第26話 再誕
フェニックスが燃えながら暖炉につっこみ、灰になった。
「どうして……」
わたしは訳が分からず、ただ暖炉の前に立ち尽くす。
フェニックスの灰をただ見つめることしかできない。
「ん?」
しかし、その灰がもごもごと動く。
なにが起きている?
そう思って見ていると、真っ赤な……深紅の鳥が飛び出してきた。
「フィィィィィィイイイイイ!!!」
「フェニックス!?」
ただ、さっき燃え尽きたフェニックスよりも少し大きい。
フェニックスは火の粉をまき散らしながら、リビングの中を優美に飛ぶ。
そして、何回か旋回を終えた後、わたしの肩に止まった。
あ、ちょっと重くなってる。
「フィ?」
「いえ、何も言っていませんわ」
何か感づかれたような……いや、気のせいだろう。
「というか、どういうことですの?」
わたしは聞かずにはいられない。
すると、九尾が説明してくれる。
「彼女なりの演出らしいよ」
「演出?」
「フェニックス復活劇。ってね。確か……どこかで王族とかの誕生日は祭りをやる。っていう話をしただろう」
「あー確かにハンナさんとしましたわね」
「その時に聞いていて、そろそろ復活の時期だからちょうどいいと思ったらしいね」
「復活の時期?」
当たり前のように話すのをやめてほしい。
「そう、フェニックスは数年に1度、炎になって燃え尽き灰になる。灰になった後は身体を作り変えて復活する。この時に少しずつ成長していくんだよ」
「そうなのですか……」
「そう。それで、今回はどこで燃え尽きようか、街中だから迷っていたんだけど。今回の依頼でちょうどいいからと話したらそれでいこうとなったんだ」
「わたしにも話してくださいませんか?」
「驚かせたかったみたいだよ」
「心臓が止まるかと思いましたわ……」
サプライズで死ぬ話はまじで心臓に悪い。
「まぁ、無事でしたら良かったです。と、皆さま、お騒がせして申し訳ありませんでした」
わたしは騒いだお詫びに頭を下げる。
「いやいや、フェニックスの復活なんてめったに見れるもんじゃない。素晴らしいよ!」
という感じの意見しかなく、特に問題にならなかった。
「ふぅ、驚きはしましたが、楽しませようと考えてくれた気持ちはとても嬉しいですわ。ありがとうございます。フェニックス」
「フィィィィィィィ!」
「ん? 何か……求めているような……」
なんだろう。
フェニックスが、わたしに何かしろと言っている気がする。
「名前をつけて欲しいんじゃないのかな」
「え? いいのですか?」
「うん。元々ソラのタイミングでもいいかな。と思っていたんだけど、いいタイミングがなくて迷っていたらしい」
「そう……なのですか?」
「フィィィィィィィ!!!」
フェニックスはうんうんと頷く。
「そう……なんですの? なら……どうしましょうか」
フェニックス……彼女の名前はなにがいいだろうか。
燃え立つような赤だったけれど……彼女から放たれる炎はきれいなオレンジ色。
どちらかと言えば、紅葉色だったように思う。
「フェニックス。あなたのお名前はモミジではいかがでしょうか? あなたの出すきれいな色の炎を見ていて思いました」
「フィィィィィィィ!!!!」
フェニックス……いや、モミジは納得してくれたのか、身体がほのかに光る。
「フィィィィィィィ!!!」
モミジはこれからもよろしく、とでも言いたげにわたしのほほに頭をこすりつける。
「ええ、これからよろしくおねがいしますわ」
わたしはモミジの美しく、サラサラと滑る身体を抱くようにしてなでる。
ということで、従魔が2人に増えた。
これからも長く……一緒にいられるようにしたい。
そんなことがありつつも、フレアちゃんの誕生日は大盛況の内に幕を閉じた。
すべての片づけが終わった後、男爵様に呼ばれた。
彼の執務室で、わたし以外にはソラ、モミジ、九尾とハンナさんだ。
「お疲れ様でした。今回はなにか問題はありましたか?」
「いや、ない。本当に……本当にいい誕生日にしてくれた。感謝する」
彼はそう言って、頭を下げる。
「そんな、頭を下げる必要なんて」
「いや、最初に君を侮って失礼な態度をとってしまった。そのことも含めている」
「知らない小娘なのですから当然でしょう。かまいませんわ」
それに、料理をするのは本当に楽しかった。
屋台で売るのもいいけれど、こうやって同じ人たちに色々な料理を作る。
これもまたいい。
「いや……娘は……フレアは本当にあのケーキが好きで……あれが出た時はあれ以外食べなくなるくらいなんだ。それを……食べないというのは驚きだ。信じられなくてね」
「それは……良かったですわ。ぜひともまた呼んでください」
「いいのか? 屋台も忙しいのだろう?」
「ええ、屋台もいいですが、お店も欲しいので」
「ああ、貢献度か。なるほど、一番いい評価で報告させてもらおう」
彼はそういってハンナさんを見る。
ハンナさんは特に何も言わず、ただ静かに頭を下げた。
「と、他に君の力になれることはあるかな?」
「えっと……なぜ……でしょうか? 料理を作っただけ……だと思うのですが」
「ここに来て時間は経っていないんだったね。この都市ではいい料理人はそこらの貴族よりも守られるから。そういう打算だってある」
「なるほど」
そこまで料理人の力というのはつよいのか。
そして貴族としても、いい料理人とは繋がっておきたいと。
「後は、普通に……君の料理のとりこにされてしまった。我が家で専属の料理人にならないかい?」
「男爵様」
ハンナさんがすかさずそれを止めるが、わたしはちゃんと断りを入れる。
「申し訳ありません。わたしはやらなければならないことがあるのですわ」
「なるほど、店を自分で……かい?」
「ええ。自分の名前をつけ、お父様に探しやすくしてもらう必要があるのです」
「どういうことか聞いても?」
力になってくれるとのことだったので、今考えていることを話す。
「なるほど……そんな事情が……君の故郷の国の名前は?」
「ブランルールという国です。商人ギルドの受付さんは知りませんでした」
「なるほど、城の方で知っている人がいないか聞いてみよう」
「よろしいのですか?」
「ああ、ダメかもしれないが……一応ね」
「ありがとうございます」
「構わない。またあったら頼むよ」
「はい。こちらこそ」
ということで、今回の依頼は達成された。
報酬はのちほどギルドから支払われるとのことなので、後日行くと……。
「これ……多くないですか?」
報酬は5万ゴールドと聞いていたのだけれど、それよりも多い気がする。
「成功報酬に加えて、追加で支払いたい。っていうことで2万ゴールド追加されているわ」
ハンナさんはそう気兼ねなく答える。
「あるんですか?」
「高位貴族の時はそれなりにあるみたいね。でも、男爵ではほとんどないわ。誇っていいと思う」
「そう……ですか。ありがとうございます」
「こっちこそ楽しかったわ。またあったら言うわね」
ハンナさんはそう笑顔で言ってくれる。
「ええ、いつでもお待ちしております」
それから、わたし達はいつもの屋台に戻る。
だが、あくまで今回は臨時の話。
すぐに屋台の日常に戻ると思っていたのだけれど……。
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「カレン! たいへん! たいへんよ!」
男爵家の依頼を終えた翌日、ハンナさんが慌ててくるまでは。




