第27話 大会の知らせ
「カレン! たいへん! たいへんよ!」
ハンナさんが慌ててわたしの屋台に飛び込んでくる。
目の前のお客様も目を丸くし驚いていた。
「どうされたのですか?」
「店を巡る大会が開かれることになったの! そんで、カレンにも大会参加の資格が与えられたのよ!」
「本当ですか!?」
嘘!? こんないきなり!? 貴族の依頼は1度しか受けていないが、ヴェスカー男爵家にこれほどの力が!?
「ほんとうよ! なんでも、店主直々にカレンを指名したらしいわよ!」
「店主……直々に?」
そんな知り合いいただろうか?
「そうみたいよ。流石に一存だけで店を任せられない……っていうことで大会は開くことになったんだけど。っと、まずは報告だけ……っていうか、参加するわよね? しないなんて言われると困るのだけど」
「当然参加いたします」
「良かった。じゃ、あたしは色々と根回しとか話をしないといけないから。詳しい話は家で! それじゃ!」
彼女はそれだけ言うと、走り去っていく。
「おー、ついにこの屋台もランカーか……早いもんだな」
そう言ってくれるのは、かなり早い時期から来てくれている常連さんだ。
「ええ、嬉しいことです」
「屋台じゃなくなっちまうのは寂しいな」
「まだ勝つと決まった訳ではありません。全力は尽くしますが」
「あんたなら大丈夫だろ。行かせてもらうぜ」
「ありがとうございます。お店でもお待ちしておりますわ」
「へっ勝つ気しかないじゃねぇか」
そう言って、常連さんは去っていく。
屋台の大会? の話はおいておいて、普通に仕事をしていく。
色々と準備をしたい気持ちではあるけれど、それもこれも話を彼女に聞いてから。
だから、今は仕事に集中しなければ。
「ありがとうございました」
わたし達は仕事を終え、片づけを手早く済ませて翌日の準備をする。
そして、いつもの調理器具の手入れをきちんと終えた頃には夕方になっていた。
「いつも思っていたけど、手入れは必要ニャ?」
「ええ、これが出来ない者に、調理場に立つ資格はありませんわ」
「なるほど……1時間もかけているのはそういうことニャ?」
「ええ、たとえ九尾の魔法で作られ、1週間でなくなるとしても。それでも、わたしの大切な道具です。手を抜くことは考えられませんわ」
「なるほどニャ。流石カレンニャ。料理への想いがちがうニャ」
そんなやりとりを終え、わたし達は急いでハンナさんの元に向かう。
「あ、ちょうど来た。カレン! こっちよ!」
「ハンナさん!」
ということで、彼女と一緒に家まで行く。
ルールなどを聞きたかったけれど、彼女は家に帰ってからとさとされてしまった。
「さて、それじゃあ説明するわね」
ということで、ハンナさんの家についたので、彼女から詳しい説明がされる。
彼女の説明をまとめるとこんな感じ。
今回の店を巡る大会というのは、本当にかなりの規模の大会らしい。
具体的に言うと、街の中心部辺りにある大きな広場をこのために貸切ることになっているとか。
そこに屋台ランキング等を元に選ばれた30の屋台がひしめき合い、売り上げを競うらしい。
一番多くの売り上げを出した屋台が勝者となり、その主が料理店の経営を任せてもらえるようになるという。
時間は9時の鐘から19時の鐘の間の10時間で3日間続く。
「これは……だいぶ不利ですわね」
「……まぁ、そうね」
「どうしてニャ? カレンなら余裕ニャ!」
ソラがそう言ってくるので、わたしは説明する。
「わたしが基本的に1人だからですわ」
「それがどうかしたかニャ?」
「今回のルールは、人数を集められる方が圧倒的に有利なのです」
「人数を集めるニャ?」
「ええ、わたし1人で料理できる数には限度はあります。しかし、昔からこの辺りで屋台をやっていれば、複数の料理人を抱えていたり、知り合いの料理人に助けを求めることもできるでしょう。そうなると、腕のいい料理人が5人いたら、それだけ多くの料理が作れるのです。数は力ですわ」
わたし1人で2000ゴールドの料理を1つ作るより、5人で1000ゴールドの料理を5つ作った方が売り上げとしては上がる。
それが同じ時間かかるとしたら、どう考えても後者の方が有利。
まぁ実際の店を運営するという時に1人だけでできるのか……と聞かれると難しいだろうから、仕方ないのかもしれない。
「そんニャ……」
ソラは悲しそうにヒゲを下げうつむく。
わたしはそんな彼の頭をそっと撫でた。
「ですが、まだ決まった訳ではありません。ハンナさん。過去に優勝した方々がどのような料理を作ったのかということや、どういう制作体制だったのか聞きたいですわ」
「もちろん、ちゃんと準備してきたからね。とりあえず過去10人分は調べてきてるわよ」
「助かりますわ!」
ということで、ハンナさんが調べてきてくれたものを読んでいくのだけれど……。
「やはり人数を使ったものが多いですわね」
「だねぇ。裏では10人以上動員をかけてるとかこれは……ちょっとすごいね」
「高品質の物を低価格で……そうすれば多くの人が来る。確かに間違ってはいませんし、それで結果も出ているとなると、むぅ……」
今までわたしがやっていたのは、低価格で多くの人が買いやすいように。
ということでやっていたものだ。
けれど、このままではどうあがいても人海戦術をして仕掛けてくる相手には勝てない。
この街で知り合いの料理人はいないし、そもそも信頼できる料理人かも分からない。
「なら、やるのは……これですわね」
わたしはその中で、唯一といってもいい解決策を示してくれた先人の資料を見る。
「そうね。屋台の大会っていうことで、高価な料理も許される。むしろ、高価な料理を食べてみたい。ということで買ってくれる人は結構いるのよね」
「ええ、まさか屋台ランキング1位の方が優勝しているとは思いませんでしたが」
そう、以前わたし達が食べたミノタウロスサンドの店主。
彼がこの大会で優勝していたらしい。
でも、なんで彼はいまだに屋台を続けているのだろうか?
教えてくれるのはハンナさんだ。
「彼は屋台であり続けることに意味を見出してるみたいよ。店というのもいいけれど、屋台というさっと食べて去っていける。そんなのを大事にしているんだってさ」
「なるほど」
彼には彼の哲学がある。
だが、今大事なのはそこではない。
彼のようなやり方、ミノタウロスサンドのように高価格な料理で勝負するしかない。
「手頃な料理を作るのがわたしの好みではありますが、それだけで解決出来るほどこの大会は甘くないでしょう」
「そうね」
「だからこそ、わたしは自分の作り慣れた料理だけに頼らない。そして、高くともその価格に見合った料理を作りたい。わたしはそう思います。ハンナさん」
「なに?」
「これからずっとお試しを作りますので、ご協力お願いいたしますわ」
わたしが彼女にお願いをすると、彼女は笑顔で答えてくれる。
「まっかせて! 全部平らげてあげるわ!」
「ありがとうございます」
手頃な価格の食事を多くの人に。
それがわたしのやりたいことではあるが、高価格の食事を作らないという訳ではない。
むしろ、そこで自分に制限をかける方が料理の幅を狭めてしまう。
わたしは、あらゆる料理を作り、食べてもらい、美味しいと言ってもらう。
このために、わたしは料理を作り続けるのだ。
「では、早速今日から試作ですわね」




