第4話 港湾都市ウェリス
「さ、到着したよ。ここがウェリス侯爵の管理する都市にして、大陸一の美食と商品が集まる場所。港湾都市ウェリスだよ」
九尾はそう言って眼下の都市に目を下ろすが、わたしはそれどころではない。
「吐きそうですわ……」
そう、それもこれも、九尾に乗せてもらってここまできたことが原因だ。
送ってもらっておいてその言い方は……と思われるだろう。
だが、音速を超えたんじゃないかと思うような速度でギュンギュン走り、徒歩1か月の距離を数時間で走り切ったのだ。
乗っていたわたしはもうグロッキーな状態だと確信できた。
「カレン、大丈夫かニャ? 人間って結構弱いのかニャ?」
「ピー?」
しかし、ソラとフェニックスは全く問題ないというような表情をしている。
「そう……ですわね。大抵の人間にはきついと思います……」
「なるほど……次からは気をつけよう」
願わくば次に乗るのはわたしではないことを祈りたい。
しばらく待っていると、流石に回復してくる。
なので、起き上がって眼下にある都市に目を向けた。
「確かに……これはすごいですわね」
眼下に広がる都市は何メートルもある城壁で囲まれていて、都市の中はとても発展しているのが分かる。
港には大型の船が何十、下手をすると何百というレベルで存在していて、本当に大きな都市だと理解させられた。
わたし達がいる場所は小高い丘になっているので、そこから都市の全貌が見える。
ただし、中心部の所だけは、外回りよりもさらに高い城壁で囲まれていて、見ることはできなかった。
やはり中心部には貴族達がいるのだろうか?
まぁ……わたしはそんなに関わることはないだろうから、いいけれど。
「さて、それじゃあさっさと行こうか。多くの人が出入りするからね。入場にはかなり並ぶんだ」
「分かりましたわ」
視線を城壁の入口に送ると、かなり長蛇の列が出来ている。
今から並ぶのかと思うと少しげんなりするくらいだ。
といっても並ぶ以外に選択肢はなく、わたし達はその列に並ぶ。
「ふふ、ボクの美しさに皆見とれているニャ」
「そうですわねぇ」
わたしはそう言いながら、ソラを撫でまわす。
ああ、何度撫でても素晴らしい毛並みだ。
彼が自慢の毛並みというのも分かる。
「そろそろ俺達の番だよ」
「え? もう……ですの?」
「カレン……流石にずっと撫ですぎニャ」
「あら……すみませんわ」
「いつでも撫で放題と言ったからにはいいニャ」
ということで時間があっという間に過ぎて、衛兵に止められる。
「お前達は……どのような目的でウェリスへ?」
「わたしは料理をしたくて来ましたわ」
「そっちは? 魔物か? 魔獣か?」
「魔獣ですわ」
因みに、魔物と魔獣の区別の仕方は意思疎通がほぼ出来ず、襲ってくるのが魔物。
人間と意思疎通が出来て、協力関係を結べるのが魔獣という形だ。
だから、姿形だけで判断することは難しい。
「種族は?」
「ケットシーニャ!」
「俺は九尾、で、こっちがフェニックス」
「ピー!」
フェニックスはよろしく! と羽を広げる。
衛兵は固まり、少ししてから口を開く。
「あまり……見ない種族だな。お前はこいつらの主か?」
「えっと……ソラ……ケットシーの主ではあります。他の人達は旅は道連れ世は情けといいますか……」
「……まぁ、何か問題を起こしたらお前が処罰される。分かったか?」
「ええ、分かっています」
魔獣の問題は連れて入れた人間の問題。
ということではあるのはこっちの国でも変わらないらしい。
「よし、入れ」
「あの、少しよろしいですか?」
「なんだ? 忙しいから手短にしろよ」
「料理店を開きたいのですが、どうしたらいいのかご存じですか?」
わたしは衛兵さんに聞くと、彼はなんだそんなことかと教えてくれた。
「基本的に料理ギルドにいかないと店は開けない。特に今はな。詳しい話は料理ギルドに行って聞け。場所はこの道をまっすぐ行き、鍋とスプーンの看板が目印のでかい建物だ」
「ありがとうございます」
わたし達は城壁の中に入ると、そこは今世のわたしでも見たことがないようなとてもすごい光景が広がっていた。
通路は広く、道の真ん中は馬車がこれでもかと通り、脇を歩く人々の顔も明るい。
その顔も、ファンタジーらしい様々な種族がいて、エルフ、ドワーフ、獣人、様々な種族がいることが分かる。
さらに、建物も4、5階建てが当たり前で、場所によっては8階建ての建物も見えた。
「すごいですわねぇ。こんなに大きな建物ばかりなのは初めてです」
「この大陸でも一、二を争う都市だからね。さ、止まっていると邪魔だし、歩こうか」
「ええ」
わたしはこういう場所は初めてで、見る物すべてが楽しい。
見たこともない店や、美味しそうな匂いを出している店を見つけた。
「気になりますわ!」
「待った」
わたしは首根っこを九尾にくわえられた。
「あの……これは……どういうことですの」
「まずは料理ギルドに行くよ。目的はちゃんとやる」
「はい……」
初めての土地の料理なんてたまらない。
今すぐに行きたい気持ちでいっぱいだけれど、料理ギルドにいかなければならない理由も分かる。
「ちゃんとお金を稼いでからじゃないと、料理店は開けないからね」
「はい……分かっています」
ガチの金銭的な問題があるので、急いで料理店を開くようにしなければならない。
ということで、わたし達は道を歩き、目的の料理ギルドに到着する。
料理だけのギルドっているのか? と思っていたけれど、美食の街だからなのか、多くの人が出入りしていた。
わたし達は流れに沿って進み、受付の列に並ぶ。
建物の中はかなり広い空間で、天井は普通の建物の2階分くらいある。
入り口からまっすぐ5mくらいは何もなく、それが横10mくらいはあるだろうか。
そして、その奥には受付の人達が並んでいて、料理ギルドに来た人の話を聞いている。
場合によっては奥の部屋を通されているので、商談等があるのかもしれない。
数十分も待つと、わたし達の番になった。
「次の方、どうぞ」
「よろしくお願いしますわ」
わたしの受付さんはとても明るい感じの美人さんだった。
わたしの年齢よりちょっとだけ高い20手前くらいだろうか?
スーツをピシッと着ていて、わたしに対しても愛想良く接している。
髪は後ろでまとめていて、深緑の瞳はとても理知的だ。
「よろしくお願いします。ご用件はなんでしょうか?」
「あの、わたしは料理店を開きたいのですが、衛兵さんに聞いた所、こちらに話を通せと言われまして……」
わたしがそう言うと、受付さんは少し困った顔をする。
何か問題があるのだろうか?
「えーっとですね。今のこの都市、ウェリスの状況をご存じですか?」
「いえ? 盛況でにぎわっているな……くらいにしか思っていません。というか、来たばかりであまり詳しくはありません」
「では、そこから説明いたしますね」
「はい」
ということで、彼女の説明を聞くことになった。
このウェリスという都市は、多くの人が行き交いして栄えている。
そんな街で料理店を開きたいという者は多いが、ここで問題が起きた。
この都市はさっき見た通り城塞都市、つまり、城壁の中は有限で全ての店を開ける訳ではない。
さらに、多くの者がモグリ……つまり料理ギルドの許可を受けずに料理店を開いた結果、食材を雑に扱ったことにより食中毒が多発。
都市を管理する侯爵閣下から直々に監視を強めるように指示が来たのだという。
なので、もし料理ギルドの許可なく店を開けば、下手をすれば投獄されるらしい。
「では……料理店を開くということはできないのでしょうか?」
「いえ、それでは問題があるということで、あなたには2つの選択肢が存在します」
「2つ?」
「はい。一つは今ある料理店に雇ってもらい、腕を磨いてその店を譲り受けるかなんなりかをしてもらう選択肢」
これはとても時間がかかりそうだ。
「もう一つは?」
「腕のある料理人には、一定数の屋台を開く権利を出しています。屋台審査会……というのですが、これを勝ち抜く必要がありますが、これを突破し屋台を出すんです」
「でも……それでは店ではありませんよね?」
「ええ、まずは屋台を出し、人気になれば店を持てるようになるかもしれません。こちらは腕があれば、前者の選択肢よりも早く店を出すことはできるでしょう」
「なるほど……」
そういうことなのか。
それなら、選択肢は一つ。
「その審査会というのはいつやるのでしょうか?」
わたしが聞くと、受付さんは笑顔で答えてくれる。
「明日になります。ですが、多くの方がこのチャンスを狙っています。長年店で調理場を任されてきた実力のある方々が何人も出ます。そして、今回合格できるのは1人のみ。かなり厳しいと思います」
受付の方も、いじわるで言っているのではないだろう。
手続きの費用もかかるし、時間もかかる。
何人もいて、通るのはその中の1人。
やめておいた方が賢明という言葉が分かる。
「それでも、わたしは逃げるわけにはいきません」
「……参加は今日中であれば申請出来ますが、されますか?」
わたしは彼女ににっこりと笑って答える。
「もちろん」
わたしは、屋台を開くための屋台審査会に申し込んだ。




