第22話 子供の誕生日と言えば
翌日、わたし達は普通に屋台の仕事をしていた。
子供が誕生日に食べる料理を考えたいとは思っているが、こちらを適当になんてできない。
わたしの作る料理を待ってくれている人達がいるのだから。
ということで、色々と考えながら料理をしていて、常連さんや来てくれた人でも珍しい格好をしている人達に聞いていく。
「子供が誕生日に食べるもの? そりゃオーク肉のステーキだろう! 分厚く切った肉をこれでもかってくらい食えるんだよ」
「鳥の丸焼きかしらねぇ? 1羽丸々のお肉は食べ応えあって素敵よ」
「キングサーモンの丸焼きだな! キングサーモンを知らない? 1mくらいのでっけぇ魚でな。それを丸焼きにするんだよ! これが美味くてなぁ!」
等々、とりあえず肉! っていうのが一般的な様だ。
ただ、全員が全員祝うのではなく、祝わないという人も結構いた。
そんな中、旅人らしき人もきてくれた。
「こんな時期に旅というのは厳しくないのですか?」
季節は冬に入りかけている最中だ。
正直、この季節の旅は死を覚悟してもおかしくないと思う。
「はは、確かにな。でも、この辺りだったらそこまで寒くはない。意外といけるもんさ」
「旅の途中の食事というのはどういうのか聞いても?」
「ああ、旅をしたいのかい? おすすめはしないよ。カッチカチになったパンを歯で削りながら食べるんだ。肉だって塩辛いからな、スープにしなくちゃ食えねぇ」
「厳しいんですのね」
「ああ、だが、これはいいぞ」
彼はそう言って、革袋から動物……の腸? に詰め込まれた何かを出す。
「ソーセージだな。これは日持ちがするからあると便利だぜ」
「なるほ……ど」
その瞬間、電撃が全身を打った気がする。
「どうかしたかい?」
「いえ、なんでもありません。ありがとうございますわ」
「こっちこそ、ここで美味い飯が食えて助かってるぜ」
そう言って彼は去っていく。
その日の夜。
わたしは再びミノタウロスの肉を購入し、ハンナさんの家に来た。
これから食事を作るのだけれど、九尾の手伝いがいる。
「九尾、少しお手伝いいただいてもよろしいですか?」
「いいよ」
九尾がのそりと起き上がり、すでに眠っているフェニックスを頭の上に乗せてきた。
「これからこのお肉をシャリッとするくらいまで冷やしていただけますか?」
「わかった」
九尾はわたしの言葉を聞いて魔法をかけてくれる。
「やったよ」
「では、このまな板の上をずっと冷やしていただいてもいいですか? 水が凍らないくらいの温度で」
「カレンは寒くないのかい?」
「寒いですが、調理に必要ですので」
「無茶はしないように」
「大丈夫です」
ということで、まな板の上を冷やしてもらいながら、わたしはミノタウロスの肉を薄切りにしていく。
それから、ミノタウロス7、オーク3の割合で肉を重ねる。
オーク肉には脂が多いので、これでいけるはず。
わたしは包丁を2本もってひたすらに叩き続ける。
「チタタプチタタプ」
「それは意味があるのかい?」
「……いえ、ありませんわ」
6人分の食事となると、やはり結構な労力になるのだ。
ちょっとただやるよりも言ってみたかっただけ。
と、肉を叩いてミンチにし、混ぜてちょうどよい感じにしたら、ほんの少量のハチミツを混ぜ込んでおく。
これをすると、ミノタウロス肉の臭みは多少なりとも消せるはず。
これを冷やしながら待っておいて、その間に玉ねぎを炒める。
玉ねぎ等の野菜は自由に使っていい。
ハンナさんがそう言ってくださっているので問題ない。
わたしは玉ねぎをみじん切りにして、バターを溶かしたフライパンで弱火で炒めていく。
じっくりと時間をかけて炒め、薄茶色になった所で大き目のお皿に広げて冷ます。
冷ますのは当然九尾にお願いする。
そして、肉と玉ねぎが冷えるのを待っている間、玉ねぎをすりおろす。
すりおろした玉ねぎにパン粉を混ぜて待つ。
これで下準備は終わった。
わたしはハチミツを混ぜた肉を確認し、問題ないことを確かめた。
「よし、これならいいですわね」
手順などを確認していると、九尾から報告が入った。
「玉ねぎはもう冷めたんじゃないかな」
「ありがとうございますわ」
ということで、わたしはボウルに冷ました肉と、塩を入れて木べらで混ぜ始める。
ある程度混ざったことを確認したら、次は冷ましていた玉ねぎ、すりおろした玉ねぎに浸したパン粉、卵、胡椒を混ぜていく。
手早く、確実に。
手の熱が入らないように気をつけながら。
混ざったのを確認したら、1人分のサイズに丸め、1人キャッチボールをして空気を抜く。
回数は10回程度で大丈夫だ。
中央は少しだけ凹ませて。
そして、それらをトレーの上においておき、フライパンに火をつける。
火加減は中火に、
「フェニ……いえ、なんでもありません」
フェニックスの力を借りようとしたけれど、わたしはやめる。
今も気持ちよさそうに寝ているので、邪魔することははばかられた。
中火になったのを確認し、大き目のフライパンを温める。
そこにオークの油を入れ、温まったら丸めた肉を入れる。
まずは1分半くらい、そして、焼けたと思ったら裏返して1分。
そして、後は中にしっかりと火を通すために蒸し焼きにする。
フライパンのふちから水を入れて、フタをして5分ほど待つ。
この時に火は弱火にしておく。
じゃないと火が入りすぎる。
時間が経ったらそれらを皿に盛り付けて完成だ。
大丈夫だと思いつつも、とりあえず味見をする。
うん、美味しい。
きっとみんなも喜んでくれるはず。
「完成しましたわ!」
「これは……?」
「これはハンバーグですわ。味付けは塩のみですが、これでも十分に美味しいのでぜひとも味わってみてください」
すると、みんながそれぞれのハンバーグにかじりつく。
「す、すごい……なにこれ……なにこれ!? ミノタウロスの肉ってこんなにも柔らかくなるものなの!? それに、これだけ柔らかいのに肉汁がすごく残ってる! ミノタウロスの肉を普通に食べるよりも肉汁が出てくる気がするよ!? やばい! すごいよこれ! 世界の発明だよカレン!!」
「こりゃすげぇぜカレン! 美味過ぎる! 肉汁で溺れるかと思っちまったぜ! 塩味だけっていうのも肉本来の旨味を引き出しててより味わえて最高だ! 香辛料を使っていないから、肉本来の美味さを知れる最高の料理だ!」
ハンナさんとアミアさんはそう言って美味しそうに食べてくれる。
「美味しいニャ! 肉汁を全部飲むニャ!」
「ピー!」
「うん。ミノタウロスの肉はこんなにも美味さが詰まっていたんだねぇ。それを引き出すカレンは素晴らしい」
ソラは皿の上にこぼれた肉汁を舐め、フェニックスは上からつついて器用に食べている。
九尾も美味しそうに食べてくれて、みんなが満足してくれていた。
「良かった。美味しかったでしょうか? これを……ヴェスカー男爵様の娘さんの誕生日に出してもいいと思いますか?」
「問題ない! むしろあたしが食べたい!」
「オレも参加させてくれ!」
みんなが口々にそう言ってくれるので、料理に関しては問題なさそうだ。
期日までわたしは味の調整を何度も繰り返す。
そして、依頼の日、わたしは朝から貴族の方の家に来ていた。




