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第23話 男爵家の依頼

 わたし達は朝からヴェスカー男爵の家に来ていた。

 なぜ朝からなのか? ということであれば、純粋に誕生日は昼にやるものらしい。

 平民の人達は普通に夜らしいのだが、大貴族とかが昼……なんなら朝からお祭り騒ぎをするらしい。

 それにならってせめて貴族なら昼に開催を……ということなのだとか。


「まぁ、昼でも夜でも構いません」


 それに、夜だとフェニックスが疲れて寝てしまう。

 最近すこぶる調子が悪いので、正直心配だ。

 今後も何もなければいいのだけど。


 わたしはそんな気持ちを胸の奥にしまい、扉のベルを鳴らす。


 ガンガン!


 金属と金属がぶつかる割とがっつりしたものだ。


「はい。どちら様でしょうか」


「調理の依頼を受けたカレンと申します。入ってもよろしいでしょうか?」


「料理ギルドのハンナです。今回の付き添いをさせていただきます」


 ちなみに、今回はわたし、ソラ、フェニックス、九尾にハンナさんだ。

 貴族からの依頼ということで、最初の頃はギルドの方がついてきてくれるらしい。


「承っております。どうぞお入りください」


 ということで、わたし達は屋敷の中に入る。


 屋敷……と言っても、日本の2階建ての住宅2つ分くらいの広さしかない。

 貴族と言えど、都市という城壁に囲まれた場所ではそこまで大きくは出来ないようだ。


 家の中は想像よりは広い……というか、玄関からすぐにリビング……という感じだろうか。

 20人くらいはゆったりできそうな広さで、一部屋一部屋が大きいのかもしれない。

 左側には暖炉があり、そこから伸びるように長いテーブルが置かれていた。


「あ! おねえちゃん!」


 リビングにはすでに人がいて、あの少女……名をフレアちゃんと言うらしい。


「おはようございますわ。今日は楽しみにしていてくださいな」


「うん! いっぱい食べていいって聞いたから! いっぱいたっくさん食べる!」


「ええ、満足いくまでの量をお作りすることをお約束します」


「うん!」


 彼女の笑顔は見ているこっちも笑顔になれるような素敵な笑み。

 わたしの料理で、本当に喜んでほしい。

 そう思える相手だ。


「フレア。そろそろ着替えに行きますよ」


「うん!」


 フレアちゃんはわたしとあいさつをした後、彼女の母だろうか? 貴族の女性に連れていかれる。


 彼らがいなくなった所で、わたしはこの屋敷の主の方に向かう。


 ここの主人はフレッド・ヴェスカー男爵。

 どこにでもいるような()えない風貌(ふうぼう)……だけれど、メガネの奥でじっとわたしを品定めしている。

 髪は茶色で瞳はフレアと同じ群青色だ。

 きちっとした性格らしく、他に貴族の姿は見えないのに服はすでにピシッとしている。


 わたしはスカートをつまみ、優雅にあいさつ。


「初めまして、この度はわたしにご依頼いただきありがとうございますわ」


「フレアがどうしてもと言ってね。それで頼んだのだよ。娘をがっかりさせないでくれると嬉しいな」


 彼はあいさつもそこそこに、そう言ってくる。

 貴族としてのプライドか、それともぽっと出の人間を警戒しているのか。

 どちらにせよ、わたしがすることは変わらない。


 わたしは顔を上げて彼に答えた。


「もちろんですわ。期待してお待ちいただけると幸いです」


「……少し変わってしまったことがあるんだ。人数が1人増えたのだが、問題ないかね?」


「ええ……問題ありませんわ。食材等はお願いした量はその分増えているのですよね?」


「当然だ。ちなみに……君の従魔達は……問題ないのかね?」


「問題とは? 一切ありませんわ」


「……期待している」


 何か意味深な目線をわたしだけでなく、みんなにも向ける。

 正直いい印象はない。


 けれど、わたしは料理人としてきている。


「早速キッチンに案内していただいても?」


「ああ」


 ということで、フレア嬢についていた従者の女性に案内されてキッチンへと向かう。


「こちらになります」


「おお、結構しっかりとしていますわね」


 シンク、コンロといっても薪のやつだけど、(かま)、調理台、冷蔵庫等々。

 ちょっと古めかしいけれど、必要なものは全て揃っている。


「ええ、食材は基本的にそちらの魔導冷蔵庫で保管されています」


「中のものは好きに使っていい。ということですわね?」


「はい。その通りです」


「では早速調理に入らせていただきますが、問題ございませんわね?」


「時間は2時間後です。よろしくお願いいたします。私はリビング等で仕事をしていますので、必要があればお声がけください」


「わかりました」


 そうして従者の人がキッチンからいなくなると、ソラが怒り出す。


「なんなのニャ! おまえらの依頼で来てやったのに! どういうことニャ!」


 ソラがプリプリとしているので、わたしはそっと慰める。


「仕方ありません。貴族というのは、色々と体面など気にしなければいけません。依頼できたよくわからない料理人に頭を下げたなんて噂が広まるだけでもたいへんですのよ」


「そうニャ? でも……許せないニャ」


「ありがとうソラ。わたしのために怒ってくださって。ですが、わたし達がやることは料理であって貴族として振舞うことではありません。ですよね? ハンナさん」


「う、うん。そうだよ。カレンって本当に貴族なんだね……あれだけ堂々としててすごいよ」


「そうですか? 別にあれくらいは普通だと思いますが……」


 そこまで言って、自分がやることを思い出す。


「と、無駄口はここまででいいでしょう。早速準備をしていきますわ!」


「ニャー!」


「ピー!」


「やろうかね」


「お、おー?」


 ということで、早速調理の下ごしらえをしていく。

 多少作りすぎても、先ほどの従者等も多少は食べてくれるらしいので問題ない。


 というか、こちらには全てを綺麗にしてくれる頼もしい仲間がいる。

 作りすぎるということはないだろう。


 ハンバーグは成形して、後は火を入れる段階にしておく。

 ハンバーグの種は冷蔵庫で冷やしておくと、より肉汁が出て美味しくなる。


 フライと天ぷらの下準備だけはしておき、後は時間が来たら順次揚げていく。

 こうすることで、お客様に出来立てアツアツを食べていただける。

 目の前で調理……という屋台の方式は取れないが、美味しく食べてもらえるのであればいい。


 それらの準備を11人分……人数分よりもだいぶ多く作ってしまったけれど。

 ソラや九尾に手伝ってもらいながらやったけれど、特に問題はおきなかった。


「ふぅ、順調すぎて怖くなりますわね」


 あと1時間くらいは余裕がある。

 食材は後は火入れをするだけで、油もフェニックスに頼んで温めればすぐに揚げ始められる。


「それだけカレンの手際がいいということ。追加で作ってみてもいいんじゃないかな?」


「そうですわねぇ。時間もあるので慣れている品でしたら行けそうなのですが……」


 わたしはガサゴソと冷蔵庫を漁る。


 何かないかな……と思って漁ると、トマトのような野菜を見つけた。


 はて? トマト……はこの時期にないはず……?


 そう思って手を止めて、考えを巡らせる。


「!!!」


 しかし、地球では確か、この時期もギリギリ旬ではあったはずだ。

 涼しくなった時期からちょうどよい感じで取れる。

 地球と旬が似ているので、そのことを調べるのを忘れていた。


 今から作り始めたとして、1時間で作れるかはギリギリだ……。


 わたしはトマトを一つとって洗い、少し切って食べる。


「美味しいですわ」


「お、今から作るのかい?」


 わたしは九尾の言葉に悩むが、決める。


「………………止めましょう」


 わたしはぽつりと自分に言い聞かせるように漏らす。


「いいのかい? 美味しいんじゃないのかい?」


「美味しいと思います。けれど、審査会のようなイレギュラーがない限りは、事前に作っていたメニューがいいと思います」


 ただ新しい物を出せば正解という訳ではない。

 それに、トマトには独特の酸味がある。

 子供にはそれが確実に好かれるという保証もない。

 また、大人たちだけのためにトマトソースを作って出す。

 すると、フレアちゃんは自分のだけないと……悲しむかもしれない。


 考えすぎ、そう言われればそうかもしれない。

 でも、ただ料理を出すのではなく、食べてくれる人ができる限り喜んでくれるように努力する。


 わたしはそのために手を抜かない。


「わたしは今回はこの選択をいたしますわ」


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