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第33話 とある客の話

***とある冒険者***


 俺はAランク冒険者パーティで戦士をやっている。

 久しぶりの休暇をウェリスで過ごしていると、ウェリス屋台料理大会なるものが開かれるとか。

 それなら、美味い物を食うために行ってもいいかもしれない。

 と、みんなで話して、こうしてきた訳だ。


 今日は大会2日目だけれど、俺のテンションは低かった。

 初日の屋台はどこもまぁまぁだったからだ。

 なぜなら俺達はAランク冒険者パーティ。

 旅路の途中は別だが、街では毎食レストランに行き、なんならドラゴンの肉ですら討伐して食ったこともある。


 そんな俺達を満足させる屋台があるのか。

 そう思っていた。


「ここがハンバーグクレープの屋台か……」


 昨日はパーティメンバーが手分けして色々な屋台の料理を食った。

 それで、各自一番のおすすめの屋台を見つけて紹介しあうようにして、来たのが今回はこの屋台。

 ハンバーグクレープとかいう聞いたこともない料理。


「ここのが美味しいのよ! ほんと! 嘘じゃないから! 食べてみて!」


 パーティ内で一番味にうるさい魔法使いの女がそう叫ぶ。


「わかったわかった。でもめっちゃ混んでるな……」


「そりゃね。美味しいし、作ってるのを見てるだけでも楽しいし、それに……」


「それに?」


 俺が聞くと、彼女は顔を寄せてくる。


 俺もそれに応えるように顔を近づけると、彼女は声を落として言う。


「ここ、明日には販売停止させられるらしいの」


「はぁ? そんなあぶねー所なのかよ? それなら俺はいらねーぞ」


 美味しいものは食べたいが、健康を犠牲にしてまで食うものではない。

 俺は十分に稼ぎ、そしてそれを続けることが大切だからだ。


「ちょ、ちょっと待ってよ」


「あん? なんだよ」


「だから大丈夫だって。昨日あたしも食べたけどなんともなかったし」


「じゃあなんで停止させられるんだよ。おかしーだろ」


「新しい料理だからだってさ。でも、今日だけは許してほしいって、料理ギルドのマスターが首をかけて交渉したらしいよ」


「そこまですんのか? 料理ギルドのギルマスが? その料理人は孫だったりすんのか?」


「違うらしいわ。それだけその料理人の料理に惚れこんでる……とか?」


 そんなことでそこまでするか……?

 と思うけれど、そこまでするのであれば、食べてみたい。


「お次の方ー」


 そんなことを話していると、俺達の番になる。


 つられて屋台の中をみると、中々に異様な光景だった。


 お嬢様が猛烈な勢いでパン? のような何かを焼き、それをヘラで器用にひっくり返して受付の女性の前に置く。

 そこに猫型の魔獣が焼いた肉を乗せ、真っ赤なソースをこれでもかとかけてクルンと巻いていた。

 それは渦を巻いた細い金属の食器? に入れられる。

 受付がそれを葉っぱで包んで俺達に差し出してくる。


「一つ1000ゴールドになります」


「お、おう」


 普通にたけーなと感じる。

 屋台の食事でこれだけはそうそう……と思いながらも、後ろに並んでいる奴らは何人もいる。


 なら、それだけの価値があるんだろうか。

 まぁ……ドラゴンの肉を食った俺が、満足できるは思わないが。


 そう思いながらも1000ゴールド支払い、脇にずれて早速食べ始める。


 クレープ……ガレットのような見た目だけれど、あれよりはかなり柔らかく、簡単に変形する。

 中は真っ赤なソースがたっぷりと入っていて、俺は意を決してかぶりつく。


「………………!!!!!」


 これは……これは!

 信じられない。

 これはなんだ……これはなんだ!?

 肉にトマトの旨味がこれでもかと絡み合ってお互いを引き上げている。

 肉はミノタウロスの肉かオークの肉……だと思う。

 もしかしたらどちらも入っているかもしれない。

 けれど、それらの肉では、決して、決してドラゴンの肉には勝てない。

 あれはそれ単体でほぼ完成している。

 普通に焼いただけで、絶品のステーキとなるような肉なのだ。


 ドラゴンの肉は焼く意外何もしないのが一番美味いと言われるほど、それだけで素晴らしい肉とされている。


 このハンバーグクレープは、その肉に匹敵……いや、超えうる。


 ドラゴンの肉は単体で完成しているが、このハンバーグクレープはお互いがお互いをカバーしあい、より高め合う。

 そう、俺達冒険者のような料理なんだ。

 俺達人間はドラゴンより非力だ。

 だが、時に協力して打ち勝つことがある。

 それは、互いが互いを信頼し、カバーするからこそドラゴンという強大な存在を超えられる。


 この料理はそれを体現していると感じた。

 肉とソースと皮、これらが協力し、より美味さの高みへ至らんとする姿。

 そんな素晴らしさを感じたのだ。


「どうよ」


「ああ、美味い。こいつは美味い。文句なしだ」


「でしょ。でも残念なのよね。明日は……何を出すのかしら」


「ああ、明日はダメなんだったな……でも、俺は来るとするよ。これだけ美味いのを出してくれるんだ。きっと明日ももっといい物を出してくれるはずだ」


「ふふ、そうね。来ましょうか」


「ああ」


 俺達はそれからもう一度ハンバーグクレープの屋台に並び、大会をでた。

 明日は……どんな料理になっているのだろうか。


******


 翌日、俺は1人朝からハンバーグクレープの屋台に来ていた。


「クラーケンたこ焼き?」


 看板が特急で塗り替えられていて、そう書かれていた。


「はい。アツアツでとても美味しいですよ」


「じゃあそれを一つ……いや、2つ」


 とりあえずここの屋台の味を信じてみようと思い、2つ注文する。


 カカカカカカカッ!!!


 お嬢様がアイスピックを持ち、ものすごい早さで丸い食べ物を回転させていく。

 それは綺麗な円形になり、終わったかなという段階でそれを葉っぱの器に乗せていく。


 円形の焼いたものが8個、猫がトマトソースをどろりとかけ、パラパラとチーズを振っていた。


「金額は1000ゴールドです」


「あ、ああ」


 俺はすぐに支払ってそれを受け取る。


 円形の焼き物……たこ焼きでいいのか? これには爪楊枝が刺さっていて、これで持ち上げて食べるということなんだろうか?


 俺は片手で2つもち、爪楊枝で一つ持ち上げて口に運ぶ。


「アッツ、はふはふ」


 熱い。

 熱すぎる!

 口の中でドラゴンがブレスを吐いたのかと思った。


 そんな熱いたこ焼きをかみしめる。


 外はカリカリだったが、中身はトロトロで驚くべき食感の変化を感じられた。

 こんなことがあるのか?

 このカリカリとトロトロの両立なんができるなんて。

 トマトソースは昨日のものと同じようだけれど、きちんとクラーケン用に味もしっかりと調整されていた。

 それに、最後にかかっているチーズも素晴らしい。

 昨日よりも少し強い酸味をチーズのまろやかさが美味しさへと変えてくれている。


 美味い、これが……これがたこ焼きか。

 そう思ったが、どこにクラーケンが……。


 パキュン!


「!!!」


 次の瞬間には、口の中で何かが爆ぜる。


 それはアツアツに焼かれたクラーケンで、軽く炙って外が焼いてあり、弾けるような食感を演出していた。

 そしてかめばかむほどクラーケンの味がでてきて、それがトロトロの中身、トマトソースと混ぜ合わさったら新しい世界が誕生した気がする。


 俺ははふはふと全て平らげ、物足りなさを感じて再び列に並んだ。


「あー! ちょっと、なに抜け駆けしてるのよ! 宿にいないと思ったら!」


「見つかったか……だが、良かったな。ここのを食え。そうしたら分かる」


「いや……あんたどこまで……まぁ、いいけど」


 それからクラーケンたこ焼きを食ったパーティメンバーもとても幸せそうな顔をしていた。


 やはり、休暇で戻ってきた時に、こんなに美味い物が食えるなんて幸せだ。


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