第2話 もふもふと魚
「ケットシーさん。九尾さん、フェニックスさん。わたしに、この魚を使った料理をさせてくださいませんか?」
わたしの言葉にすぐ答えるのは、ケットシーだった。
「ニャ……ニャニャニャニャにをいうのニャ!? ボクの料理を食べて本当にそう言うのかニャ!?」
ケットシーは毛を逆立たせ、怒りをあらわにするように叫ぶ。
「はい。ですので、一度作らせていただけませんか?」
「ニャ……そんニャ……人間はボク達と味覚が違っているのかニャ?」
ケットシーの言葉に答えるのは、九尾だ。
「そんなに違っていないよ。俺達が美味しいと思う物は、彼らも美味しいと感じるはずだ」
「そうかニャ……でも、そこまで言うならいいニャ。作ってみるといいニャ! ボクのより圧倒的に上手くないと認めないからニャ!」
「ええ、お任せください」
「ふーんいいニャ。そこまで言うのニャら、もし本当に美味しくできたら名前をつけさせてやるニャ!」
「名前を? どういうことですの?」
わたしの質問に答えてくれるのは九尾だ。
「魔獣に名前をつける。これをすると、従魔として使役できるんだ。主は従魔に定期的に魔力をあげることによって従魔の力を借りられるという感じかな。もちろん、従魔の方が納得しないとできないから、あんまり数はいないけど」
「それは……メリットなのでしょうか」
「メリットだよ。ケットシーは珍しいし、そう見えて強いからね。従魔になってくれるのならした方がいい」
「なるほど、ではお作りしますね」
なんか変なことになったなと思いつつも、料理ができるのであればそれでいい。
わたしは、調理台に立つ。
調理台……と言っても頑丈なまな板がおいてあるだけで、それも床の葉っぱの上に直置き。
立つのではなく、正座をして調理をしなければならない。
でも、その程度の問題は問題ではない。
わたしは、包丁を手に取り……あれ?
「あの、すみません。包丁はありませんか?」
ケットシーの様に爪で切れるわけもない。
わたしがそう言うと、九尾は苦笑して答える。
「ああ、悪かったね。そういった道具は置いていないんだ」
「そんな……」
では、わたしは料理できないのか。
大口を叩いたのに……、こんなことになるなんて……。
「だから、大きさはどれくらいがいい?」
「大きさ? なんのですか?」
「包丁のさ。出来るだけ詳細に教えてくれ」
「はぁ……では……」
わたしは聞かれた通りに包丁について話す。
前世で使っていた使いやすい包丁の特徴を伝える。
簡単な物なので、5分くらいで説明を終えられた。
「こ、細かいんだな……では、作るか。『道具創造』」
九尾が何か言うと、まな板の上にわたしが言った通りの包丁が出来上がっていた。
「それを使うといい。問題はないかな?」
わたしは驚いてそれを手に取る。
これが魔法……でも、今世の知識では、こんな簡単に作ることなんてできなかったはず。
九尾はもしかしてすごい存在なのでは……?
と思うけれど、まぁそのことはいい。
今は料理を作るのが優先だ。
「問題ありませんわ。大事にして、このお礼は料理でお返しいたします」
「ああ、でも、それは1週間も持てばいい。ずっと使うような物じゃない」
「そうなのですか。では、調理させていただきますわ」
わたしはそう言って、魚を手にとってまな板の上に乗せる。
そして、まずは包丁で丁寧に鱗を取る所からはじめる。
ちゃんとわき腹や腹側まで全て丁寧に。
次に腹を裂き、血合いを徹底的に取り除く。
その際に流水が必要になるので九尾に頼むと、魔法で出してくれた。
魔法ってすごい。
「次はこの魚を乾かしたいのですが、吸水性のいい布はありませんか?」
「付着している水分を飛ばせばいいのかな?」
「はい」
「では飛ばそう」
またしても魔法で解決してくれる。
魔法って万能か? そう錯覚しそうになる。
「いけません。集中しませんと」
わたしは意識を料理に集中させる。
飾り包丁と呼ばれる、魚のぶ厚い所に切り込みを入れる。
焼き魚に時折見られる×印のあれ。
これをすることで、火が均一に入りやすくなるのだ。
それから30cmほどの高さから塩を振り、均等に塩味がつくようにする。
次の工程は冷蔵庫が必要なのですが……もしかすると……。
「九尾さん。もう一度水分を吸って欲しいのと、少しだけ乾燥させていただけませんか?」
「いいよ。任せて」
彼はすぐに魔法で解決してくれる。
やっぱり魔法って……。
わたしは頭を振り、もう一度塩を振って火加減を見る。
「あの……もう少し強くしていただけませんか?」
「結構強いよ? それに、これ以上やると熱で調理が大変になる」
「構いません。この程度の熱には調理をしていれば慣れますから」
「わかった」
ということで魔法で火を強くしてもらい、わたしは最適の場所を見つける。
後は、そこに魚を差して魚が焼けるのをじっと待つ。
身のぶ厚い背中が焼けるのを待ち、ここだと思ったタイミングで今度は腹側を焼く。
ただじっと魚が焼けるタイミングを見計らう。
初めての魚で何がきっかけになるか分からない。
慣れた食材だったら感覚で問題ないが、新しい食材には全身全霊で向かわなければならない。
「あ、熱くないのニャ? すごい火ニャ……」
「心配してくださってありがとうございます。問題ありませんわ」
顔には熱気がこれでもかと当たるけれど、魚を美味しく焼くためには必要なことだ。
それに、この程度の熱は前世で慣れた。
じっと見ていると、火が入ったのが分かった。
「よし……これでいいでしょうか」
わたしはそっと魚の串を取り、火から離す。
「も、もう……食べてもいいニャ?」
「いえ、少しお待ちください」
最後に余熱で身にしっかりと火を通す。
焼きたても美味しいけれど、こうやることも必要なのだ。
シンプルだけれど、だからこそ、手間をかけるとよりおいしくなる。
わたしは、料理作りにおいて、そのひと手間ふた手間を惜しまない。
数分間待ち、3人ともわたしの調理した魚をじっと見ている。
そこまで期待されていると、じらすわけにはいかない。
本来はわたしが先に食べて味見をすべきだが、こんな目で見られたら後回しにはできない。
「お熱いですが、どうぞ」
わたしは串を差し出す。
「ニャ!」
「ピー!」
「ハム!」
3人とも魚に飛びつくようにしてかじりついた。
「ニャニャ!? ニャ……ニャニャニャ!!!???」
「ピー!!! ピピーー!!!!!!」
ケットシーとフェニックスは味わって驚いて鳴いている。
九尾はしっかりと味わって口を開く。
「ほう……これはすごい。均一に振られた塩と適切な火加減の魚が絶妙にマッチしている。それに、皮もパリパリとしていて食感も面白い。ただの魚をここまで違った料理にするとは信じられない。かといって身が疎かになっていることもない。皮はパリパリ、身はほくほく、魚の邪魔な臭みも完璧に取り除かれていて、美味さをここまで引き出しているとは……」
九尾がここまで饒舌になるとは思わなかったけれど、そう言って美味しそうに食べてくれているのはとてもうれしい。
フェニックスはもう鳴く暇があったら食べるというように、ひたすらに魚をつついている。
わたしは、次は1人で食べてぶつぶつ言っているケットシーに目を向けた。
「これは……これは……」
「いかがですか? お眼鏡にかないましたか?」
「う……美味いニャ!」
ケットシーはそう言ってわたしに詰め寄る。
「ボクがやろうとすると、皮がパリパリになって身も火が入り過ぎるか、身はしっかり火が入るけど皮はぼちぼちという感じにしかならなかったニャ! それに、魚本来の脂がすごいニャ! 噛んだ瞬間脂がじわっと湧いて出てきて、魚の美味しさをこれでもかと引き上げているニャ! この魚にこんなに美味しい脂があるなんて知らなかったニャ! それに下処理だって完璧で……ボクが作ったのなんて……何もしていないただの焼いた魚ニャ……」
自分には価値がない。
そういうようなケットシーに、わたしは彼の作った魚を食べながら答える。
「そんなことはありません。あなたの調理も素晴らしいです。鱗を丁寧にとっている様や、わたをきちんととっているのは食べる人のことを大切に思っているのが分かります」
「そんニャ……」
「わたしは異世界で食事を本当に大切にする国に生まれたので、こういうことを知っています。あなたも、いずれ出来るようになりますよ」
「すごい世界……いや国から来たんだニャ……。人間……いや、カレン。ボクに名前をつけるニャ! 君をボクの主として認めるニャ!」
ケットシーはわたしの魚をひとかじりしてからそう宣言する。




