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第28話 大会のメニュー

 ということで、早速試作をはじめるとなったのだけれど、メニューはどうしようか……。

 新メニューを作りたいとは思うが、ある程度制約がある。

 わたしだけでも作れるくらい大量に作ることが可能。

 高価な食材を使うことで、高価な料理としての納得感を得る。

 という2点だ。

 ただ、確認しておく必要がある。


「ハンナさん。今まで優勝した所は、何食分くらい販売していたのでしょうか?」


「えっと……一日3000食くらいね」


「3000……3000!?」


 流石にそれは……。

 腕が壊れてしまう。


「あ、待って待って、ミノタウロスサンドの所は1日に1000くらいで優勝できてるから、カレンもそっちを目指すんでしょ? ならそれくらい作れればいいから」


「まぁ……1000でも洒落にならないのですが」


 想像よりもかなり多くの食事が出るらしい。

 ここまで出るなんて、現代の大型フェスくらいだと思っていたのだけど……。


「そうね。ただ、今回は前よりは来ないかもね」


「そうなのですか?」


「ええ、今までのは告知に1か月かけたりしてたから。でも、今回は2週間しかない。だから他の領地からも来ない可能性はあるわね」


「そうですか……」


 だとしても800……とかは作らないといけない。

 ただ、その日の内にわたしが作って……ということは無理。


「作りおきをしなければなりませんわね」


「作りおき……カレン。料理ギルドの人間として言わせてもらうと、あまり感心できないわ。分かっていると思うけど、肉類は日持ちしない。冷蔵魔道具を使ったとしても、量をしまえるものじゃないわ」


 ハンナさんは難しい表情でそう言ってくれる。

 それでもしも食中毒が出てしまった場合のことを考えているのだろう。

 そうなってしまったら、わたしの料理人としての人生が終わってしまう。

 そう言いたいのだろう。

 彼女はわたしのことを心配して言ってくれている。


「ええ、分かっていますわ。ですが、出す物は何も肉だけではありません。使う食材は様々なものを考えるべきなのです。それで、日持ちもするいい物があれば使う。という程度です。というか、その辺りを考えないと時間がどう考えても足りませんので」


 干物を売る……ということはしたくない。

 というか、干物を屋台で買ってすぐに食べるというような人はそうそういない。

 それで優勝できるようなものではないだろう。


 ちゃんと屋台として、売れるものがいいのだけれど……。

 かといって、揚げ物のように時間がある程度かかるものはお客様をさばききれない。

 しかし、3日間もあるので、作りおきできる量も物も限られる。


 たくさん作らないといけないけど、作りおきはしておけない。

 やはり、料理人の知り合い等が多いグループの方が圧倒的に有利だ。


「何かありませんか? 日持ちしそうな食材がこれから入荷しそう……等、なんでもいいのです」


 何でもいい。

 なんでもいいけれど、情報がほしい。


 ハンナさんはうーんと頭を悩ませる。


「えーっとねぇ……近くの山でキングボアが出た……って話を聞いたから、そろそろ冒険者とかが討伐に行くかも? 後は遠くにいるドラゴンの肉なら日持ちするんじゃなかったっけ……」


「ドラゴン! それは庶民でも手に入るものなんですか!?」


 ドラゴンの肉! 夢にまでみた肉!

 そんな素晴らしい肉があるのなら食べてみたい!

 それに日持ちもするなんて……やはり異世界には知らない食材が多くあるらしい。


「いや……流石にドラゴンの肉は貴族の人達でほぼ食べられるかなぁ。……討伐したパーティとかなら


別かもだけど、基本は貴族の人がほぼ買い取っちゃうわよ。それに、値段もミノタウロスですら霞むレベルだし」


 ハンナさんは申し訳なさそうに言う。


「ああ……そうですわよね。流石にドラゴンの肉は高いですわよね」


 店に出すどころかひと口も食べられないとは。


「ならクラーケンはどうだ!」


「アミアさん」


 いつの間にか後ろにいた彼女がそう言ってくる。


「クラーケンですか?」


「ああ、近海で船が襲われたらしくて、幸いけが人はいなかったらしいけど、安全のために討伐隊が組まれることになったんだよ。で、そろそろそいつらが出るっぽいから、大会には間に合うんじゃねーの?」


「クラーケンは庶民にも手が出せるんですの?」


「ああ、ちょっとお高い魚介……くらいの感覚でいいぜ。大会なら並んでいてもおかしくねーくらいだしよ」


「それはいいですわね」


 クラーケン。

 一体どんな味なのだろうか。

 とりあえず食べてみて……と思うが、ハンナさんが待ったをかける。


「でも、今クラーケンってどこにも出回ってないわよ? 試食も作れないし、そもそも大会に間に合うかも分からないのを材料にするのは違うんじゃない?」


「まぁ……そうとも言う」


「なんと……」


 試食が作れないのでは仕方ない。

 なら、他に手を考えなくては……。


 日持ちがある程度して、作りおきできる。

 そして、大量に作ることができる。


 うーむ。

 考えれば考えるほど難しい。


 日持ちのする何かを作りおきしておく時間。

 前日などに仕込みをしておく時間。

 販売時の調理時間。

 様々な時間を全て使い切ってやらなければならない。


 わからない。

 こういう時は、知っているものから派生させていくのと思いつくことが多い。

 日本で屋台と言ったら……カステラ、たこ焼き、イカ焼き、焼きそば、綿菓子、りんご飴、お好み焼き……という感じだろうか。

 どれも1人で出来るようなものではない。


「ふむ……」


「料理ギルドもかなり力を貸してくれるから、必要な食材とか人手があったら教えてね。調理は難しいと思うけど、そこに行くまでだったら結構手伝えるから」


 そうハンナさんが言ってくれた言葉で、わたしはこれなら……と思いつく。


「あの……ミノタウロスとオークの肉をひき肉にしてくださったりするのかしら?」


「え? まぁ……大会の間だけだったら多少多くてもやってくれると思うけど……」


「なるほど、なるほどなるほど」


 なるほど。

 これならメインは決まったようなもの。

 でも、このまま販売するのではどう考えても効率が悪い。

 ピザのように手で持って食べられる。

 これができるようなものは……。


 次の瞬間に、脳裏に電流が走った。


「ちょっと食材調達に出てきますわ!」


「え!? 夕飯は!?」


「空腹は最高のスパイスです! しばしお待ちを!」


 わたしはいてもたってもいられず急いで家を出て、今夜分の食材を探す。

 

「突然どうしたニャ!?」


「ピー!」


 ソラとモミジがついてきてくれる。


「いい食料を思いつきました! なので、今からその食材を買いにいくのです!」


「もう思いついたのニャ!?」


「ピー!?」


「ええ、最高に美味しい物をお出ししますわ!」


 きっとこれならいける。

 わたしはそう考えて、食材を調達する。



「ただいま戻りましたわ!」


「お、おかえりー」


「待ちくたびれたぜ」


 ハンナさんとアミアさんは机につっぷして待っていた。


 申し訳ないという気持ちと同時に、これから作る物で満たせてあげられたらと思う。


 わたしは以前作ったように、ハンバーグを作っていく。

 ただし、ミノタウロス100%ではなく、オーク肉とのあいびきだ。


 そして、それを作っている間に、以前諦めたトマトソースも作っていく。


 トマトのヘタを取り、お尻に十字の切れ込みを入れる。

 それから沸騰したお湯に20秒ほど入れ、すぐに出して氷水に放り込む。

 こうすると切れ込みの部分からめくりやすくなっているので、皮をむいて皮むきは終わりだ。


 トマトの皮をむき終わったら、フライパンに火をかけ、みじん切りにしたニンニクを弱火で焼いていく。

 いい色合いになったら、今度はみじん切りにした玉ねぎを入れ、しんなりするまで炒め続ける。


「よし、次ですわね」


 次にやっとトマトの投入だ。

 適度な大きさに切ったトマトと塩を入れ、弱火でじっくりと水分を飛ばしていく。


 その間にハンバーグに火を入れ、焼き上がりをそれぞれの皿に乗せていく。


 そして出来上がったトマトソースをハンバーグにかけ、みんなに出す。


「おー! これはハンバーグ!? しかもかかっている赤いソースは……?」


「なんだよこれ! めっちゃ美味そうじゃねーか! 早速もらうぜ!」


 アミアさんが早速ハンバーグを口に入れると、動きがピタリと止まる。


「あ、アミア? どうしたの?」


 その様子をハンナさんも不思議に思ったようで、険しい目でみている。


 アミアさんはフルフルと震えだすと、バッとわたしの肩を掴んで揺する。


「すごいぜこれは! どうなってんだ!? 酸味と甘みが抜群にあっててしかもそれが肉汁とからんでも……もう! ありえねーぞこれは!」


「そ、そんなに!?」


 アミアさんの爆発に触発されたハンナさんもすぐにハンバーグを口にする。


「うーん! 美味しい! アミアが言ってた通りだけど、ハンバーグにドロドロのトマトソースがあってて、それでいて深みもある……肉だけじゃない。カレンが作ったこのソースにトマトの美味しさがギューッと詰め込まれているのよ!」


「ありがとうございます」


「おいしー幸せー」


「うんうん。とっても美味しいね」


「カレンの作る料理は最高だニャ!」


「ピー!」


 みんなが美味しいと言ってくれるので、わたしもとても嬉しい。


「でもさ、これ……どうやって屋台で販売するの? パイにする感じ? パイって時間結構かかるから大量に作るにはきびしくない?」


「ええ、その点については今すぐにお出しできなかったので、明日をお待ちください」


「そうなの? 楽しみね!」


 そんなことなどがあり、ハンナさんには前日から含めて3日間ひき肉の処理をお願いしたり、器の調整をしたりなどして、あっという間に時間が過ぎていった。


 大会の3日前からは屋台も休みにして、味付けの最終調整や、現場の確認等やることは山積みだった。


 そして、あっという間に大会当日になる。


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