夫なのか?」
「なにがでしょうか?」
「なんか、屋台の審査は金で買える……っていう話を聞いたぜ?」
「どういうことですの?」
審査そのものに意味がない……ということだろうか?
なら、出るというようなことも、無駄になってしまう。
「前回だったかな。目が飛び出るような高級食材ばっかり使った奴が勝ったうわさを聞いたからよ。ウチの魚なら大丈夫だと思うけど、いいのかなって」
「なるほど、それなら問題ありません。わたしの料理で、乗り越えてみせますわ」
わたしの言葉にアミアさんは目を丸くしている。
「それでは、ごきげんよう」
そんな会話を終え、わたし達は市場を出た。
「よし! これで今日の審査会は問題ありませんわね!」
市場での買い物を終え、わたしは時間に少し余裕を持たせて会場へ向かう。
会場はかなりの大きさらしく、中にはかなりの人がいた。
だが、想像以上に騒々しかった。
「ふざけんな! どうなってんだ!」
「すみません! 緊急ということになりまして……」
「準備してきたってのによ!」
なんだか中でなにか問題が起こっているようだ。
「どうかしたのでしょうか……?」
「んニャ……ニャニャ」
ソラが耳を立てて、聞いてくれている。
「んニャ!?」
「分かりましたの?」
「ニャンでもルールが突然変更になって、料理ギルドが用意した食材以外認めない……っていうことになってもめているみたいニャ」
「なん……ですって……」
折角用意した……いや、それはいい。
食べればいいだけだから、だが、わたしが扱ったことのない食材で勝負することになったら……。
どうしようか。
背中を汗が伝ったのが分かった。




