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第3話 これからの目的

「ええ……あれ本当でしたの?」


「ニャニャ!? 嘘だと思ったニャ!?」


「売り言葉に買い言葉かと」


「嘘じゃないニャ! 本当ニャ! カレンの邪魔にはならないニャ! それにほら! ボクを従魔にしたら、撫で放題ニャ! 撫でてみるニャ!」


 ほらほらと言わんばかりに背中を寄せてくるので、わたしはそっと手を当てる。


「あ……これは確かに……」


 毛はサラサラで指を入れると柔らかな感触が手を撫で返す。

 逆向きに撫でると毛は一瞬抵抗するのだけれど、優しくねと教えるようにして受け入れてくれた。

 一度撫で始めると、ずっとそうしていたい。

 そんな感覚に陥ってしまう。


「ふふ、これでボクの毛並みの良さが分かったかニャ? どうニャ?」


「これからよろしくお願いしますわ。えっと……」


 名前はなににしようかしら。

 この手触りはもうずっと……一生撫でていたいと言っても過言ではない。

 なので、従魔になってもらおうと思う。

 色はグレーな感じで、顔は可愛いとかっこいいの中間辺り。

 足先だけは黒で靴下を履いているようだ。

 瞳はきれいなスカイブルーで、大空を思わせる。


「じゃあ……ソラでどうでしょう」


「ソラ?」


「ええ、日本……異世界の言葉で空のことです」


「いいじゃないかニャ! ボクはソラ! ソラニャ!」


 ケットシー……ソラが叫ぶとわたしとソラの身体がほのかに光る。


「よし! これで契約は成立ニャ。これから美味しいご飯を頼むニャ!」


「ええ、それはもちろんですわ。でも、とりあえず……わたしは近くの街か村に行きたいのですが、案内をお願いできないでしょうか?」


「もちろん! と言いたい所だけど、ここから人里までは結構遠いニャ」


「ちなみに……どれくらい?」


「徒歩で1か月くらいかかるニャ!」


「そんな場所なんですか?」


 一体どこに流れついてしまったのだろうか。


 そして、1か月も歩き続ける必要があるとは……。


「それなら、俺が送っていってやろう」


 そう言ってくれたのは、九尾だった。


「いいんですの?」


「ああ、そもそも、俺はずっとここにいる訳ではない」


「何をしているんですか?」


「ケットシーやフェニックスのように、色々とあった者をこの大陸の各地で(かくま)っている」


「なんと……」


 そんな立派なことをしていたのか。


「ケットシー……いや、ソラか。彼もそろそろここを出てもいいと思っていた。だが、そうなるとフェニックスが1人で可哀想だ。連れていってやってくれないか?」


「わたしは構いませんが……フェニックスはいいのですか?」


「ピ? ピー!」


 フェニックスは魚から一瞬顔をあげて鳴いた後、いいよ! とでも言うように答えて再び魚をつつく。


「話はまとまったな。というか、街に行ってどうする? 家に連絡する手段はあるのか?」


 そう聞かれたけれど、わたしにどうにかする力はない。


「いえ……わたしが居るのがどこか……そもそもどこの大陸かすらわかりません」


「君のいた国の名前は?」


「ブランルールという国ですわ。そこまで大きくはないはずです」


「ふむ……俺はこの大陸中を駆け回っているが……そんな国の名前は聞いたことがないな……」


「そう……ですか」


 やはり、流されて到着したのは別の大陸なのだろうか。

 旅に出た当初も、別の大陸に行こう、ということで出発した。


 そんなわたしを見て、九尾は優しく聞いてくれる。


「心配するな。俺がこの大陸有数の都市に送ろう。そこではレストラン等もあり、世界でもっとも美味な場所と呼ばれている。それに多くの人が訪れるのだ」


「そんな場所が……」


「ああ、だから、そこで料理店を営み、情報を集めながら生活したらいい」


「とても素敵な提案ですわ」


 前世の時も料理人になって後悔はしていない。

 むしろ、今世もやれるなら料理人になりたかったくらいだ。

 今世の自分だったら、ただ流されるままに適当な貴族に嫁いで終わっていただろう。

 だけど、前世の知識がある今のわたしなら、料理人になり、多くの人を笑顔にしてみせる。


「いい顔になった。まぁ、お前ほどの力があれば、料理人ではなくても問題はなさそうだが」


「力……ですか?」


「ああ、全ての魔法が使えるのだろう?」


「え? それは……知りませんでしたが」


 それは本当なのでしょうか?

 わたしも魔法を使えるということかしら?


 え? でも、今世のわたしの知識にそのような物はない。

 両親からも魔法の練習は必要ではないと言われていたし、舞踏会の人達もそんなことはしていなかった。


 わたしは考えを巡らせるが、答えは出ない。

 そこを、九尾が話を引き取ってくれた。


「俺にはそう見える。だがそれよりも、料理をする方が好きなんだったな?」


「はい。その通りです」


「なら、やはり最初の案。この大陸で有数の都市に送ろう。そして、そこで料理屋を開くので問題ないか?」


「ええ、問題ないどころかむしろお願いしたいくらいです」


「なるほど、なら、俺にも報酬があってもいいな?」


「もちろんですが……なんでしょう?」


 差し出せるものなどないのだけれど……。


「俺はずっとその都市にいる訳ではない。だから、時折訪ねた時に料理を作ってくれ。この大陸中の食材を持っていくからな」


 そう優しく提案してくれた。


 九尾は……とても優しい人なのだろう。

 わたしは彼に助けてもらい、彼は有数の都市にわざわざ送ってくれる。

 わたしはただ助けられ、何も返せない。

 料理を一度しただけでは返せないようなことをしてくれているはずだ。

 それを、料理をこれからするといい。

 それだけで、わたしが重圧を考えすぎないように言ってくれているのだろう。


 なら、わたしが答えることは一つ。


「もちろん。いつでもお越しください。あなたなら、どんな時でも扉を開けて待っていますわ」


「楽しみだ。さて、それなら今すぐにオープンしてもらおう」


「どういうことですの?」


 わたしがそう彼に聞くと、彼はニコリと笑って目の前にドササと何かを落とす。


 よく見るとそれは先ほどの鯖に似た魚。


「俺はもっと食べたい。ケットシー……ソラにフェニックスも食べたそうにしているぞ?」


 わたしは彼の言葉を聞き、2人の方を見る。

 2人はじっとよだれをこらえるようにして、わたしと魚を交互に見ていた。


「もちろん、いくらでも作りますわ。お任せくださいませ!」


 ということで、わたしは結局魚を10尾以上料理した。

 九尾は……優しい人というよりも、普通に食べたいだけの人だったのかもしれない。


 そんなこんなで1日が終わり、翌日には大陸有数の都市に向けて、わたし達は出発する。


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