第25話 貴族の感想
「わたし、今日はこれだけを食べたい!」
わたしは、フレアちゃんがそう言うのを聞いていて、とてもうれしくなる。
トマトソースを作っても良かったかもしれない。
でも、作らなくても彼女はとても笑顔だ。
後ろの暖炉に火がついているので、熱くなっているだけではないだろう。
なら、わたしはそれで満足できる。
そのことを確認し、わたしはキッチンに戻って調理を続ける。
リビングに来たのは料理を配膳するためと、フレアちゃんが気に入ってくれるかを確認するため。
それが終わったのなら後は料理人は用済み。
料理の続きをしなければ。
ただ、チラリと見た室内は、少し厳重な……というか、警戒されていたように思う。
男爵家の使用人は2人だけと聞いていたが、壁際にいるのは10人以上もいる。
その中の数人はわたしにするどい目をむけているので、間違いではなさそう。
調理場にも1人、お手伝いということで入ってきていて、邪魔にならない所に立ってもらっている。
お客様はみな美味しそうに食べてくれていて、早く揚げなければ足りなくなりそうだ。
でも、フレアちゃんのとなりにいた人は誰なのだろう?
お誕生日席と同列……ということは、位が上の人……。
ということで考えていくべきか?
アプローチをして、名前を売っていくべきか……。
店を構えて、お父様達がわたしを見つけやすいようにする。
そのためにやっても悪くはない。
悪くはない……が。
「いけませんわね」
意識が料理から飛んでいた。
今のわたしは料理人。
お客様が喜べるように、最高の料理を作ることに集中するべきなのだ。
ということで、わたしは集中して料理を作っていると、リビングのメイドさんに呼ばれる。
「少々よろしいでしょうか?」
「…………」
「あの、少々よろしいでしょうか?」
「…………」
「あ、あの? これ、触っても大丈夫なやつですか?」
わたしは集中して揚げ物を見ていた。
耳から何か音が聞こえるなと思っていたけれど、意味を理解していない。
「こうなると……少し待った方がいいね」
「はい……かしこまりました」
わたしは揚がった瞬間を見つけ、さっと油からあげる。
「よし、次は……わ!」
「えぇ……本当に気づかれていなかったんですね」
「あ、あの。なにか?」
リビングの壁際に並んでいたメイドさんがわたしの背後にいた。
「ええ、料理について聞きたいことがあるからきてくれないか……と」
「そうですわねぇ……」
わたしは少し考える。
第2陣の料理はほぼ出来終えている。
次の仕込みを終えてから行きたい所だが……。
「わかりました。行きましょう」
仕込み自体はだいたい終わっている。
これから出す料理は、油をしっかりと切るのを確認して、持って行けばいいだけだ。
「ありがとうございます。ではすぐに料理も……」
「いえ、あと数分はお待ちください」
「え? でも行くって……」
「これらの料理と同時の方がいいでしょう。タルタルソースも作らないといけませんし」
「……かしこまりました」
ということで、行くとは言ったが今すぐとは言っていない。
そういう理論でタルタルソースの追加を作り始め、それぞれの皿にまとめていく。
大皿で自分が食べたいものだけを食べる。
というように考えていたのだけれど、そういうのとは少しちがっているようだ。
大皿でもっていくんだけれど、それを、自分は何を何個食べたい。
という自己申告制で食べていくらしい。
なので、フレアちゃんのは全て皿に盛ったけれど、他の物は大皿だけ渡した。
後はこのメイドさん達がやってくれるようだ。
しかし質問か。
わたしに聞くようなことはあるのだろうか?
そんなことを頭の中で軽く考え、皿に盛り付けていく。
「では行きましょう。運ぶのをお手伝いしていただいても?」
「もちろんです」
ということで、メイドにも手伝ってもらい、料理をリビングに持っていく。
そして、リビングに持っていくと、数人の貴族の方々が詰め寄ってくる。
「君! とても素晴らしい料理人だね! こんなに美味しいのは食べたことがないよ!」
「全く知らない料理ばかりよ! こんな素敵な料理があるなんて知らなかったわ!」
「すごすぎて最初に食べた時は口が開けなかった! 別世界に行っている気分だったよ!」
貴族の方々の口にもあったようだ。
そう素直に言ってくれるのはとても嬉しい。
ただ、あまりにわたしに集中するのはよろしくない。
なぜなら今回の主役はフレアちゃんだから。
まぁ……そのフレアちゃんは追加の料理に目を輝かせている。
だからこっちなんて見てないだろうけど。
「こほん」
その代わりに、男爵が咳をして止めようとする。
「いやしかし、君は一体どこで料理を学んだんだね? これほどの料理人ならどこかの宮廷で包丁を振るっていたのかい?」
「こほんこほん」
「いやいや! きっとどこか高名な料理人の秘蔵の弟子という線はないでしょうか? 表に出てこれない理由などあったのでは?」
「ゴッホゴッホ」
「そんなそんな! これだけの腕の持ち主を隠し通せる訳はないだろう! たった一度の料理でその腕をみせてくれたのだから!」
「ガッハガッハ! ゴッフゴッフ」
あの……後ろでめちゃくちゃこっち見ろアピールをしている男爵様。
周囲も気まずそうにしつつも、食べる手を止めることはしない。
男爵様はわたしに止めろとでも視線をくれるけど。
いやそんなわたしが出来るわけないでしょう?
こちとら儚いさすらいの令嬢ですのに。
「そういえば、今回の料理は持ち帰ってもいいのかね? これだけ美味いんだ。家族にも食べさせてやりたい」
「それはダメですわ」
わたしは少し大きめに声を出す。
貴族の方々は驚いて動きを止める。
「ええと、申し訳ございません。ただ、お持ち帰りはおやめください。ハンバーグも天ぷらも時間をおくと味が落ちます。これは作りたてを食べるべきものですので」
「そ、そうか、だがフライとソースなら……」
「そちらもいけません。フライは……フライだけなら食べれなくもないですが、タルタルソースは決して認められません。もし、放置した物を食べると、病にかかってしまうかもしれませんので」
「そうなのか!?」
フレアちゃん以外の手が止まる。
「ええ、ですが、ここで食べる分には問題ありません。ちゃんとわたしが管理し、問題ないことは確認してからお出ししています」
「屋台でも出していると聞いたが?」
「揚げている最中に必ず説明をしていますわ。常連さんに時々省くことはあっても、基本は必ずしています。ですので、ご了承いただきたいですわ」
「なるほど……なら仕方ない」
ふぅ。
これはしっかりと伝えておきませんと。
「そうか……君はそこまで考えて料理をしているのだね」
「ええ、そうしなければなりませんから」
笑顔にする料理で、お客様に苦痛を与えていいはずがない。
わたしは、お客様の笑顔が見たいのだ。
「そうかそうか、しかし、君は……貴族のうしろ……」
「カレン!」
わたしを強烈に叫ぶ声が後ろから聞こえる。
その声の持ち主はソラだ。
わたしはすぐに後ろを向いた。
「ソラ、どうし「フェニックスが!」
わたしはすぐにキッチンへと戻る。
扉をバン! と開け放ち、フェニックスを探す。
フェニックスは九尾の上で燃えていた。
「フェニックス!? それに九尾も……」
「ああ、これは……」
九尾が何か言おうとした瞬間、フェニックスが強烈に燃え上がる。
その身を焼き尽くさんとする程に燃え盛り、九尾でなかったら大変なことになっていただろう。
「フェニックス!」
どうして、なぜ。
そう思うが、フェニックスは燃え、九尾の上から飛び立った。
「フィィィィィィィィ!!!」
高らかな声で叫び、わたしの頭上を飛び越え、そのままリビングに入り、暖炉に飛び込んで強烈に燃え盛った。
「フェニックス!」
わたしが近づくころには火はあっという間に消え、そこには灰だけが残っていた。
「どうして……」




