第29話 大会当日
そして大会当日。
わたし達は早朝の5時から作業をしていた。
その前に、大会の会場の説明をしなければならないだろう。
大会が開かれるのはロットベーグ広場。
なんでも昔この土地を開拓した偉い人の名前から取った広場だ。
この広場はかなり大きく、軽く1000人は入れるような広場になっている。
地面には石畳が敷き詰められ、噴水やベンチ等も多く置かれていた。
休みの人はここにのんびりとしに来たり、芸人が芸をしたりと憩いの場として存在している。
ただ、今は全くそんなことはない。
大きな円の形をしているこのロットベーグ広場。
その外周上に屋台が30台等間隔に並んでいるのだ。
その屋台も普段使っているものとは段違い。
高さ3m、横幅5m、奥行きも5mくらいはある大型の屋台だ。
しかも、作業用の場所として、屋台の後ろにテントが張られていて、そこも屋台同様の広さがある。
仕込み等はそこで行い、翌日使う分等の置き場所としても使える。
冷やすための魔道具も貸し出しされていて、保存もばっちり。
正直、かなり至れり尽くせり……というか、そうとう気合が入った催しのようだ。
「大体こんなものでしょうか……」
「つ、疲れたニャ。これを後3日も……本気ニャ?」
「ええ、この3日間だけですし、よろしくお願いしますわ」
「任せるニャ。カレンの店はボクの腕にかかっているニャ!」
「ふふ、その通りです。頼りにしていますわ」
「もちろんだニャ!」
わたしはソラと準備を進めながら話す。
そんなことをしていると、開場時間の9時の鐘まで30分くらいだろうか。
ハンナさんが料理ギルドの制服を着た2人を連れて現れた。
「カレンそろそろ始まるけど、大丈夫そう?」
「ええ、今の内にできることはやっていますわ」
わたしは焼き物をしながら彼女に答えた。
ハンナさんは苦笑しながら話を続ける。
ただし、仕事モードに切り替わるのか、口調などもキリリと張りが出た。
「それなら良かった。詳しい話を続けてもいいでしょうか?」
「ええ、どのようなお話でしょう?」
「あたし達料理ギルドの人間が売り上げの確認、記録作業を行うため、近くで引かえさせていただきます。ただし、調理、会計等には一切介入しないので、自分達の手で成し遂げること」
「ええ、分かっています」
「オレが手伝いに来てんだから問題ねぇよ!」
そう言って自信満々に答えるのはアミアさん。
正直、彼女に頼ってもいいのか悩んだけれど、わたしが作ろうとしているものではどうしても手が足りなくなる。
というか、全員の力が必要になるので、頼れるなら本当はもっと欲しかったくらいだ。
「あんたねぇ……雑なんだからカレンの邪魔はするんじゃないわよ?」
「大丈夫だって。な! カレン!」
「ええ、アミアさんなら大丈夫だとわたしも信じていますわ」
「ほらな!」
アミアさんが声高に言う。
ハンナさんは心配そうに見るけれど、きっと大丈夫。
「それならいいんだけど……」
「大丈夫だって。話ってそんだけか?」
「いえ、これからお釣り等も隠されていないかの軽い点検をさせていただきます。問題ありませんね?」
「あ? そんなことするかよ!」
「これもルールなのよ。分かったら退きなさい」
わたしはもちろん事前に話を聞いていたのですぐに対応する。
ハンナさんとギルドの人は屋台に入って少し確認をして、すぐに出ていく。
「はい。確認は終わりました。ありがとうございます」
「いえ、他にすることはありますか?」
「この後料理ギルドのギルドマスターの挨拶と、ウェリス侯爵様から開始の宣言がされるまでは自由行動です」
「なるほど、ではここで調理を続けさせてもらいますわ」
「はい。では失礼しますね」
ハンナさんはそう言って屋台から離れる直前、わたしに耳打ちをする。
「応援してるから、頑張ってね」
「ええ、ありがとうございます」
そうして、ギルドマスター達の話が始まる前に、来客があった。
「よう。屋台を出して3か月も経たずにいきなり大会に参加するたー……やるな」
「あなたは……ミノタウロスサンドの」
来客とは、ミノタウロスサンドの店主だった。
「よぅ!」
店主の上……店主に肩車をされる形で女の子がそう挨拶をしてくる。
「おい、ふざけた挨拶するんじゃねーよ。すまねーな、ウチの娘が」
「いえ、小さな時なら仕方ないでしょう」
年齢は4,5才くらい。
お転婆が許される年齢だ。
「そうか、ありがとよ。ただ、先に言っておく。今回もウチが勝つ。言いたいことはそれだけだ」
「まぁ……ライバルと思ってくださるのですか? とても光栄です」
わたしはそこで一区切りつける。
湧き出る感情で一番最初のものはとても嬉しい……だ。
屋台を出す物として、彼が出している料理の素晴らしさはしっかりと味わったから分かる。
火加減や味付けは当然として、日の気温によってもかなり調整をしていたはず。
お客様を喜ばせたいと、本気で取り組み屋台ランキングの1位を取り続けてきた彼。
そんな彼がわたしを敵として見てくれる。
これが喜ばずにいられようか。
いや、喜びが先に来る。
けれど、わたしは同時に思ったことをすぐに彼に伝える。
「けれど、勝つのはわたしです」
わたしはそうはっきりと宣言し、彼の目を真正面から見つめる。
「へっ、言うじゃねぇか。ま、楽しみにしているぜ。大会中はどうせ会うことはないだろうからな」
「ええ、自分の屋台は大丈夫なのですか?」
「当然。伊達に何十年も屋台を出し続けてねぇよ。そこまで言うあんたの実力、みせてもらうぜ。じゃあな」
「あばよっ!」
店主と女の子はそう言って去っていく。
帰り際に女の子は頭を軽く小突かれていた。
礼儀はある程度しっかりとしろということだろうか。
まぁ、今のわたしにはどちらでもいい。
『あーあーテステス。よし、入ったな』
マイク……といっても異世界の拡声マイクらしく、魔道具として存在しているのだとか。
料理ギルドマスターの話は割と普通のものだった。
そして、次に聞こえてくるのは領主であるウェリス侯爵のもの。
『今回参加してくれた料理人の皆には感謝を送りたい。普段の屋台料理として街を盛り上げてくれている諸君の働きに感謝している。そして、それと同時に今後も働きに期待したい。ただ、これからここで行われるウェリス屋台料理大会はとてもきびしいものになる。しかし、普段から努力を続け、腕を磨き続けている君達であれば必ずや来客する者達を満足させてくれると信じている。お客達も我慢ができないようだ。それでは、ここに、ウェリス屋台料理大会の開催を宣言する!』
彼の宣言と同時に、入口に今か今かと待っていた民衆が押し寄せる。




